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012.あのこたち

8月XX日

「もうこの家のことは…残念ですが諦めてください」
なんて言われたらどうしよう、という恐怖に数日悩まされていた。

今日は朝早くから害虫駆除の業者の予約。駆除を頼むほどの害虫。あのこたちのことだ。若くていまどき(このいいかたがもういまどきじゃない)のお兄さんが来る。あのこたちをどこで見たかを伝えて、いろいろ家の中を点検してもらう。古い一軒家なので隙間が多く、そりゃ虫の1匹や2匹も仕方ないだろう、と言いたいところだが、あのこたちは別なのだ。駆除を呼ぶなんてどれだけ出たんだ、と思われるかもしれないけど2匹。母が亡くなった日と、その後に1匹。たった2匹、されど2匹。

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お兄さんの点検の結果、どうやらエアコンをつけるためにあけた壁の穴とホースの隙間から入ってきたもよう。原因となった壁の隙間や、ついでにキッチンの排水溝の隙間、ブレーカーと壁の隙間なんかをパテで手早く埋めてくれた。

2匹の虫のために2万円を払った。あのこたちが出てきたのは寝室で、そこで寝るのが怖すぎて作業部屋に毛布だけ持ち込んで寝て凌いだものの、床に寝ればもちろん身体はばきばき。意を決してベッドで寝ようと思っても天井のシミが全部あのこたちに見える、床に落ちてるヘアピンもあのこたちに見える、ニコルさまの足音もあのこたちの足音に聞こえる、風の音さえあのこたちのせいなんじゃないかと思う、昼間に鳴らされた玄関のチャイムもあのこたちが押したのか!と思う、怖くて寝れない。寝れなければ体調も悪い。寝不足すぎて、でも家じゃ怖くて寝れなくて近所の漫画喫茶に仮眠だけしにいったりもした。たかが虫2匹、されど虫2匹。わたしにとっては必要な出費だった。

出てきたあのこたちがどんな種類だったかを説明すると、家に住みつくわけではなく、外から迷いこむ種類のこたちだからあんまり心配しなくていいこと。家の中に住み着いてる痕跡もないことなどを教えてもらう。一安心。あのこたちは背中とお腹がくっつくような隙間が好きらしい。お兄さんおすすめの市販の殺虫剤も、教えてもらった瞬間にamazonで注文した。

お兄さんに来てもらうまで、変な妄想ばっかりしていたけどとりあえず大丈夫そう。この家、まだ住めそう。おとうさん、おかあさん、娘はまたひとつ困難を乗り越えました。どう考えたって、人間の方が強いはずなのにどうしてこんなに怖いんだろうなあ。黒くててかてかの、似たようなカミキリムシだったらティッシュでぴゃっ!とつかんで庭にぽいって逃してあげられるのに。あのこたちも、桃色とかだったらこんなに怖くないのだろうか、もうすこし動きが遅かったら、あんなにテカテカしてなかったら、出てくる前にチャイムでも押してくれれば、「そろそろ出ますよー!」とアナウンスしてくれたら、いろいろ考える。名前もだめな気がする。「こきぷりちゃん」とかに改名したらいいのか。

グーグルの検索予測で名前を入れたら「生きてる意味」なんて出てくるほど嫌われている。そんな生命体ってなかなかないのではないか。「生きた化石」って言われるくらいに人間よりも大先輩。あのこたちがいなかったら、もしかしたらなんかの進化の拍子になにかがどうにかなって人間も姿形が変わってて、わたしも生まれていなかったかもしれない。だから、わたしだって、そんなあのこたちの命を無残に奪うことはしたくない。せめてどうか、わたしの見えないところで生きていて欲しい。

この日は久しぶりに、安心してめっちゃ寝た。
寝れるって、しあわせ。

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かなしいことは、むりに忘れようとしたり、どうにかしようとするとよけいにべったりこびりついてはなれないから(かなしみの種類にもよると思うけれど)もうここはすこしだけなかよくしてあげようかな、のきもち。おてやわらかにたのむよ。

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