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『I will blow up THE EARTH MUAHAHAHAHAHAHAHA!!!』翻訳後記

まえがき

これはなんですか?

『I will blow up THE EARTH MUAHAHAHAHAHAHAHA!!!』は2022年にZ-xianがリリースしたADV。2023/3/20 - 2023/3/27にかけて日本語訳して、3/27に日本語版をリリースした。これは日本語訳したときの工夫や苦労を、個人的に記録するために書いてる。でも、他人の翻訳後記読むのは好き。あなたにとっても、いい読み物になると嬉しい。

ジャアクだから実は12時間前にリリースしてた

Z-xianは個人開発者。グラフィック、ライティングを主に自分、他を友達に助けてもらって作ってる。そのへんはゲームをプレイしたらだいたいわかるはず。

あなたはだれですか?

日本のZ-xianファン。世界中に増えてほしい。

なんで訳したんですか?

より多くの人にプレイしてほしかったし、他に誰も訳しそうになかったから。自分は2023/3/16にプレイした。

ジャアクだからウソが含まれてる

かなり多くの人が興味があるようだったし、このあと書くけど機械翻訳でプレイするのがちょっと難しいゲームだったから、3/20にZ-xianに連絡して一緒に日本語版を作ることにした。余談だけど、翻訳するたび自分が英語でプレイしているとたくさんのことを見落としてることに気づかされる。それは言語の差によって生まれてるものもたくさんあるけど、そもそもテキストを時間をかけてきちんと読んでるかどうかが大きい。なにが言いたいかっていうと、翻訳ってのは好きな作品をより深く味わうってことで、自分にとっても楽しいチャンスってこと。好きな作品しか翻訳してないから。

本編

概要

ここからは本編のネタバレを含むから、未プレイの人はプレイ後に読むのがおすすめ。もちろんこれは自分の見解でしかないし、この場で解釈を語るつもりもない。感想や考察はまかせた。

フハハハハ!!!

プレイ後は、称賛はZ-xian(https://twitter.com/zxian_notart)に、日本語版の不具合や賛否については自分(https://twitter.com/nicolith)に送ってほしい。あと、たまにバグってメッセージウィンドウが透明になったりするけど、ちょっとしたフリーゲームなので大目に見てほしい。ゲームがクラッシュするのはわざと。ジャアクだから。

まず何度も登場する「ジャアク」だけど、これは「EVIL」の訳。この手の大文字表記による強調表現は英語の文章でよく出るけど、日本語だとうまくはまるものがなくって、いつも考えさせられる。今回は「邪悪」を「ジャアク」とカタカナ表記して特徴を持たせつつ、バカっぽい雰囲気を醸し出すことにした。

タワー

全体を通して、難しかったことをいくつか。まず、ルークとセドリックの会話で、頻繁に意図的にスペルミスする。たとえば以下のような具合。

そんなことないよ!
キノコ畑を作ろうとしてるだけ!

日本語

cmpon iots not that bad, im just tryna grow
a mushroom garden here

英語(原文)

Come on, its not that bad! I'm just trying to grow
a mushroom garden here!

英語(スペル修正)

これは別に制作者がミスをしてるってわけじゃない。英語のチャットでよくある意図的に崩した書き方で、砕けた雰囲気が出る。それと、このゲームに置いてはあえて話し言葉にこんな風にチャットっぽい雰囲気を出してちょっとメタなギャグとして使ってる。ハニにお茶を頼むときにルークがコーヒーと言おうとしてお茶と言ってしまうとき、「タイプミス」と言うのもその一例。

また、ルークとセドリックは何箇所かで突然インドネシア語で話し始める。

バカげてる
「キャビネットよ安らかに」なんて言わないで

日本語

bulok ay pag "rip cabinat" diha

インドネシア語

これも英語のチャットでよく見る光景。たとえば自分は海外のインディーゲームのDiscordサーバーにいくつも入ってるけど、当然いろんな国の人たちがいて、基本的には英語で話してる。でも突然、特定の人たちだけでしか通じない言語で話をしたりする。これは文脈によっていろんな意味があるけど、ここでは親密さの表現と捉えていい。

このゲームはスラングも多いけど、こういうチャットっぽい表現が多様されてる。だから、慣れてない人には結構キツいし、辞書や機械翻訳があまり通じない。それが訳したほうがいいと思った理由の一つ。

こういう表現を日本語でやろうとすると、ネット用語を使ったり、古くはギャル文字を使ったりなんて手法がある。でも個人的にあまり好きじゃない。すぐ古びるし、いまの日本のネットであまり一般的に使われるもんじゃない。セドリックのセリフはいくつかネット用語を用いてるけど、元ネタがわからなくても意味が取れたり、比較的古びてないものに絞ってるつもり。だから、そのまま再現するのでなく、二人の間での会話をなるべく砕けた雰囲気が出るようにした。

ダズグラクゲゾブファヤルゲンツドヒミナ
メドベルツェンニルラトンガゲベモシュネ
ヴェスゼンヒャレツァルマイトシュテザスム
フォスシュゲルニヒエン*まだ呪文詠唱中

日本語

dzsieofklmjghfrkodcfjgnfrdkopsvgdzrgmxkdmxdft
irgmzhjntpkcopnkxpotkghxdjgkrkjpoxrdgkxjpxod
srgnmdlrgnlxkdrnmgklxdtnhjkrdfnbjldrnxlxndlbkn
flfnvgslgnvlzrkdnmgklxdklh *still spell chanting

英語

本作では、いたるところでランダムにキーボードを叩いただけの文字列がある。たとえばルークの変な笑い声なんかもそうだし、ここで唱える地球を爆破するための呪文もそう。

まあ、日本語でも適当にランダムに打ってもよかったけど、アルファベットが混じると日本語のテキストっぽさがかなりなくなって、英語のランダムな文字列とはちょっと雰囲気が変わる気がした。だから、自分なりにそれっぽい文字をランダムっぽく入れた。

この呪文の詠唱は、セドリックが恥ずかしがってるし、ルークはオタクだし、クレジットルームでニヒリズムの話が出てきたから、ドイツ語っぽい音を詰め込んだ。あと同じ行で同じ文字を何度も使わないようにしてる。

ルークの笑い声も、悪役っぽい笑いの音や咳き込む音だけで構成してる。まあ、こういうのを業界用語で「無駄な努力」っていう。でもやりたかった。

まずは愉快なネコたちの名前から。

God:ゴッド:まんま。カミにしてもよかったけど、ゴッドのほうがバカっぽくていい。後書きでも触れられるけど、本作の原点となったwebtoon「take 2」からの出演。未完だけど興味があれば読んでみてほしい。

https://www.webtoons.com/en/challenge/take-2/list?title_no=652387

Cheshire:チェシャ:まんま。言うことがない。

Wurf:ウーフ:まんま。なんとなく残虐な感じがして好き。

Emptyhead:ノウナシ:そのままでもよかった気もするけど、ノウナシという響きが好きで訳した。いま思うと、Emptyheadという名前の長さを活かして、アタマカラッポとかでもよかった気もする。

Maldito:ツッパリ:インドネシア語由来で、頑固だとか、反抗的な子供だとか、そんな意味の言葉。それでカワイイ響きということで、ツッパリを選んだ。結構苦しんだ。

Sly:ナゾ:一番苦しんだ。そのまんまスライでいいと思ってたけど、最後の最後で訳すことに方針を変えた。「sly」という単語のイメージをスッキリ出せたとは思えないけど、本作における会話が通じない感じだとか、マフラー巻いてるちょっとしたかっこよさとか、そのへんを感じてもらえるかなと。

 わたしはネコの磁石だよ
 いろんな意味で
 わかるよね?
 (ルークに片目でウインク)

日本語

i am a cat magnet
in more ways than one if you know what i mean
*winks at luke with her already closed eye*

英語

ハニのこういうセリフはこれまでの経験ですんなり訳せた。経験は力だ。

それにもうジャアクじゃないタワーにだって来れるよ
(via テレポート)

日本語

and you can come visit my no longer evil tower! (via tp)

英語

「via」は「経由で」という意味を持つ前置詞で、別に不思議な単語じゃない。でもここで「via」とそのままにしたのは、twitterには投稿したクライアントをこんな風に表示する仕様があるから。本作ではルークがtwitterのようなサービスにハマってることが示唆されており、ここは意図的に「via」を使ったギャグだと判断した。

わっわかったよっママっ

日本語

Y-YES MA'AM

英語

ルークはハニを「lady」と呼ぶ。これは「お姉さん」と訳した。ぼっちちゃんときくりみたいでいい感じだし、制作者もぼざろのオタクだから。でもテンパると「MA'AM」と呼ぶ。これはかなり大げさに「お嬢さん」と言っているような感じ。でもルークは百合漫画のオタクだし、ネットのオタクでもあるから、「ママ」ぐらい言ったほうがリアルだし笑える気がした。

人として成長して変わってね

日本語

please grow and change as a person (meme reference)

英語

ここは悩みに悩んで最終的に諦めたとこ。英語のほうは最後にカッコ書きがあるように、ネットミームが元ネタのフレーズ。でもうまく日本のネット用語でハニが言って違和感なくハマるものが思いつかなくて、ネットミームであることを表現するのを諦めた。会話の文脈は通る。でもギャグを一つつぶしてしまうから苦渋の決断だった。本作はこういうネットミームもちらほら仕込まれてる。

クレジットルーム

ブラック社会がよ

日本語

society

英語

もはや翻訳というよりミームの説明なんだけど……これは『バットマン』のジョーカーに由来するミーム。細かいことは以下の記事を読んでもらえれば、ミーム化した経緯まで書いてある。意味としては、まあ「社会なんて残酷だ」とか、そんな感じ。ちょっと説明しづらいのは事実だけど。

関係ないけど、『バットマン:キリングジョーク』はマジ傑作だから読んでほしい。電子書籍は英語版しかないから、日本語版は紙でどうぞ。

とある精神病院に二人の男がいた……

 この謎が
 解けるかバットマン
 ボクが
 キミの寝室に
 いるのはなーぜだ?

日本語

Riddle
me this batman.
why
am I
in your bedroom?

英語

これも『バットマン』由来のミームで、リドラーのセリフが元ネタ。ちゃんと映画の字幕を調べ、その通りの表記にした。パロディには力を入れたい。

次の犠牲者はバットマン

他は、翻訳としては特筆すべきことはないかな。まあ、制作者が登場してメタな話しかしないから、英語のままだとちょっと読むのがしんどいとこだとは思う。自分はこの手の制作者の後書きを読むのが結構好きで、このパートもかなり気に入ってる。

あとがき

ありがとうございます

ここまで読んでくれてありがとう。この記事が、あなたにとって多少なりとも有意義なものであることを祈る。

本記事の重要な箇所を繰り返す。プレイ後は、称賛はZ-xian(https://twitter.com/zxian_notart)に、日本語版の不具合や賛否については自分(https://twitter.com/nicolith)に送ってほしい。

ではさようなら

Z-xianは本作の後、Cat Named Spiritという小さな作品を一つ作り、いまはMonophobiaという新作に取り組んでて、すでにデモを公開してる。本作が気に入ったならぜひプレイしてほしい。

素晴らしい作品を生み出し、日本語化にあたって積極的に協力してくれて、リリースにあたって特別に絵を描き下ろしてくれてありがとうZ-xian。

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