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Home sweet home,Sunny.

 ビープ音が聞こえる。BEEP,BEEP.鳴り響いている。サニーは目醒める。防護服と呼吸器付きヘルメットを纏っている彼女の目の前に暗黒が広がっていた。眼前の船壁に巨大な穴が開いていた。
 冷凍睡眠から覚醒して間もないサニーは睡眠用ポッドから出る。船体が大きく破損したことを知らせる警報を切ると静寂が広がった。指で空中に反時計回りの円を描いて「通話コマンド」を起動させる。緊急番号に接続するとノイズが流れた。
「サニー・クレイルよりHQ、応答されたし」
 応答は無い。通常なら数秒で応答が返ってくる。サニーは思う。これは「酷い事態だ」と。

 サニー・クレイルは白人種女性モデルのデザインクローンであり、増え続ける人類の為に土地と食料を探す「新星開拓船団」軍所属の戦闘員だ。人工子宮から生まれバイオ飼料によって半年で成熟し戦場へ駆り出される。戦闘員は会敵予想時刻の数時間前に冷凍睡眠から覚醒し、戦闘後即座に冷凍睡眠に入る。起きて、戦い、眠る。そのサイクルから脱却できるのは尉官以上からだ。サニーは前回の戦闘時の功績で少尉に任命された。
「次回からは作戦会議参加が必須となる。冷凍睡眠の覚醒時間を変更する」
 そんな司令部からの辞令を受け取ってサニーは心を躍らせて眠りについた。そして目覚めてみれば、母艦は酷い損傷を受けていて司令部も応答しないという事態に陥っていた。
 無重力に漂いながら同胞達を探す。どの船室も誰もいないか、いても死んでいた。船の航行ログにアクセスして確認する。船は十七時間前に奇襲にあった。船団も壊滅状態に陥り逃走した。サニーだけを宇宙に残して。
 サニーは穴から外へ出た。天漢が見えた。星々が瞬いていた。サニーは己が自由の身になったことを、その瞬間漸く実感できた。戦闘員の冷凍睡眠と戦闘のサイクルは、「暇を与えると思考して最後は反逆する」と思われているからだ。サニーは自分が万物から見捨てられたと分かると、「故郷を目指そう」と思い付いた。
 彼女は自分の銃、持てるだけの武器と弾薬、積めるだけの食料を救命艇へと運び込んだ。自身の裁量権を初めて与えられ、彼女は高揚した。救命艇内の酸素循環を終えてヘルメットを外しても窒息せずに済むようにして、自由になる為に必要な処置をする。
 戦闘員の体には生体ログチップが埋め込まれている。個体によって場所は様々だが、サニーは左眼窩にあった。救命艇には簡単な手術キットがあった。サニーは左目を失うことを厭わなかった。取り出したマイクロチップを潰しサニーは止血する。顔の左半分を包帯で覆って、彼女は救命艇を発進させた。
 サニーが生まれた場所は移動し続ける船団だが、彼女を形造る白人種という「ルーツ」の故郷は違う。第三惑星。地球と呼ばれる星。今や富裕層しか住めない場所。
 彼女は還ることにした。行ったこともない故郷へ。「そうせよ」と、体の奥底で何かが叫んでいた。



終わり




(文字数:1,198字 構想時間:1分 記述:2時間 使用:iPhone)

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