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『上に天井がある。』翻訳後記

まえがき

これはなんですか?

『上に天井がある。』(原題:Looking Up I See Only A Ceiling)は2023年にsilver978がリリースしたアドベンチャーです。2023/2/21 - 2/22にかけて日本語訳を作成し、3/9にリリースしました。本記事は日本語訳の作成に際しての工夫や苦労を、個人的に記録するために書かれています。しかし、私は他人の翻訳後記を読むことが好きです。あなたにとっても、有意義な読み物であることを願います。

その後ストアページも更新されました

silver978は個人開発者で、本作ではプログラミングとサウンドを担当。sainekoがアート、Morikoがテキストを担当し、主に3人で制作しています。

三人よれば

あなたはだれですか?

野生のゲーム翻訳者。野生のゲーム開発者にすぐアプローチします。

なんで訳したんですか?

きっかけは、Steam Next Fesで見つけた好みのゲームだったからです。デモ版は朝食を作るところまででしたが、主人公のモノローグや設定の奇妙さ、グラフィックの綺麗さとかわいさと奇妙さ、音楽の奇妙さと、ゲーム全体が醸し出す奇妙な雰囲気が非常に好みでした。見たところ日本語化の予定もなく、日本語で本作の話をしている人は他に誰もいなさそうでした。そこでsilver978に連絡し、日本語翻訳を担当しました。

本編

概要

ここからは本編のネタバレを含むため、未プレイの人はプレイ後に読むことをおすすめします。もちろん本記事は自分の見解に過ぎず、またこの場で解釈は語りません。感想や考察をお待ちしています。

こんにちは~~

プレイ後は、称賛はsilver978(https://twitter.com/silver978_)に、日本語部分の賛否については自分(https://twitter.com/nicolith)に送っていただけるとありがたいです。

主人公の天井ちゃん(仮)は医者を目指す大学生のため、それ相応の話し方をします。子供っぽくはないけど大人びてもおらず、カジュアルすぎない口語で語ります。ほぼ全編がモノローグで進行するため、プレイヤーが親身に感じられるように気をつけました。共感が大事なタイプの主人公です。

I 朝食

天井につながる点検口。
これで屋根裏へ行くのにわざわざ 2 階へ上がらなくてよくなった。

日本語

This is the trapdoor that leads to the ceiling.
Now I don't have to go upstairs.

英語

いきなり本作最大の難所です。日本人の98%が『Minecraft』で覚えたと言われる「trapdoor」ですが、「落とし戸」「跳ね上げ戸」のように訳される単語です。本作では跳ね上げ戸なのですが、扉の機構は別に重要ではありません。また、どちらの用語もあまり馴染みがないように思われました。そこでやや建築用語になってしまいますが、「点検口」と訳しました。単語自体は同様に馴染みがないかもしれませんが、天井点検自体は多くの人が知るところでしょうし、文字からも伝わります。そして、天井裏へ通じるとイメージしやすいと感じました。2階や屋根の上ではなく、天井裏をイメージしてもらうことが本作には必要なので。ただ、念のため文章を補ってあります。

いいね、ぜんぶ揃った。次は座らないと。

日本語

Great, it's all there. Now I just need to sit down.

英語

「now」を「次は」と訳した箇所です。意味として外れているわけでもなく、芸と呼ぶほどのものではありませんが、順序を意識してもらいたくてこうしました。この朝食の準備パートは正しい箇所以外を調べると「順番通りやらないと」と表示され、一度準備した飲み物も片付けてしまいます。恐らく、苛立つプレイヤーもいるのではないでしょうか。もし実況配信があればツッコミどころだと思います。自分はこれを、強迫神経症のような演出と考えました。主人公は順序通り物事を処理することにこだわりがあるのではないか、と。このアイデアはポイント&クリックADVの仕組みとうまく噛み合っており、本作をよりすばらしく感じました。そこで、「now」は「次に」と、順序を意識してもらえるような訳としました。

II カレンダー男

みなさんご存知の天井くん(仮)登場です。天井ちゃん(仮)と足して割れば探索モードの天井ちゃん(完全体)になるかな、ぐらいのゆるさで話します。他にやったことといえば「こんにちは~~」のように「~」を英語版から二倍に増量したことぐらいです。波打ち感が物足りなかったので。

III 深淵 

本作に限ったことではありませんが、「bathroom」の訳はいつも少し考えます。考えて、だいたいいつも「バスルーム」にします。なにを悩むかというと、英語圏だとトイレと浴室が一体になっていることが多く、日本語でいう「トイレ」でも「浴室」でもないなにかだからです。建築構造としてはユニットバスでもありませんし、ユニットバスを部屋の概念として使うといささか侘しいものがあります…まあ、バスルームという単語も一般的かなと。本作は「TOILET」と看板がかかっているのがおもしろポイントですね。

IV 水没 - V 天井

水からの避難は、「I don't need」を「役立たない」「関係ない」「場合じゃない」など対象や状況にとって訳しわけています。似たような文章が続くより、多少変化があったほうがプレイヤーに焦りを感じてもらえるかなと思ったからです。時間制限のないゲームだからのんびりいこう、と割り切れてしまうのも興が醒めるでしょうから。単調な繰り返し表現も好きですが、ここはあえて外してます。また、朝食の順序へのこだわりとのギャップで、天井ちゃん(仮)の変化をこの後からでも感じてもらえると考えました。

探索

お気に入りの探索モードです。翻訳とはなんの関係もありませんが、エンディング後のアフターストーリーがあるゲームが好きです。『すばらしきこのせかい』や『ロックマンエグゼ』シリーズがそうですね。こうしたポイント&クリックゲームでは珍しい気がします。ADVだと『おさわり探偵 小沢里奈』にもあってとても好きでした。脱線しました。

脱線ついでに、開発室イベントがあるのも好きです。古き良きゲームにはスタッフがなにかを主張する開発室のようなものが隠してあって見つけるたび嬉しいものでした。マンガのコマ外の落書きやアシ募集も好きです。開発者の影が見えることに抵抗がある人もいると思うんですが、自分はゲームをプレイしながら開発者がなにを考えたかを妄想するのが好きなので、開発室やあとがきの類が好きです。脱線しました。

あとがき

ありがとうございます

ここまで読んでいただきありがとうございます。この記事が、あなたにとって多少なりとも有意義なものであることを祈ります。

本記事の重要な箇所を繰り返します。プレイ後は、称賛はsilver978(https://twitter.com/silver978_)に、日本語部分の賛否については自分(https://twitter.com/nicolith)に送っていただけるとありがたいです。後者については、ポジティブなものでも、ネガティブなものでも、気軽にご連絡ください。誤字脱字誤訳などのご連絡もお待ちしております。

ではさようなら

ゲームはリリースされたばかりですが、開発者3人はSNSで活動しているため、関心のある方はチェックするとよいでしょう。また、silver978はitchでゲームを複数リリースしているため、気になる方はそちらもご覧ください。

ユニークでこだわりを感じる作品揃い

天井ちゃん(仮)かわいい

素晴らしいゲームを作り、リリース前の多忙な時期に自分の提案、質問を引き受けてくれたsilver978に感謝します。

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