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VA-11 Hall-Aとことば DAY 5 「バックドアねじ込んでえぇっ!」

VA-11 Hall-Aは日々4、5人程度訪れる客との会話で進行します。その会話ひとつひとつの取り留めなさ、面白さは古くよりしばしば言及されることですが、一方で繰り返し取り上げられる話題もあります。本連載でも、名前を知ることの重要性は取り上げました。DAY 5では、ジェンダーの話題があります。瓶詰めの脳であるテイラーの性自認、5人姉妹のひとりが弟になり名前も変わったという性転換を示唆する打ち明け話をするアルマ……ストーリー上で繋がりをもたせるのではなくモチーフを反復させるという語り口はいかにも文芸的で、VA-11 Hall-Aのテキストの大きな特徴と言えるでしょう。

12月17日 土曜日

それはそれとして最高のやつです。リリムのドロシーが、ハッカーのアルマとはじめて出会ったときの会話です。アルマがコンピューターへ侵入する自分の仕事を説明するために繰り出す単語にドロシーが興奮してしまうという場面で、バッファーオーバーフロー、バックドア、権限昇格攻撃など馴染み深い攻撃手法が下ネタとして昇華されていてVA-11 Hall-Aらしさに満ちていますね。

原文は「Create a backdoor in me!」。おいおいバックドアを作るのはわかるけど「ねじ込んで」はどこだよとお思いのあなた、これは「in me!」のニュアンスを拾った素晴らしい淫語です。ちなみに「Make my buffer overflow!」は「あたしのバッファーあふれちゃうっ!」。この会話の前段でもバッファオーバーフローの話はあるのですが、IT用語のためそのままは使わず、バッファをあふれさせると翻訳していることで、ここで「あふれちゃうっ!」という淫語へスムーズに繋げている巧みさ。「Find flaws in my securityyyyy!!」を「あたしのセキュリティにお仕置きしてえぇん!」とかなり意訳気味に訳しているのも神業であり、マグヌム・オプスと呼ぶに相応しい翻訳です。かくありたいものです。憧れますね。

さて、先日はじめて仕事として成人指定ゲームを翻訳しました。仕事なので仕方なく、仕方なく参考文献を揃え、しぶしぶ成人指定ゲームを買い揃えて言語感覚を掴み、今どんな淫語を書くべきか自分なりに研究しました。勉強のためにプレイしたゲームのひとつはもちろんVA-11 Hall-A。なぜならVA-11 Hall-Aもまた特別な淫語が出てくるゲームだからです。

VA-11 Hall-Aとことば Advent Calendar 2023 9日目

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