映像シナリオ「自由の女神さん」

概要:シナリオ講座にて執筆。尺は約66分。2017/03/08作。

【登場人物】
 中野彩乃(17)高校二年生、風紀委員
 金田舞子(17)高校二年生、帰国子女
 井口奈々子(17)高校二年生、彩乃のクラスメイト
 松崎由美(17)高校二年生、彩乃のクラスメイト
 矢野美智子(35)高校教師、彩乃の担任
 青木一郎(39)高校教師、風紀委員会担当
 中川律子(43)彩乃の母親
 中川美咲(14)彩乃の妹
 小島理恵(17)高校二年生、彩乃と同じグループの生徒
 西野佳代(17)高校二年生、彩乃のクラスメイト
 楠井義雄(51)高校教師、英語担当
 宮原悦子(56)シスター
 スーパーの店員
 チャラそうな男


〇女子校・図書館(朝)
   幼稚園から短大まであるミッション系の女子校。
   その敷地内に独立した建物としてある図書館。
   朝早く人気の少ない館内、中川彩乃(17)がいる。
   彩乃、推理小説の本を数冊抱えながら、神話・宗教関連の書棚で人目
   を忍んで、『世界の悪魔・化け物図鑑』を読んでいる。
   椅子をひく音で近くの閲覧席に、傍らにピアノの楽譜を置いてギリシ
   ャ神話の本を読む松崎由美(17)がいるのに気づく彩乃。
   彩乃、慌てて図鑑を書棚へ戻して去る。
   由美、去る彩乃を一瞥するが、興味なさそうに再び本を読む。

〇高等部・廊下(朝)
   廊下の掲示板に、全国ピアノコンクールの予選を由美が突破した事の
   知らせが貼っている。

〇同・教室(朝)
   登校時間中。
   各々グループで談笑している生徒たち。
   彩乃、小島理恵(17)や他の地味な生徒数人の中で愛想笑い。
   由美、窓際の席で一人、外を眺めている。
   数人の生徒が由美に近づく。
生徒「すごいね、松崎さん。コンクール予選突破なんて」
   ちやほやする生徒たちに向かって愛想笑いの由美。
   西野佳代(17)が小走りに入ってくる。
佳代「姫ご一行が来たよ!」
   教室内の生徒たち、談笑を続けつつも身構える。
   井口奈々子(17)、三人の派手な生徒を従え、教室に入ってくる。
   奈々子たちが入ってきた入口付近にいた生徒数人が、遠慮気味に「お
   はよう」と挨拶するが無視する奈々子たち。
   奈々子たち、由美に近づく。
   由美をちやほやしていた生徒たち、そそくさと由美から離れる。
奈々子「おはよう。将来有望のピアニストさん」
   奈々子、意地悪そうな笑み。
   由美、興味なさそうに再び楽譜を読む。
   ムッとする奈々子、由美の机にわざとらしくぶつかり、筆箱を落と
   す。
奈々子「あ、ごめーん」
   毅然とした態度の由美、筆箱を拾おうと手をのばす。
   奈々子、拾おうとした由美の手を踏みつける。
   由美、苦悶の表情。
   奈々子、由美を睨んでから自分たちの席へ。
   教室内の他の生徒たち、見て見ぬふり。
    ×    ×    ×
   宗教の授業中。
   静かに授業を受ける生徒たち。
   教壇に立つ強面のシスターの宮原悦子(56)。
悦子「人は皆、神の元に平等です。さぁ、祈りましょう」
   起立する生徒たち。
生徒たち「父と子と精霊のみ名によって、アーメン」
   生徒たち、十字を切る。
生徒たち「主よ、私を平和の為の道具にしてください」
   無表情の彩乃、祈りの言葉を言わず、口を一文字に結んでいる。
   チラッと由美を見る彩乃。
   同じく祈りの言葉を言っていない由美、冷たい目で前を見ている。
   由美の手には包帯。

〇女子校・図書館(夕)
   初等部から短大生までの女生徒たちが、数人利用している中、彩乃が
   いる。
   彩乃、人目を忍んで神話・宗教関連の書棚で、背表紙を指で追いなが
   ら本を探している。
   目的の本が見つからず、ため息をつく彩乃、ふと閲覧席に座っている
   由美が目的の『世界の悪魔・化け物図鑑』を読んでいるのに気づく。
   彩乃、由美と目が合い、ぎこちなく会釈。
   席を立ち、彩乃に近づく由美、図鑑を彩乃にわたす。
由美「似たような奴らが、クラスにいっぱいいるね」
   去っていく由美を戸惑いの表情で見送る彩乃。

〇高等部・廊下(朝)
   登校時間中、行き交う生徒たち。
   廊下の掲示板に、二学期の中間テストの結果が掲載されている。
   彩乃の名前が上位に載っている。

〇同・教室(朝)
   チャイムが鳴り、担任の矢野美智子(35)が入ってくる。
   各々の席に戻る生徒たち。
   彩乃、窓際の由美の席を見る。
   由美はいない。
   朝礼(各自の席で立ち、スピーカーからの放送を聞く形式のもの)が
   始まる。
スピーカーの放送「先日、寄り道をした者がいたと、地域の方々からお叱り
 の声をいただきました」
   静かに放送を聞く生徒たちの中、彩乃も静かに聞いている。
スピーカーの放送「校則で、下校時の寄り道は禁止されています。本校の生
 徒として、恥じない行動を心がけてください。では、祈ります」
   放送からの祈りの言葉に合わせて祈る生徒たち。
   彩乃、淡々と無表情で十字を切る。
美智子「皆さん、校則で決まっている事は、ちゃんと守るように。中川さ
 ん、後で職員室に来なさい」
   彩乃、呼ばれてビクッとする。

〇同・職員室
   彩乃、自身のデスクの椅子に座る美智子と向き合っている。
美智子「あなたにお願いがあるの。松崎さんやっていた風紀委員、お願いで
 きないかしら?」
彩乃「えっ?」
美智子「彼女、体調不良でしばらく休学するのよ」
彩乃「……」
美智子「あなた真面目だし向いていると思うの」
彩乃「……わかりました」
   彩乃、渋々といった様子。

〇同・教室
   彩乃、教室に戻ると、理恵と地味な生徒数人が待っている。
理恵「あっ、彩乃、大丈夫だった?」
   心配そうに寄ってくる理恵と他の生徒たち。
   彩乃、頷く。
理恵「よかったー。彩乃が呼び出されるなんて滅多にないから」
   『うんうん』と頷き合う理恵と他の生徒たち。
彩乃「待っててくれてたんだ」
理恵「だって、私たち友達でしょ?」
   『ねー』と、遠慮気味に顔を見合わせて微笑み合う理恵と他の生徒た
   ち。
理恵「じゃあ、帰ろっか」
   鞄を持ち、わらわらと教室を出る理恵たちの後ろに続く彩乃、理恵た
   ちに気づかれないように小さくため息をつく。

〇女子校・正門前(朝)
   登校する生徒たち。
   彩乃と青木一郎(39)、正門前に立っている。
青木「はい、おはよう。おはよう、おいちょっと丈短くないか?」
   服装検査をする青木の横で、挨拶を続ける彩乃。
   青木、コソコソと登校する風紀委員の生徒二人を見つける。
青木「あっ! あいつら。中川、ここ頼む」
   青木、逃げる二人を追いかけていく。
   彩乃、挨拶を続ける。
   登校してくる奈々子、一人立つ彩乃を見つけ近づく。
奈々子「おっはよ~。何してんの?」
彩乃「服装検査。風紀委員の仕事で」
奈々子「一人で?」
   彩乃、頷く。
奈々子「(からかうように笑いながら)真面目過ぎ~」
彩乃「(愛想笑いで)先生に言われたから」
   奈々子、目だけ笑っていない笑顔で、冷たく言い放つ。
奈々子「さすが、テスト上位の人は、先生にも頼られるのね」
彩乃「それは……」
   彩乃、緊張した様子で奈々子を見る。
   奈々子、次第に彩乃を睨んでいると、アップテンポの音楽(ヘッドホ
   ンからの音漏れ)が聞こえて振り返る。
   茶髪に蛍光色の髪ゴム、シャツは第二ボタンまで開け、スカート丈は
   膝上、じゃらじゃらとアクセサリーをつけ、ヘッドホンで音楽を聴い
   ている金田舞子(17)、急ぎ足で来る。
   慌てて呼び止める彩乃。
彩乃「あの、ちょっと!」
舞子「(ヘッドホンの片方を取って)Huh?(何?)」
彩乃「(面食らいつつ)服装、髪ゴムの色、スカート丈。校則でちゃんと決
 まっています」
舞子「So what?(だから何?)」
彩乃「え? あ、えっと、ちゃんと決められた服装で」
舞子「Sorry, I’m in a hurry.(ごめん、ちょっと急いでるんだ)」
   舞子、さっさと走っていく。
   彩乃と奈々子、呆然と舞子を見送る。
奈々子「……何、あの子」
   彩乃、舞子が行った先を見つめ、ため息をつく。

〇高等部・教室(朝)
   各々グループで談笑する生徒たち、美智子が入ってくると、各々の席
   へ。
美智子「えー、今日から新しい仲間が増えます。さ、入って」
   舞子、入ってくる。
   彩乃、『あっ』といった表情。
   美智子、黒板に『金田舞子』と書く。
美智子「金田さんは、ご両親の仕事の都合で九才からアメリカで暮らし、こ
 の夏、日本に帰って来たそうです」
   美智子に促され挨拶する舞子。
舞子「Hello!(やあ!)舞子でーす。よろしくお願いしまーす」
   各々反応する生徒たち。
   彩乃、チラッと奈々子を見る。
   品定めするように舞子を見る奈々子。
美智子「じゃあ、金田さん、あそこの席ね」
   舞子、美智子から彩乃の隣の席に座るよう指示される。
舞子「よろしくね~」
   愛想よく挨拶する舞子に、会釈する彩乃。
   舞子、座り際に彩乃を見てクスッと笑う。
   彩乃、怪訝な表情で舞子を見る。
舞子「(笑いながら)あなた、これにそっくり」
   舞子、生徒手帳の制服の模範絵を見せる。
   笑い続ける舞子に苦笑いの彩乃。

〇女子校・体育館
   体育の授業中。
   バスケットボールをしている。
   率先して動く舞子、シュートを決め、同じチームの地味でおとなしそ
   うな生徒にハイタッチして人一倍喜ぶ。
   ハイタッチされた生徒、戸惑った様子。
    ×    ×    ×
   別チーム同士の試合中。
   人一倍盛り上がった様子で応援する舞子。
   コートの外、自然と各々グループ毎に固まっている中、分け隔てなく
   そのグループ間を行き来する舞子。
   舞子に肩を叩かれたり組まれた生徒たち、戸惑いの表情。
   その中の一人に奈々子、テンション高くハイタッチを舞子からされ
   て、少し嫌悪感を表した表情。
   その様子をコートの向かいで見ている彩乃と理恵たち。
   理恵、ヒソヒソ話す。
理恵「金田さんって変わってるよね」
   頷く同じグループの生徒たち。
   彩乃、舞子を見る。
   舞子、楽しそうに笑っている。

〇高等部・教室
   英語の授業中。
   奈々子がスラスラと英文を読んでいる。
奈々子「I had a breakdown because of a painful relationship the likes of
 which I had never experienced in my school days.(私は学生時代に経験し
 たことがなかったような人間関係で苦しみ挫折しました)」
   読み終わると、褒める楠井義雄(51)。
楠井「Good! ちゃんと読んできているようで、いいですね」
   奈々子、得意気な表情。
楠井「では、続きを……Ms.金田」
舞子「はい。(ネイティブな発音で)The best relationship are the ones you
 didn't expect to be in and the ones you never saw coming.(期待していな
 かったり予想もしていなかった人と最高な関係になれたりするもので
 す)」
   クラス内、好感を抱く者、嫌悪を抱く者が入り交じった状態。
   読み終わると、盛大に褒める楠井。
楠井「Excellent! さすが、帰国子女の発音には敵いませんね」
   拍手する楠井につられて拍手する生徒たち(主に地味なグループ)。
   奈々子、あからさまに嫌悪の表情。
   彩乃、そんな奈々子やクラス内を無表情で窺う。
    ×    ×    ×
   休み時間。
   舞子、佳代を含む地味な生徒たちの中で笑っている。
佳代「すごいね、金田さん。ネイティブな発音でかっこいい」
舞子「(嬉しそうに)え~?! ふふっ」
   奈々子と派手な生徒たち、その様子を少し離れたところから、睨んで
   いる。
   舞子、地味な生徒たちから離れ教室を出る。
奈々子「(わざとらしく)帰国子女なんだから発音が良いの当たり前じゃな
 い」
   佳代や地味な生徒たち、ビクッとする。
   教室内にいる他のグループの生徒たちもヒソヒソ話や不穏な雰囲気。
   舞子、教室に戻ってくると、別の派手な生徒のグループの輪の中へ。
   その派手なグループの生徒たち、嫌悪感を露わにした表情。
   気づいていないのか気にしていない舞子、首を傾げる。
   彩乃、その様子をじっと見つめる。

〇中川家・居間(夕)
   学校帰りの彩乃、居間に入ってくる。
彩乃「ただいま」
   夕食の準備中の中川律子(43)、彩乃に気づく。
律子「おかえり、彩乃。悪いけど、これ買ってきてくれない?」
   彩乃、律子からメモを受け取り、出ようとする。
   ソファーでくつろいでいる中川美咲(14)、彩乃を呼び止める。
美咲「待ってお姉ちゃん。ついでにこれも」
   美咲、レンタルDVDをケースに入れ、彩乃にわたす。
   無言で受け取る彩乃。
律子「美咲! 自分で借りた物は自分で返しに行きなさい!」
美咲「いいじゃん、お姉ちゃん行ってくれるって」
律子「あんたが無理矢理おしつけてるんでしょ」
美咲「そんなことないもん」
   彩乃、二人を無視してさっさと出る。

〇スーパー・店内(夕)
   小さなスーパーの店内。
   彩乃、メモを見ながらカゴに商品を入れていく。
店員の声「ちょっと君! 困るよ」
   青果売り場付近にいる彩乃、声のする方を見ると、舞子と店員がもめ
   ている。
   彩乃、立ち止まり様子を窺う。
店員「売り物のバナナ、千切っちゃだめじゃないか」
舞子「えっ? 量り売りじゃないんですか?」
   キョトンとした様子の舞子。
店員「何言ってるの。この一房で一つの商品じゃないか」
舞子「へぇ~、そうなんだ。(ネイティブな発音で)アメリカのスーパーマ
 ーケットは量り売りだったから」
   彩乃、一瞬去ろうとするが、渋々といった様子で近づく。
   舞子、彩乃に気づく。
舞子「あっ! ねぇ、知ってた? 量り売りじゃないんだって」
   苦笑いの彩乃。
彩乃「(店員に)すみません、ちゃんと買っていきますから。(舞子に)
 ね?」
舞子「(渋々と)仕方ないな~」
店員「次からは気をつけてね(やれやれといった様子で去る)」
   舞子、ちぎったバナナを見つめる。
舞子「日本のスーパーマーケットってどんな感じなんだろうと思って来たん
 だけど、決まった量を買わないといけないなんて面倒ね」
   さっさと去ろうとする彩乃を呼び止める舞子。
舞子「あ、待って待って」
   立ち止まり振り返る彩乃に微笑む舞子。
舞子「彩乃も買い物?」
   彩乃、無言で頷く。
舞子「一緒に見てもいい?」
   彩乃、少し戸惑った様子。
   舞子、興味津々に彩乃に近づく。
   彩乃、諦めた様子で歩き出す。
    ×    ×    ×
   レジの列に並ぶ彩乃と舞子。
   舞子、彩乃にバナナを差し出す。
舞子「ねぇ、代わりに買ってくれない?」
彩乃「えっ?」
舞子「私、こんなにいらないのよ。だから、お願い。買ってよ」
   彩乃、渋々受け取ろうとすると、バナナをひょいっと上にあげる舞
   子。
舞子「(笑って)ウソウソ! 冗談!」
彩乃「えっ?」
舞子「ちゃんと自分のお金で買うよ。もう、彩乃ったら、言われるがままな
 んだから」
   楽しそうに笑う舞子。
   彩乃、ぶすっとした表情。

〇同・店先(夕)
   彩乃と舞子、店から出てくる。
彩乃「じゃあ、私、こっちだから」
舞子「あっ待って。(バナナを一本わたす)はい、これ」
   彩乃、怪訝な表情。
   舞子、微笑む。
舞子「楽しかった。今日のお礼に一本あげる」
彩乃「はぁ、あ、ありがとう」
舞子「じゃあ、またね」
   舞子、さっさと去る。
   彩乃、呆然と立ち尽くす。

〇高等部・教室(朝)
   彩乃、自分の席で授業の準備。
   チャイムが鳴る中、ギリギリで登校してくる舞子。
舞子「(彩乃に笑顔で)おっはよ~」
彩乃「(戸惑いつつ)お、おはよう……」
   鼻歌まじりに授業の準備をする舞子。
   彩乃、それを横目で見る。

〇同・廊下
   廊下を理恵や地味な生徒たちと歩く彩乃。
   奈々子、派手な生徒三人を引き連れ、廊下の真ん中を歩いてくる。
   廊下の端に寄って道を開ける彩乃や理恵たち。
   欠伸をしながら歩いてくる舞子、廊下の真ん中で奈々子たちとぶつか
   りそうになる。
   近くにいた佳代、舞子の服の袖を引っ張り廊下の端へ。
   奈々子たち、舞子を一睨みして歩いていく。
舞子「な~に?」
佳代「(小声で)姫ご一行が歩いているんだからよけなきゃ」
舞子「姫?」
佳代「井口さん。お金持ちで、この学校に多額の寄付をしてるから、誰も逆
 らえないのよ」
舞子「ふ~ん」
   舞子、興味なさそうに辺りをキョロキョロ、彩乃を見つけ、笑顔で手
   を振る。
   彩乃、気づいていないふり。

〇同・下駄箱(夕)
   下校時間。
   彩乃、靴を履き替えていると、舞子が来て話しかける。
舞子「ねぇ、これから一緒に(ネイティブな発音で)マクドナルド行こう
 よ」
彩乃「マク? え? 何?」
舞子「マクドナルド。ハンバーガーとか」
彩乃「ああ、マックね」
舞子「ね、行こう」
彩乃「行かない」
舞子「え? どうして?」
彩乃「校則で決まっているから。放課後の寄り道は禁止って」
舞子「え~いいじゃん、行こうよ」
彩乃「ごめん、急いでるから」
   彩乃、少し先で待つ理恵たちの所へ急ぐ。

〇道(夕)
   彩乃、分かれ道で理恵たちと別れ一人になる。
   電柱の陰から舞子が飛び出す。
   驚く彩乃。
舞子「私、行きたいとこ、いっぱいあるの」
彩乃「(素っ気なく)ごめん、校則で決まってるから」
   彩乃、舞子をよけて歩いていく。

〇中川家・玄関前(夕)
   疲れた様子で帰ってくる彩乃。
舞子「へぇ~、結構大きい家に住んでるんだ~」
   彩乃、背後から聞こえる舞子の声に振り返る。
   舞子、ニッと笑って立っている。
彩乃「なんでついてくるの?」
舞子「ついていきたいから」
   彩乃、ため息をついて家の中に入ろうとする。
舞子「おじゃましまーす」
彩乃「ちょ、ちょっと待って!」
   扉を開けるのをやめて、舞子をとめる彩乃。
彩乃「これ以上ついてこないで」
舞子「じゃあ、今度は彩乃がついてきてよ」
彩乃「(ため息)わかったよ。でも、休みの日にね」
舞子「やったー!」
彩乃「お母さんに許可書書いてもらわなくちゃ……」
舞子「何それ?」
彩乃「保護者同伴なしで、単独もしくは友達同士で飲食店とか繁華街とか行
 っちゃいけないの。知らない?」
舞子「そんな馬鹿げた事知らな~い」
彩乃「校則で決まっているの。もし行く場合は、許可書を学校に提出しなき
 ゃいけないんだから」
舞子「面倒くさ~」
彩乃「ちゃんとそっちも親に書いてもらってね」
舞子「え~」
彩乃「じゃないと行かない」
舞子「わかったよ。仕方ないなぁ」
   さっさと帰っていく舞子。
   彩乃、疲れた様子でため息。

〇同・玄関中(朝)
   彩乃、私服で靴を履く。
   部屋から出てくる美咲、彩乃に気づく。
美咲「あれっ? どこ行くの?」
彩乃「ちょっと、人と会うの」
美咲「珍しいね。休みの日に。(含み笑いで)もしかして彼氏?」
彩乃「違う。女子」
美咲「(つまらなさそうに)ふ~ん。お姉ちゃんにもそんな友達いたんだ」
彩乃「べつに。誘われたから会うだけ」
   彩乃、さっさと出る。

〇繁華街
   賑わう繁華街。
   興味津々な様子で周りをキョロキョロと楽しそうな舞子と、その数歩
   後ろを不安そうに周りをキョロキョロして歩く彩乃。
彩乃「ねぇ……ちょっと人多いから、こっちの道に……」
   聞いていない舞子、映画館の前で急に立ち止まる。
舞子「これ観たい! 昨日CMでやってたの」
   舞子、さっさと映画館の中へ入る。
   彩乃、戸惑いつつ舞子についていく。

〇映画館・シアター内
   無表情で観ている彩乃、大きなサイズのポップコーンを持たされた状
   態。
   楽しそうに観る舞子、度々彩乃に持たせたポップコーンをつまむ。

〇同・外
   舞子、楽しそうに出てくる。
   それに続く彩乃。
舞子「面白かったね~」
彩乃「うん……」
   生返事の彩乃に気にせず話す舞子。
舞子「あの角のカフェに行きたい! ネットでパンケーキが美味しいって」
   舞子、さっさと歩いていく。
   彩乃、戸惑いつつ舞子についていく。

〇カフェ
   チョコレートと生クリーム盛り沢山のバナナ入りパンケーキ。
   舞子、パンケーキを美味しそうに食べている。
   ドリンクのみの彩乃、居心地悪そうにアイスティーを飲む。
   舞子、パンケーキを一口、彩乃に食べさせる。
舞子「はい、アーン」
彩乃「え……」
舞子「アーン」
   彩乃、戸惑いつつも一口もらう。
   笑顔の舞子。

〇繁華街
   楽しそうに歩く舞子の後ろを疲れた様子で歩く彩乃。
舞子「こっちよね? 有名な観光スポットがあるの」
   彩乃、ずんずん進む舞子にうんざりした様子でついていく。
   舞子、急に振り返る。
舞子「楽しい?」
   彩乃、突然すぎて返事ができない。
   笑顔で見つめてくる舞子。
彩乃「え、えっと……」
   チャラそうな男、舞子に話しかける。
男「君、かわいいね~。一人? 一緒にどっか行かない?」
   彩乃の前に背を向けて立ちはだかる男、舞子だけを見ている。
舞子「え~?!」
男「ね? いいじゃん、行こうよ」
   彩乃、げんなりした様子でため息。
舞子「ごめ~ん、また今度ね~」
   舞子、まんざらでもない態度を取りつつ、彩乃の手を取り、先に進
   む。
   彩乃、戸惑いつつも舞子についていく。

〇女子校・正門前(朝)
   彩乃を含む風紀委員たち、並んで、登校してくる生徒たちに向けて、
   挨拶、服装検査をしている。
   舞子、登校時間ギリギリで走ってくる。
   青木、舞子を呼び止める。
青木「おい、金田! 待ちなさい!」
舞子「なんですかぁ?」
青木「お前、ちょっと服装が乱れている」
舞子「え~?!」
   青木、舞子の違反箇所を指しながら。
青木「髪ゴムは黒、シャツのボタンは上まで、スカートは膝下十センチ」
舞子「ちょっとぐらい、いいじゃないですか」
青木「ダメだ。校則で決まっている」
   彩乃、二人のやりとりを横目で見る。
舞子「日本はどうしてこんなに堅苦しいの? 制服くらい好きなように着た
 っていいじゃない」
   不満そうな舞子、同意を求めるように彩乃に話を振る。
舞子「ねぇ?」
彩乃「え? えっと……」
青木「(ため息)そんな事言ってもな、決まりだから。ちゃんと守りなさ
 い」
舞子「そんな決まり、知~らない」
   舞子、さっさと去る。
   青木、ため息をつき、彩乃に話しかける。
青木「中川、あいつと仲良いんだったら、お前からも注意してやってくれ」
彩乃「え? 私から……ですか?」
青木「先生より友達からの方が聞くだろ、たぶん」
彩乃「いえ、あの、私、べつに友達では……」
青木「頼むぞ」
彩乃「はい……」
   彩乃、ため息をつく。

〇高等部・教室(朝)
   憂鬱そうな彩乃、教室に入る。
舞子「あ、お疲れ~」
   席に座る彩乃に笑顔を向ける舞子。
彩乃「あ、あのさ……」
   彩乃、舞子に恐る恐る話しかけるが、チャイムが鳴り諦める。

〇同・廊下
   教科書を持って移動する生徒たち。
   グループの後ろについて歩く彩乃に話しかける舞子。
舞子「一緒に行こ」
   彩乃、並んで歩く舞子を横目でチラチラ見てから、話しかけようと口
   を開く。
彩乃「あの……」
舞子「あっ! ノート忘れた! 先に行ってて!」
   舞子、慌ただしく戻っていく。
   彩乃、舞子を見送ってため息をつく。

〇道(夕)
   並んで歩く彩乃と舞子。
   落ち着かない様子の彩乃、俯き加減で舞子に話しかける。
彩乃「あ、あのさ……服装の事だけど……やっぱ校則で決まってる事は、ちゃ
 んとした方がいいと……」
   彩乃、意を決して舞子の方を見るが、舞子がいない。
   彩乃、辺りを見回す。
   舞子、近くのコンビニからアメリカンドッグを食べながら出てくる。
   呆れた様子の彩乃にアメリカンドッグを差し出す舞子。
舞子「食べる?」
彩乃「いや、いい……」
   さっさと歩いていく舞子。
   彩乃、気づかれないように舌打ちをする。

〇高等部・教室(朝)
   朝礼中、各々の席で立ち、十字を切る生徒たち。
   朝礼が終わり、授業の準備をする生徒たち。
   美智子、舞子を呼ぶ。
美智子「金田さん、ちょっと」
   教室の隅に立つ舞子と美智子。
美智子「あなた、昨日、下校途中に買い食いしたでしょ?」
舞子「それが、どうかしたんですか?」
美智子「ダメじゃない。そんな事しちゃ」
舞子「いいじゃないですか、ちょっとくらい」
美智子「ちょっとでもダメ。校則で決まっているの」
舞子「え~? だってお腹すいたから」
美智子「(ため息)あのね、だからって……」
   彩乃、その様子を横目に授業の準備をしている。

〇同・教室
   昼休み。
   彩乃、理恵たちの方を気にしつつ、舞子と二人で昼食中。
   舞子、バナナを食べながら、彩乃の弁当の中身を見つめる。
   家庭的なおかずが入った彩乃の弁当。
舞子「おいしそう。一つちょうだい」
   彩乃の返事を待たずにつまみ食いする舞子。
   彩乃、うんざりした様子でため息。
彩乃「あのさぁ……服装の事だけど……」
舞子「ん? 何?」
彩乃「服装。先生も言ってたけど、ちゃんと校則守った方がいいと思う」
舞子「(笑いながら)やっぱり、彩乃は真面目だね」
   笑う舞子にムッとする彩乃。
舞子「ねぇ、どうしてそんなに校則を守るの?」
彩乃「えっ?」
舞子「そんなに守らないといけないもの?」
彩乃「だって……規則だから」
   舞子、じっと彩乃を見つめる。
   舞子の視線に居心地悪そうな彩乃。
彩乃「……規則を守って真面目にしとけば、目をつけられる事ないし、面倒
 な事に巻き込まれなくてすむし」
   はっと我に返る彩乃、ぶすっとした表情でそっぽを向く。
舞子「ふ~ん。それも校則で決まっているの?」
彩乃「は?」
舞子「疲れない? そんなガチガチに守られて」
彩乃「でも、校則で決まっている事は守らないと」
舞子「本当はそんな事思っていないんじゃないの?」
彩乃「えっ?」
舞子「な~んてね。あ、ゴミ捨ててこよっと」
   さっさと立ち去る舞子、少し微笑んでいる。

〇同・下駄箱(夕)
   放課後。
   下駄箱に近づく彩乃、舞子が下駄箱の前に立っているのに気づく。
   彩乃に気づいていない様子の舞子、メモを見ている。
   メモには、舞子に対する誹謗中傷が書かれている。
   彩乃、特に気にも留めず自分の下駄箱を開ける。
   舞子、彩乃に気づき、メモをひらひらさせる。
舞子「見て見て! こんなの入ってた」
   楽しそうに笑う舞子。
   彩乃、不思議そうに舞子を見る。
彩乃「……嫌じゃないの?」
舞子「は? なんで?」
彩乃「だって……」
舞子「(吹き出すように笑って)こんなの気にしないといけない校則でもあ
 るの?」
彩乃「いや、そんなのはないけど……」
   舞子、メモを紙飛行機にして飛ばしては拾ってを繰り返しながら歩い
   ていく。
   彩乃、ため息をつき、舞子についていく。

〇道(夕)
   一人歩く佳代。
   奈々子、派手なグループと共に、佳代を取り囲む。
   奈々子、びくびくした様子の佳代に微笑みかける
奈々子「やってくれた?」
   佳代、頷く。
   奈々子、満足そうな笑みを佳代に向け、派手な生徒三人を引き連れ去
   っていく。

〇高等部・教室
   国語の授業中。
   舞子、居眠りしている。
   教師の目を盗み、生徒間でメモを回している。
   真面目に授業を聞いている彩乃にも届くメモ。
   彩乃、メモを見てみる。
   メモには、『今日からキャナダは無視』と書かれている。
   彩乃、無表情で舞子を見つめた後、チラッと奈々子を見る。
   奈々子、含み笑い。
   彩乃、納得した様子でメモを次に回す。
   面倒くさそうにため息をつく彩乃。

〇女子校・体育館
   体育の授業中。
   バスケットボールをしている彩乃のクラスの生徒たち。
   試合に参加中の舞子、積極的に動いている。
舞子「パス! パスパス!」
   舞子、元気よくパスを求めるが、一切回してもらえない。
   舞子、それでもボールに食らいつこうと動く。
    ×    ×    ×
   授業が終わり、教室に戻る生徒たち。
   舞子、その生徒たちに明るく話しかける。
舞子「ねぇねぇ、次の家庭科って、教室、実習室だっけ?」
   舞子を無視する生徒たち。
   舞子、別の生徒たちにも話しかけようとするが、あからさまに舞子を
   避けて去っていく生徒たち。
   舞子、ぽつんと佇む。

〇高等部・教室
   休み時間の教室内。
   舞子、盛り上がっている派手な生徒たちの会話に入ろうとする。
舞子「なになに? 何の話?」
   派手な生徒たち、あからさまに舞子を無視する。
   舞子、気にせず、近くの地味な生徒たちの会話に参加しようと近づ
   く。
   地味な生徒たち、ぎこちなさそうに舞子から離れる。
   ぽつねんとする舞子。
   奈々子とそのお付きの派手な生徒三人、意地悪そうな笑みを浮かべ、
   舞子の様子を眺めている。
   彩乃、その様子を無表情で見ている。

〇同・廊下
   談笑しながら歩く理恵や地味な生徒たち。
   その後方に愛想笑いの彩乃がいる。
   舞子、彩乃に近づき話しかける。
舞子「彩乃」
   理恵たち、舞子に気づくと、関わらないようにさっさと去る。
   置いていかれる彩乃、理恵たちについていこうと舞子を無視する。
   舞子、お構いなしに話を続ける。
舞子「今度の休みにさぁ、クレープ食べに行こうよ。美味しいとこあるっ
 て、テレビで言ってて」
彩乃「え、あー……う~ん……」
   彩乃、無視しきれず中途半端な態度を取る。
   奈々子、その様子を不機嫌そうに見ている。
    ×    ×    ×
   舞子から解放され、一人歩く彩乃。
   奈々子、彩乃に近づく。
奈々子「彩乃」
   彩乃、奈々子を見ると、奈々子は愛想よく微笑んでいる。
奈々子「わかってるよね? 言われた事はちゃんとしなくちゃ」
   奈々子をじっと見つめる彩乃。
   奈々子、彩乃をじっと見つめ返し、より一層笑みを深める。
奈々子「松崎みたいになりたいの?」
   彩乃の表情に緊張が走る。
   さっさと去る奈々子。
   彩乃、面倒くさそうに頭をかき、周りに誰もいないのを確認する。
   彩乃、誰もいないとわかると、近くの壁を叩く。
   彩乃、ため息をつきながら、少し痛そうに手をさする。

〇同・教室
   彩乃、次の授業の準備をしている。
   舞子、いつもの調子で話しかける。
舞子「ねぇねぇ、さっきの話だけど、ついでに映画も観てね、その後に」
   彩乃、舞子を無視するが、ぎこちない様子。
   舞子、彩乃をじっと見つめる。
舞子「彩乃?」
   彩乃、舞子の視線から逃げるように顔を背ける。
   舞子、小さくため息。
舞子「べつにいいんだよ? 無視するなら無視して。どうせ、決められた事
 しかできないんだから」
   ビクッとして振り返る彩乃。
   舞子、そんな彩乃を一瞥して去る。
   立ちすくむ彩乃に近づく奈々子。
奈々子「やっぱり彩乃は真面目だね。ちゃんとやってくれるって信じてた」
   意地悪そうな笑みを残して去る奈々子。
   彩乃、苛立ちを隠せない様子で教科書を持つ手に力を込める。

〇同・廊下
   教科書を持って移動する生徒たち。
   各々グループで移動する生徒たちの間を一人歩く舞子。

〇同・理科室
   グループ毎に和気あいあいとした様子で、実験をしている。
   舞子、一人、外を眺めている。
   理恵たちと実験中の彩乃、舞子の様子をチラッと窺う。

〇同・教室
   昼休み。
   各々グループで集まり昼食をとっている。
   舞子、コンビニの袋を持って教室から一人で出る。
   理恵たちと昼食中の彩乃、舞子を目で追う。
   理恵、その視線に気づく。
理恵「かわいそうに、金田さん……」
   彩乃、理恵を見つめる。
   沈黙するグループ内。
   理恵、彩乃を見つめ返す。
理恵「でも、ああならないように気をつけないとね」
   じっと見つめる理恵に、愛想笑いの彩乃。
   再び談笑するグループ内をよそに、クラス内を見わたす彩乃。
   舞子の存在など初めからなかったかのようなクラス内。
   彩乃、そんな様子を厳しい目つきで見つめる。
    ×    ×    ×
   十字を切り、終礼(帰りの祈りの時間)が終わるクラス内。
   彩乃、帰る支度をする舞子に話しかけようとする。
彩乃「あ、あの……」
   理恵、彩乃の腕をそっと掴む。
理恵「彩乃」
   彩乃、理恵と目が合う。
   じっと彩乃を見つめ返す理恵、彩乃の腕を掴んだまま、教室の外へ連
   れ出す。

〇同・廊下(夕)
   理恵、人が少ない廊下の隅へ彩乃を連れてくる。
理恵「……やめときなよ」
彩乃「えっ?」
   心配そうに彩乃を見つめる理恵。
理恵「おとなしくしとこ……ね?」
彩乃「……」
   彩乃、理恵から目をそらし、教室から出てきた舞子を目で追う。
理恵「……嫌になったの?」
   彩乃、理恵を見る。
   じっと彩乃を見つめる理恵。
   奈々子、派手な生徒三人を引き連れ、彩乃と理恵の横を通る。
奈々子「(彩乃と理恵に)どうしたの~?」
   ハッとなる理恵、緊張した様子になる。
   彩乃、少し面倒くさそうに奈々子に微笑みかける。
彩乃「ううん、なんでもない」
奈々子「(少し間をおいて)そう、じゃあね」
   去っていく奈々子たち。
   気まずそうに目をそらす理恵。
   彩乃、小さくため息。

〇道(夕)
   理恵や地味な生徒たちの後方を歩く彩乃。
   彩乃、冷めた様子で、談笑する理恵たちを見つめている。
   理恵、綾乃の様子に気づき、顔が曇る。
   彩乃、理恵の視線に気づき、慌てて微笑みかける。
   再び他の生徒との会話に戻る理恵。
   彩乃、疲れた様子で小さくため息。
    ×    ×    ×
   理恵たちと別れ、一人になる彩乃。
   愛想よく手を振る彩乃、理恵たちが見えなくなると、大きくのびをす
   る。
彩乃「(小さく息を吐き)嫌になったというより……」
   彩乃、振り返り足早に歩いていく。

〇高等部・教室(朝)
   教室に入る彩乃、舞子の方へ目を向ける。
   舞子、一人興味なさそうに窓の外を眺めている。
   彩乃、席に座る時チラッと舞子を見るが、その後は無関心な様子。
   舞子、彩乃が席に座る時に一瞥するが、再び視線は窓の外へ向ける。
   お互い違う方向を見つめる彩乃と舞子。

〇同・廊下
   昼休み。
   理恵や地味な生徒たちの後方を歩く彩乃。
   女子トイレ前に来る理恵たち、連れ立ってトイレに入っていこうとす
   る。
彩乃「あ、私はいいや。先に行ってるね」
   地味な生徒の面々、顔を見合わせる。
   彩乃、さっさと歩いていく。
   トイレに入る他の面々をよそに、理恵、去っていく彩乃を見つめる。

〇同・教室(夕)
   十字を切り、終礼が終わるクラス内。
   彩乃、帰る支度をする舞子の様子を窺っている。
   意を決した様子で席を立つ彩乃。
   奈々子、彩乃に親しげに話しかけてくる。
奈々子「ねぇ」
   視線がかち合う彩乃と奈々子。
   彩乃、奈々子をあからさまに無視して、舞子に話しかける。
彩乃「舞子」
   舞子、視線は彩乃には向けず、動きを止める。
   じっと舞子を見つめる彩乃。
彩乃「一緒に帰ろう」
   驚いた様子で、彩乃を見る舞子と奈々子。
   それとなく様子を窺っているクラス内の生徒たち、少しざわつく。
   その中に暗い表情の理恵。
   舞子、彩乃に愛想笑い。
   彩乃、愛想笑いと気づき、顔が曇る。
   舞子、何も言わず、彩乃を避けるように去る。
   奈々子、彩乃を睨んで去る。
   一人佇む彩乃。

〇道・コンビニ前(夕)
   一人歩く彩乃、コンビニの前で立ち止まり、中に入ろうか迷う様子。
   彩乃、意を決した様子で入ろうとした時、中から私服姿の由美が出て
   きてぶつかりそうになる。
   驚く彩乃と由美。
彩乃「松崎さん……」
   気まずそうに向かい合う彩乃と由美。

〇公園(夕)
   人気の少ない公園。
   彩乃と由美、少し間を開けてベンチに座っている。
   彩乃、由美の手を盗み見る。
   包帯の取れた手、傷も何もない。
   由美、彩乃の視線に気づき、手をさする。
由美「べつに、そこまで執着していたわけじゃないけど、他人によって駄目
 にされるとなんかね……」
   由美、呆れたように笑う。
由美「何が神の元に平等なの?」
彩乃「平等なんじゃない? 皆、平等に不平等が与えられてるって、私は思
 う」
由美「じゃあ、平和のための道具にしてくれって……人を何だと思っている
 んだか」
彩乃「何とも思ってないんじゃない? 人じゃないから」
由美「私には無理……でも」
   立ち上がる由美。
由美「あんなクズみたいな所でも、一つだけ良いところがあった。図書館だ
 けは充実してる」
   由美、振り向き彩乃を見る。
   彩乃、頷く。
由美「どんなに嫌なところにも、必ず一つは良いところがあるものなのか
 な?」
彩乃「さぁ、それは知らない」
由美「……ねぇ」
   由美、真剣な表情。
由美「逃げないでね」
   彩乃、無表情。
由美「私は逃げちゃったけど」
彩乃「(少し笑って)意外と勝手なんだね」
   由美、笑って頷き、去る。

〇女子校・図書館(朝)
   朝早く人気の少ない館内、彩乃、閲覧席に座り、『世界の悪魔・化け
   物図鑑』を読んでいる。
彩乃「(ボソッと)本当……似たような奴らがいっぱい……」
   力なく笑う彩乃、パタンと図鑑を閉じる。

〇高等部・教室(朝)
   登校時間中の教室内。
   彩乃、教室入ると、一瞬静かになるクラス内。
   彩乃、無表情で教室内を一瞥。
   クラス内、彩乃の存在などなかったかのように、再び賑やかになる。
   理恵、彩乃をじっと見つめるが、再び地味な生徒たちと談笑する。
   彩乃、一人自分の席でぽつねんとする。
   先に席についていた舞子、その様子をチラッと見て、再び物思いにふ
   ける。
   彩乃、せいせいした様子で、鞄から教科書を出しつつ、舞子の様子を
   窺う。
   ひとりぼっちの舞子。
   舞子、彩乃の視線に気づき、彩乃を見る。
   目が合う彩乃と舞子、じっと見つめ合う。

〇同・女子トイレ
   一人手を洗っている彩乃。
   理恵が周りの様子を伺いながら、そっと入ってくる。
   彩乃、鏡越しに理恵を一瞥、興味なさそうな様子。
   少しムッとする理恵。
理恵「本当は馬鹿にしてたんでしょ?」
彩乃「……」
理恵「無理だよ、彩乃には……奈々子たちのところには行けない」
彩乃「……」
理恵「……私たちのところにも、もう戻れないから」
   去ろうとする理恵。
彩乃「そんなにどっちかにいなきゃいけない?」
   立ち止まる理恵に目を向ける彩乃。
彩乃「どうでもいいじゃん」
   じっと彩乃を見つめる理恵、近づいてくる人の声に、足早に去ってい
   く。
   彩乃、深く息を吐き、鏡の中の自分を見つめる。

〇同・廊下
   休憩時間中。
   一人歩く彩乃を追い抜く理恵たち地味グループ。
   理恵、追い抜きざま彩乃と目が合うがすぐに視線をそらす。
   無表情で理恵たちを見送る彩乃、奈々子率いるグループとすれ違う。
   奈々子、すれ違いざまにわざとらしく彩乃の足をひっかける。
   こける彩乃。
奈々子「あ、ごめーん」
   馬鹿にしたように笑いながら去る奈々子たち。
   彩乃、やれやれといった様子で立ち上がり、スカートを払う。
   彩乃、顔を上げると舞子が歩いてくる。
   お互い見て見ぬふりの彩乃と舞子、すれ違いざまに目が合う。

〇同・下駄箱(夕)
   放課後。
   彩乃、一人、下駄箱に近づくと、舞子が下駄箱の前で待っている。
   彩乃、一瞬躊躇するが、無言で靴を履き替える。
   無言で佇む舞子。
   彩乃、靴を履いてその場を去ろうとする。
舞子「……これから遊びに行かない?」
   彩乃、立ち止まり、舞子を見る。
   舞子、じっと彩乃を見つめている。
彩乃「でも、校則で(言いかけてやめる)……」
   舞子から視線をそらし、少し息を吐く彩乃。
彩乃「真面目にするの、しんどいのよね」
   彩乃、舞子を見て笑いかける。
   舞子、笑い返す。

〇繁華街(夕)
   制服姿の彩乃と舞子、並んで歩いている。
   舞子、チョコバナナのクレープを片手に、興味津々で周りを見てい
   る。
   彩乃、周りを気にせずクレープを食べながら、舞子に笑いかけ楽しん
   でいる様子。

〇高等部・教室
   休み時間中の教室内。
   彩乃と舞子、教室に入ってくる。
   クラス内、一瞬静かになるが再び談笑し始め賑やかになる。
   奈々子と派手な生徒の面々、彩乃と舞子を意地悪そうな笑みを浮かべ
   て見ている。
奈々子「私、見ちゃったのよね~」
   静かになる教室内。
   奈々子、スマホを取り出し、制服姿でクレープ片手に歩く彩乃と舞子
   の画像を見せる。
   意地悪そうな笑みを浮かべ彩乃と舞子を見る奈々子。
奈々子「これはグリーンルーム行きだね」
   奈々子を見据える彩乃と舞子。
   奈々子に近づこうとする舞子の肩をそっと掴む彩乃。
   彩乃、振り返る舞子にじっと見つめ、前に出る。
   彩乃、奈々子に近づく。
彩乃「私があなたに何かした?」
奈々子「はぁ?」
   静かに尋ねる彩乃を馬鹿にした目で睨む奈々子。
   彩乃、冷たい目で奈々子を見返し、クラス内を眺める。
彩乃「誰もここで何もしていないじゃない」
   談笑をやめて彩乃を見るクラスメイトたち。
彩乃「(吐き捨てるように)誰も自分の意思で動いていないくせに」
   鼻で笑う彩乃。
奈々子「何言ってるの、こいつ」
   馬鹿にした様子で笑う奈々子と派手な生徒の面々。
奈々子「ほら、校則破ったんだからグリーンルームへ行きな! それとも学
 校から消える?」
   生徒手帳の校則のページを見ながら、クスクスと笑う舞子。
舞子「校内での携帯使用禁止だって。(スマホを指さし)それもアウトだ
 ね」
奈々子「私は例外。だってこの学校は私んちのお金でもってるもんだから」
   高らかに笑う奈々子、彩乃を突き飛ばす。
   舞子、彩乃をかばおうとする。
   彩乃、舞子を制し、奈々子の頬を打つ。
   どよめくクラス内。
奈々子「何すんのよ!」
   奈々子、頬を押さえながら彩乃を睨む。
奈々子「彩乃の分際で……あんたみたいな下っ端は、私たちの言いなりにな
 ってりゃいいのよ!」
   彩乃、意地悪そうに笑いながら、奈々子を見る。
   彩乃と奈々子の様子に、地味なグループの生徒の中から、ちらほらと
   奈々子たちの派手なグループを反感の目で見る者が出てくる。
   ヒソヒソと話しながら、奈々子たちに嫌悪の目を向ける理恵や佳代を
   含む地味な生徒たち。
   そんな視線を受け、次第に居心地の悪そうな表情になる奈々子のグル
   ープの面々。
   そんな中、睨み合う彩乃と奈々子。
   舞子、驚きつつも楽しそうにその様子を眺めている。

〇同・グリーンルーム
   窓には緑のカーテン、本棚には聖書が並ぶ静かな部屋。
   悦子が監視する中、彩乃と舞子が机に向かっている。
   黙々と反省文を書く彩乃。
   舞子、反省文を書こうとしてやめる。
   白紙の原稿用紙を見つめる舞子、立ち上がり、自分の反省文を手に取
   り破く。
   驚く彩乃にニッと笑いかける舞子。
   彩乃、自分の反省文を見つめ、破き、舞子に微笑む。
   声を荒げて注意する悦子。
悦子「なんて事を! 座りなさい!」
   舞子、彩乃の手を取り、部屋から出る。

〇同・廊下
   まっすぐ前を見てずんずん歩く舞子。
   少し遅れ気味についていく彩乃、次第に舞子と並んで歩く。
   楽しそうに笑いあう彩乃と舞子、開け放たれた出入り口から校舎の外
   へ出る。

                              (了)

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