映像シナリオ「夢のその先」

概要:シナリオ学校の自由課題にて執筆。尺は約21分。2012/01/10作。

〇登場人物
佐藤優介(25・15・22)中学校の数学教師
片岡悟 (15)中学三年生、佐藤のクラスの生徒
岡本知也(25)フリーター、佐藤の友人
宮城清二(54・44)佐藤の恩師
井本(29)佐藤と同じ学校で働く教師
大竹(32)同
星野(15)片岡の友人


〇 中学校・教室(夕・回想)
   放課後の教室。
   佐藤優介(15)が窓に向かって立っている。
   佐藤に向かって宮城清二(44)が立っているが、後姿で顔は見えな
   い。
   宮城に向かい話す佐藤。
佐藤「俺、先生みたいな教師になります」
   笑顔になる佐藤。

〇 中学校・教室
   昼下がりの教室。
   佐藤優介(25)が、淡々と数学の授業を行っている。
   居眠りする生徒、こそこそお喋りをする生徒、その中に窓際の席でぼ
   ーっとしている片岡悟(15)がいる。
   佐藤、板書しながら黒板に向かって喋っている。
佐藤「高さが同じ三角形では、底辺の長さの比は面積比と等しくなる。した
 がってここは……」
   チャイムの音。
佐藤「はい、今日はここまで」
   教科書を持ち、さっさと教室を出ていく佐藤。

〇 同・職員室
   自分のデスクで進路希望用紙の整理をしている佐藤。
   井本(29)と大竹(32)が話している。
井本「また、保護者からのクレーム、嫌になっちゃいますよ」
大竹「教師つったって、一般的なサラリーマンと何ら変わりないですもん
 ね」
井本「ほんと嫌になっちゃいますよ」
大竹「そうだ、今夜一杯どうです?」
井本「いいですね」
   大竹、佐藤に話しかける。
大竹「佐藤先生もどうですか?」
佐藤「いえ、僕は遠慮しておきます」
大竹「そうですか」
   大竹、気にせず井本と楽しそうに会話を続ける。
   佐藤、手元の提出した者のリストを見る。
   チェックが入っていない片岡悟の名前。

〇 同・正門(夕)
   部活動をしている生徒たちの声が響いている。
   疲れた表情で歩いていく佐藤。

〇 コンビニ(夜)
   客がいないコンビニ。
   店員の岡本知也(25)がレジで一点を見つめながら、ぼーっと立って
   いる。
   入店音が鳴り、店内に入ってくる佐藤に気づき、手を上げる岡本。
佐藤「暇そうだな」
岡本「このくらい暇な方が、ネタを考えるのにちょうどいい」
   商品を物色しながら話す佐藤。
佐藤「今年もコンクールに出したりするのか?」
岡本「ああ、もちろん」
佐藤「よくつづくよなぁ。感心するよ」
岡本「好きなことで食っていくまでが、なかなかなんだよ。その点、おまえ
 はイイよな。夢叶えて、それで飯食ってる」
   弁当とペットボトルのお茶を手にしてレジへ向かう佐藤。
佐藤「べつに……」
   佐藤、商品をレジに置く。
岡本「(レジを打ちながら)おまえ、また一人寂しく夕飯か?」
佐藤「は? 悪いかよ」
岡本「たまには同僚と飲みに行くとか」
佐藤「ほっとけ」
   商品を受け取り、店を出ようとする佐藤。
岡本「じゃあさ、たまには俺と飲みに行こうぜ」
   振り返る佐藤。
佐藤「ああ、また今度な」
   佐藤、憮然とした表情で去っていく。

〇 中学校・教室
   ホームルームを終え、帰宅する生徒たち。

〇 同・廊下
   教室を出て帰ろうとする片岡に声を賭ける佐藤。
佐藤「おい、片岡」
   振り返る片岡。
佐藤「お前、進路希望用紙の提出まだだろ? 期限とっくに過ぎてるぞ」
片岡「あ……はい、すみません」
佐藤「もう受験なんだから、こういう提出物一つでも左右されるぞ」
片岡「はい……」
佐藤「明日には持ってこいよ」
   佐藤、その場から去っていく。
   佐藤の後姿を見つめる片岡。

〇 商店街(夕)
   夕食前の買い物客で賑わう商店街。
   下校途中の片岡、一人で歩いている。
   本屋の前で立ち止まり、店内へ入っていく片岡。

〇 本屋・店内
   静かな店内。
   立ち読み客が数名いる。
   片岡、受験関連の売り場に行き、本棚を見上げる。
   一冊手に取ってパラパラめくってみるが、すぐに元に戻す。
   店を出ようとする片岡。
   そこへ星野(15)が声をかける。
星野「あれ? 片岡?」
   ギクッとした様子で振り返る片岡。
星野「何、おまえも参考書探しに来たの?」
片岡「参考書?」
   星野、参考書を数冊持っている。
   その参考書を見つめる片岡。

〇 商店街(夕)
   片岡と星野、並んで歩いている。
   星野の手には本屋の袋。
星野「やっぱ初めての受験だし、失敗したくねぇよな」
片岡「……星野はさ、高校に行って、その先どうするかとか決まってん
 の?」
星野「さぁ、普通に大学行ってサラリーマンとかなってんじゃない? わか
 んね」
片岡「え? そんなもんなの?」
星野「だって、まだ先のことなんかわかんねぇし」
片岡「じゃあ、受験したって……」
星野「受験なんて義務みたいなもんだろ?」
片岡「義務?」
星野「まずは合格してからだよ」
   星野、腕時計を見る。
星野「これから塾なんだ。じゃ、またな」
   走って去っていく星野。
   立ち尽くす片岡。

〇 中学校・廊下
   廊下を歩く佐藤。
   教室から出てきた片岡を見つけると、声をかける。
佐藤「片岡」
   振り返る片岡。
佐藤「進路希望用紙、書いてきたか?」
片岡「えっ、あ、いえ、まだです……」
佐藤「何やってるんだ! 早く出しなさい」
片岡「……でも、出せないんです」
佐藤「どうして?」
片岡「将来の、その、目標みたいなものがないんです。だから、自分の進路
 が決めれない」
佐藤「そんなこと言ってる場合ではないだろ。とにかく、明日必ず持ってく
 るように」
   うなだれる片岡を残し、その場から去っていく佐藤、浮かない表情。

〇 居酒屋(夜)
   賑やかな店内。
   佐藤、店の奥のテーブル席にぼんやりと座っている。
   店内に入ってくる岡本、佐藤を見つけ近づいていく。
岡本「すまん、待たせたな」
   岡本に気づいていなかった佐藤、少し驚いた様子。
岡本「どうした? ぼーっとしちゃって」
佐藤「い、いや、べつに」
   岡本、席に着きながらタバコに火をつける。

    ×    ×    ×

   テーブルに並べられた料理。
   佐藤と岡本、ビールのグラスで乾杯をする。
佐藤「おめでとう」
岡本「ありがとう。まあ、佳作だけどな」
   照れくさそうに笑う岡本。
佐藤「すごいじゃん。長年続けた成果が出たな」
岡本「いや、まだまだこれからだよ」
佐藤「え?」
岡本「コンクール受賞は、俺にとってはスタート地点ってこと」
   じっと岡本の顔を見る佐藤。
岡本「ゴールなんてもっと先だよ」
   岡本、ビールを飲み干す。
   佐藤の視線の先には、賑やかに飲んでいる大学生のグループ。

〇 佐藤家・寝室
   佐藤が一人暮らしをしているアパートの薄暗い寝室。
   ベッドの上に寝転がり天井を見つめる佐藤。
   ゆっくりと目を閉じる。

〇 中学校・教室(回想)
   授業中の教室。
   宮城が熱心に数学の授業を行っている。
   居眠りやお喋りをしている生徒はいない。
   佐藤(15)、ノートを取りながら、授業を聞いている。
   宮城、教科書を片手にきびきびと説明している姿を、じっと見つめる
   佐藤。

〇 同・廊下(回想)
   休み時間。
   授業を終え教室から出ていく宮城に、授業の質問をする生徒二人。
   佐藤、教科書を手に持ち、その様子を後ろからじっと見ている。
   宮城に質問していた生徒が去った後、佐藤がすかさず宮城に近寄る。
   笑顔で対応する宮城。
   嬉しそうに授業の質問をする佐藤。

〇 同・教室(回想)
   放課後の教室。
   佐藤、宮城から高校の資料を受け取る。
   力強く頷く佐藤。

〇 佐藤家・佐藤の部屋(回想)
   佐藤の実家にある勉強部屋。
   机に向かい黙々と勉強をしている佐藤。
   机には、高校受験に関する本や教師を目指す人のための本が並んでい
   る。

〇 中学校・体育館(回想)
   卒業式が行われている体育館。
   卒業生の中に佐藤がいる。

〇 同・正門(回想)
   卒業式を終え、写真を撮ったり、別れを惜しんだりしている生徒や教
   師たち。
   佐藤、宮城と握手。
   笑顔の佐藤と宮城。

〇 並木道(回想)
   満開の桜が並ぶ道。
   佐藤(22)が自信満々で歩いている。

〇 中学校・体育館(回想)
   始業式が行われている体育館。
   佐藤、全校生徒の前で新任教師として紹介されている。

〇 同・教室(回想)
   授業中の教室。
   佐藤が熱心に数学の授業を行う。
   真剣に授業を聞いている生徒たち。

    ×    ×    ×

   佐藤の授業中。
   夏服になり、汗を拭きながら授業を行っている佐藤。
   真剣に授業を聞いてる生徒もいるが、居眠りやお喋りをしている生徒
   が少し増えている。
   佐藤、そんな生徒を注意しながら、授業を進める。

    ×    ×    ×

   佐藤の授業中。
   冬服になり、授業を進める佐藤、少し疲れた表情。
   居眠りやお喋りをしている生徒がいるが、佐藤は気にした様子もな
   く、淡々と授業を進めている。
   黒板に向かう佐藤、少しため息をつく。

〇 佐藤家・寝室(朝)
   日の光が射す寝室。
   ゆっくりと目を開ける佐藤(25)、ぼーっと天井を見つめる。

〇 中学校・職員室
   昼休み中の職員室。
   佐藤、コーヒーが入ったカップを片手に歩いていると、窓から外を見
   る。
   中庭で一人、パンを食べている片岡を見つける佐藤。

〇 同・中庭
   中庭のベンチに座る片岡に、後ろから声をかける佐藤。
佐藤「皆と食べないのか?」
   驚いたように振り返る片岡、佐藤を見ると、前を向く。
片岡「皆、ご飯食べてる時でも勉強してるから」
佐藤「そりゃ、受験生だからな。おまえも」
片岡「僕は……わからないんです。先のことなんて決まってないのに、頑張
 ったって何の意味が……」
佐藤「意味ねぇ……」
   片岡、立ち上がる。
片岡「提出遅れてすみません。やっぱり、僕には出せそうにないです」
   片岡、佐藤に会釈すると、足早にその場から去ろうとする。
   呼び止める佐藤。
佐藤「待て、片岡」
   立ち止まる片岡。
   沈黙。
佐藤「……おまえ、80歳の時にこうだったらいいなとか理想ある?」
   片岡、振り返って少し困惑した表情で佐藤を見る。
片岡「はい?」
佐藤「逆算していってさ、そこに至るための目標は?」
片岡「えっ? え、えっと、その……」
   考え込む片岡。
片岡「ま、真っ白です」
   笑う佐藤。
佐藤「そうだよな。じゃあさ、今の片岡の目標はこれでいいんじゃない?」
片岡「えっ?」
佐藤「そういうことを決めるの先延ばしにするために、全力で高校に行く」
   片岡、呆然と佐藤を見つめる。

〇 同・教室
   休み時間中の教室。
   片岡、教室に入り辺りを見まわす。
   お喋りをしている生徒もいれば、黙々と勉強している生徒もいる。
   その中に星野が一人、参考書を広げて勉強している。
   片岡、星野に近づき話しかける。
片岡「なあ、星野」
星野「ん?」
片岡「おまえ、どんな勉強してるの?」
星野「えっ?」
   星野、顔を上げ、片岡を見る。
   片岡、じっと星野を見つめている。

    ×    ×    ×

   佐藤の授業中。
   いつものように淡々と授業を進める佐藤、ふと片岡を見ると真剣にノ
   ートを取っている。
   少し驚いた様子の佐藤。

〇 商店街(夕)
   足早に歩く片岡。

〇 本屋・店内
   片岡、受験関連の売り場に行き、本棚を見上げる。
   一冊一冊手に取り、真剣に選ぶ片岡。

〇 中学校・職員室
   佐藤、コーヒーが入ったカップを片手に、窓の外を見る。
   中庭で片岡が一人、単語帳を片手にパンを食べている。
   少し微笑む佐藤。

〇 同・教室
   佐藤の授業中。
   以前より真面目に授業を聞いている生徒が増えている。
   その中に片岡の姿。
   佐藤、熱心に授業を進める。

〇 コンビニ(夜)
   客がいないコンビニ。
   レジで立つ岡本、入店音に気づき入口を見ると佐藤が入ってくる。
岡本「久しぶりだな。最近めっきり来なくなったじゃんか」
佐藤「今後の受験対策とかで、他の先生方と話し合うことが増えてな」
   商品を物色する佐藤。
岡本「なんだ、楽しそうにやってんじゃないか?」
   佐藤、商品をレジに置く。
佐藤「そうでもないよ。今夜も授業の準備で忙しいんだ」
   佐藤、少し疲れた表情だが楽しそうに話す。
   商品を受け取り、店を出ようとする佐藤。
岡本「暇になったら、また飲みに行こうぜ」
   振り返る佐藤。
佐藤「ああ、受験終わったらな」
   佐藤、少し笑って去っていく。

〇 中学校・職員室
   自分のデスクで書類整理をしている佐藤。
   職員室の扉をノックして入ってくる片岡、佐藤に近づき声をかける。
片岡「先生」
   顔を上げ、片岡を見る佐藤。
   片岡の手には進路希望用紙。
   志望校の欄は空白のままだが、職業の欄に小さく“教師”と書いてい
   る。
佐藤「これからが勝負だな」
   佐藤、じっと片岡を見つめる。

                              (了)

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