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VA-11 Hall-Aとことば DAY 14 「あなたの考えてることは…画面の下の方に書いてあるから」

ビデオゲーム、特にADVというジャンルの歴史においてメタフィクションという仕掛けは歴史の1ページを割くべきトピックと言えるでしょう。殊更ネタバレを忌避されるものでもあるため敢えてタイトルを挙げはしませんが、メタフィクションはもう飽きたという声が聞こえはじめて久しい今日でもなお、メタフィクションは強力かつ魅力的なギミックとして存在しています。

12月26日 月曜日

アナはVA-11 Hall-Aで最初に出てくるキャラクターで、第四の壁を超えてプレイヤーへ語りかけてくる唯一の登場人物です。VA-11 Hall-Aのメタフィクション性について語られているのを目にすることはほぼありませんが、アナは冒頭からこの調子ですし、周回時に分岐のヒントを与えてくれたりと、かなり破茶滅茶な振る舞いをします。細かい話をすると、VA-11 Hall-Aのプレイ時間の大半を占めるこのバーの画面は、誰の視点なのかという問題があります。これは一見ジルの視点のようでいて、実はそうではなかったとわかるのが、以前取り上げたジルとアルマが役割交換するイベントです。

12月22日 金曜日

登場人物たちがバーで次々と語り、一ヶ月足らずの作中の時間でも様々な事態を経験し時に変わっていくVA-11 Hall-Aにおいて、饒舌ながら背景や意図が読めないという点でアナは独特のポジションにいます。そのトリックスター的振る舞いとは裏腹に、あるエンドを迎えるとわかるアナの人物像にはジルのメインストーリーとは異なる、古き良きADVらしいストーリーテリングがあり、翻ってそのセリフの数々を発したときのアナの状況や意味合いを考えると胸に迫るものがあります。とはいえVA-11 Hall-Aらしい私的な味は外しません。思うにVA-11 Hall-Aがここまでわかりやすくメタフィクションという技巧を用いながらその点で語られないのは、単純な話それを売りにしたゲームではないというだけで、あるいはゲームデザインとしてクラシックなADVを装いながらも共感性の高い人情話へ着地するのがVA-11 Hall-Aらしさであり、やはりVA-11 Hall-AはVA-11 Hall-Aなのです。

泣けるぜ

原文は「they're kinda written in the middle of the screen」。まず頭の「they」は手前のジルのセリフ「(心を読まれてる…?)」の"心"を拾ったもので、テキストウィンドウ内で括弧書きされたジルの心理を読み取っているという二重のメタフィクション性があります。また、テキストウィンドウの位置が日本語では「画面の下の方」と訳されていますが、「in the middle of the screen」と"middle"扱いなのが面白いところ。これは……なぜなんでしょうね……"middle"でもおかしいというほどではないにせよ、感覚的には"bottom"という感じの位置なので。最初期のバージョンVA-11 Hall A Prototypeにおいてはまさに"middle"の位置にテキストウィンドウがあっため、アナにはそのように世界が見えているのか、一体なんなのか、この問題は墓まで持っていきたいと思います。

メタフィクションというのは劇物でもあり、一般によく使われるゲーム終盤でメタフィクションと明かすパターンは取り扱いを誤るとそこまでのプレイを茶番にしかねない危険性があります。また、プレイヤーにとってもメタフィクションがの印象が強く、メタフィクションゲームとしての側面ばかりが語られがちになります。その点において、あくまでVA-11 Hall Aらしさを前面に出した上で、ひとつの道具としてメタフィクションを扱っているという手腕の巧みさを、この記事を書いていて改めて感じました。みなさんもぜひ好きなゲームについて語っていきましょう。

VA-11 Hall-Aとことば Advent Calendar 2023 18日目

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