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VA-11 Hall-Aとことば DAY 3 「“ネオティフアナで起きたことはネオティフアナに留めておけ”ってことわざもあるしね」

よく言われるキュウリのジョークはじめ、VA-11 Hall-Aには数多の下ネタが登場します。それも、日本の成人指定作品でよくあるような、バカバカしすぎてギャグにしかならない下ネタというよりも、かなり生々しいトーンで下ネタが語られるので、時として目を覆いたくなるような気恥ずかしさすらあります。それもまたバーという舞台の為せる業でしょう。

12月14日 木曜日

ドロシーは少女の外見をしたリリム(VA-11 Hall-Aの世界におけるアンドロイド)である常連の一人で、セックスワーカーとしての仕事前に一杯ひっかけに来ます。常日頃から会話の大半が下ネタですが、アルコール多めのカクテルを提供すると酔っ払ってより過激なトークを口にします。「“ネオティフアナで起きたことはネオティフアナに留めておけ”ってことわざもあるしね」は、前日にドロシーを酔わせた場合にのみ見られる会話でのセリフで、ロバと性行為した話をしなかったことへの安堵の言葉です。代わりに、この後は前日にした中学校教師の話が続き、ドロシーの仕事哲学が垣間見える面白い会話なので、ぜひ自分の目でご確認ください。

みんな仕事にマジメなのもVA-11 Hall-Aの特徴

さて、原文は「What happens in Neo-Tijuana, stays in Neo-Tijuana.」。これはラスベガス州ネヴァダ市のスローガン「What Happens Here, Stays Here.」をもじった「What Happens in Vegas, Stays in Vegas.」をもじったセリフです。ややこしいですね。「What Happens in Vegas, Stays in Vegas.」は英語圏では有名なフレーズで、Vegasの部分を他の都市名に変えてしばしば使われます。このセリフではNeo-Tijuanaという架空の都市を用いることでVA-11 Hall-Aの世界観の広がりを感じさせますね。ちなみにNeo-Tijuanaはメキシコの都市ティフアナをサイバーパンク風にした名前です。元ネタは「ベガスで起きたことはベガスに留めておけ」、つまりベガスでは他では口にできないような経験ができるという、旅の恥は掻き捨て的なニュアンスですが、翻訳する上ではなかなか厄介な代物です。以前も書いた通り、この手の代物は意味を直接書くと台無しになりがちなので。「“ネオティフアナで起きたことはネオティフアナに留めておけ”ってことわざもあるしね」はストレートに翻訳しつつ、元ネタに馴染みのない日本語圏のプレイヤーのために、これがことわざであることを補足しており、高度な翻訳と言えます。ネオティフアナの地名も拾いたいですしね。

さて、本連載も晴れて7日目を迎えました。ストックはないため毎日VA-11 Hall-Aをプレイしながら書いているのですが、取り上げることばの選定にいつも苦慮します。あまりに取り上げたいものが多いので……基準としては、シンプルに言葉としての面白さ、VA-11 Hall-Aらしさ、翻訳者としての学びの深さなどなどですが、使わなかったネタだけでこの連載を何度もできるぐらいのネタがあります。それがどれかは“VA-11 Hall-Aで起きたことは VA-11 Hall-Aに留めておけ”ということでひとつ……重ね重ね、みなさんもプレイしてみてください。

VA-11 Hall-Aとことば Advent Calendar 2023 7日目

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