映像シナリオ「STOP! 水洗化」

概要:シナリオ学校の課題にて執筆。“水”というテーマで、短編の映像シナリオという条件あり。尺は約15分。2008/11/24作。

〇ログライン
 トイレの水洗化に困惑のトイレのお化けたちの署名運動。

〇登場人物
花子(トイレの花子さん)
青坊主
河童
紫ババァ
赤い紙・青い紙
看護婦と死体
ベートーベンとバッハの肖像画
モナリザの絵
初代校長の銅像
小学生の子どもたち
用務員


〇 小学校・廊下(夜)
   木造校舎のしんと静まりかえった廊下。
   小学生の男女四人が身を寄せ合い、恐る恐る歩いている。
   時折、廊下が軋む音がする。

〇 同・女子トイレ(夜)
   薄暗くジメジメとした女子トイレ。
   恐る恐る入ってくる小学生の男女四人、三番目の個室の前で立ち止ま
   ると、顔を見合わせ意を決したように一人の男子が扉を叩く。
男子A「は~なこさ~ん」
   じっと耳を澄ませる男女四人。
花子「は~い」
   三番目の個室から微かに聞こえてくる声に驚き、恐怖に満ちた表情で
   走り去る男女四人。
   誰もいなくなり静まりかえる女子トイレ。
   三番目の個室の扉が開き、花子が出てくる。
花子「ちょろいな」
   にやっと笑う花子。
   他の個室から青坊主、紫ババァ、河童が出てくる。
青坊主「また肝試しか」
紫ババァ「子どもは元気じゃのう」
河童「そうじゃないと脅かし甲斐がないぜ。ケケケッ」
   楽しそうに話す青坊主、紫ババァ、河童。
青坊主「人気者だなぁ、花子さんは。いっつも花子さんばっかり呼ばれてズ
 ルイよ」
花子「トイレの看板娘だからね~」
   得意そうに笑う花子。
   古くなりボロボロの扉や汲み取り式の便器を見ながら、しみじみと話
   す紫ババァ。
紫ババァ「それにしてもここのトイレも古くなったもんじゃのぉ」
青坊主「あ、そのことなんだけど、校舎も古くなったことだし建て替えの話
 が出てるらしいよ」
花子「マジ?!」
青坊主「ああ。この前、子どもが話してたらしいよ。なぁ、赤い紙・青い
 紙」
   青坊主、天井に向かって声をかけると、天井からしわがれた声が聞こ
   えてくる。
赤い紙・青い紙「う~ん、言ってた~」
青坊主「しかもトイレも水洗トイレになってキレイになるらしい」
花子「へぇ~、キレイになるのはいいわね。あ、でも汲み取り式のトイレじ
 ゃなくなったら、あんたたちの居場所なくなっちゃうんじゃない?」
   花子、意地悪そうな笑みを浮かべ青坊主と河童を指差す。
花子「河童の用をたしている子のお尻をなでるっていう、チカンまがいの行
 為もできなくなるね」
河童「うるせぇ! チカン言うな!」
   不満そうに花子を睨む河童。
   河童を宥める青坊主。
青坊主「まあまあ……でだ、校舎はともかくトイレ水洗化計画反対の署名を
 集めたいと思うんだ」
花子「署名?」
   驚いた表情で青坊主を見る花子、河童、紫ババァ。
青坊主「うん、だって居場所なくなるの嫌だもん。ほら、皆も書いて」
   青坊主、すかさず署名用紙とペンを出し、花子たちに向ける。
   署名用紙の記入欄の一番上に青坊主の名前が書かれている。
   真っ先に名前を書く河童に続いて紫ババァも名前を書く。
   花子がしぶしぶといった表情で書くと、青坊主、天井に向かって声を
   かける。
青坊主「赤い紙・青い紙もよろしく」
   天井から血まみれの手が出てきて、名前を書き始める。
紫ババァ「しかし青坊主よ、わしらだけじゃ足りないのではないか?」
青坊主「うん、だから学校中のお化けに頼もうと思うんだ。花子さん、一緒
 に来て」
   急に名指しされて驚く花子。
花子「はぁ?! 何で私なのよ!」
青坊主「だってトイレの看板娘なんだろ? それに花子さん、人気者で顔も
 広いから皆に頼みやすいし。お願い!」
花子「……仕方ないわね」
   しぶしぶといった表情の花子。
青坊主「やった! ありがとう! じゃあ早速行こう!」
   笑顔で喜ぶ青坊主、花子を連れてトイレを出て行く。

〇 同・廊下(夜)
   薄暗い廊下を歩く花子と青坊主。
青坊主「さてと、誰からお願いしようか?」
花子「この先に大きな鏡があるのよ。そこから死体を運ぶ看護婦さんが出て
 くるから、その人からにしよう」
   薄暗い廊下の突き当たりに大きな鏡があり、花子と青坊主の姿が映
   る。
   花子と青坊主が近づくにつれ、鏡の中の二人の姿が担架で男の死体を
   運ぶ看護婦の姿に変わっていく。
   鏡の中から出てくる青白い顔の看護婦。
花子「こんばんは」
看護婦「あら、花子さん。どうしたの?」
花子「ちょっとお願いがあって。ほら」
   花子、隣でモジモジしている青坊主を肘で突いて促す。
青坊主「トイレ水洗化計画反対の署名お願いします!」
   看護婦に署名用紙を向ける青坊主。
看護婦「署名? いいわよ~」
   快く引き受ける看護婦、署名用紙に名前を記入する。
看護婦「はい」
   看護婦、署名用紙を青坊主にわたすと、花子に向かい小声で話しかけ
   る。
看護婦「ところで花子さん。なんかいい死体ないかしら」
花子「死体ですか?」
看護婦「ええ。もうこの死体に飽きちゃって、他の死体に変えたいのよ」
   看護婦、担架の上の死体を指差すと、死体の目が開きむくっと起き上
   がる。
死体「おい、飽きたってどういうことだよ!」
看護婦「だってあなた、いつも担架の上で寝てるだけでしょ! こっちは逃
 げる人間を追いかけるため、先回りしたりして大変なのよ! もっとアク
 ティブに動く死体が欲しいの!」
死体「アクティブに動く死体って何だよ! 死体は寝てるもんなんだよ!」
   言い争いをする看護婦と死体。
   その様子を呆然と見ていた花子と青坊主、そそくさとその場を走り去
   る。

〇 同・廊下(夜)
   急いで廊下を走る花子と青坊主。
青坊主「逃げてよかったの?」
花子「いいのよ、いつものことだもん。さ、次は音楽室よ」
   音楽室の扉を開けて入る花子と青坊主。

〇 同・音楽室(夜)
   音楽室の壁に掛けられたベートーベンとバッハの肖像画が月の光に照
   らされている。
   肖像画に近づく花子と青坊主。
   肖像画の二人、気持ち良さそうに鼻歌を歌いながら指揮棒を振ってい
   る。
花子「あの~……」
   恐る恐る肖像画の二人に話しかける花子。
   肖像画の二人、鼻歌と指揮に夢中で聞いていない。
花子「あの!」
   強めに話しかける花子。
   肖像画の二人、気づいて花子たちの方を見る。
ベートーベン「何だい? 花子さん」
   花子、青坊主から署名用紙を奪い取り肖像画の二人に向ける。
花子「……サインください!」
ベートーベン「サインかい? しょうがないな~」
バッハ「特別だよ~」
   照れたように頭を掻くベートーベンとバッハ、署名用紙にすらすらっ
   とサインする。
バッハ「“花子さんへ”って書こうか?」
花子「いや、それはいいです……」
   苦笑いをして断る花子、署名用紙を受け取ると青坊主を連れてさっさ
   と音楽室を出る。
   肖像画の二人、再び鼻歌と指揮を始める。

〇 同・廊下(夜)
   青坊主、笑いをこらえながら廊下を歩く。
青坊主「ベートーベンとバッハの肖像画って、あんなに変な奴らだったんだ
 な」
花子「……あんたも結構変よ」
   青坊主を呆れた目で見る花子、図書室の扉を開ける。

〇 同・図書室(夜)
   図書室に入る花子と青坊主。
   花子、整然と並んでいる本棚から一冊の絵画集を取り出すと、閲覧机
   の上でモナリザの絵が載っているページを開く。
   モナリザの絵、花子と目が合うと嫌そうな顔をする。
モナリザ「何の用よ? 花子」
花子「べつに私はあんたに用はないよ。ちょっとこいつが困ってるから仕方
 なしに来ただけよ」
   花子、不満そうな表情をしながら青坊主に絵画集を向ける。
青坊主「すみません。ちょっと署名お願いしたくて……」
モナリザ「署名?」
   署名用紙を見るモナリザ。
モナリザ「いやよ、トイレの署名なんて。私の美的センスが許さないわ」
花子「何が美的センスよ。オ・バ・サ・ン」
モナリザ「何ですってっ!」
   睨み合う花子とモナリザ。
   慌てて仲裁する青坊主。
青坊主「名前書いて頂くだけでいいんで……」
モナリザ「……ったく」
   しぶしぶ署名するモナリザ。
青坊主「ありがとうございました!」
   青坊主、モナリザと睨み合う花子を連れて慌てて図書室から出る。

〇 同・廊下(夜)
   不機嫌そうな表情で歩く花子。
花子「ところで、その署名、誰にわたすの?」
青坊主「う~ん、校長室にでも置いてたらいいんじゃないかな?」
花子「そっか、じゃあ校長室に行こっか」
   校長室に向かう花子と青坊主。

〇 同・校長室(夜)
   花子と青坊主、校長室に入ると初代校長の銅像がぼーっと立っている
   のに気づき驚く。
校長の銅像「何だね? 君たち」
青坊主「あの……これ集めたんでよろしくお願いします」
   恐る恐る署名用紙を校長の銅像にわたす青坊主。
   校長の銅像、じっと署名用紙を見つめる。
校長の銅像「うむ、わかった」
花子「……じゃあ、失礼しまーす」
   そそくさと校長室から出て行く花子と青坊主。

〇 同・廊下(夜)
   薄暗い廊下を歩く花子と青坊主。
青坊主「いや~助かった。これでなんとかなりそうだね」
花子「ま、私はべつにどうでもいいんだけどね。さっさとトイレに帰りまし
 ょ」
   廊下の暗闇に消えていく花子と青坊主。

〇 同・校庭
   次の日。
   校庭の掃除をしている用務員、校長の銅像の近くに署名用紙が落ちて
   いるのに気づく。
用務員「何じゃこりゃ?」
   首を傾げる用務員、署名用紙をゴミ袋に入れ、掃除を続ける。

〇 同・女子トイレ
   数ヵ月後。
   キレイになっている女子トイレ、汲み取り式から水洗トイレになって
   いる。
   呆然とトイレを見わたす青坊主。
花子「所詮、ただの銅像だったわね、あの校長」
   鼻で笑う花子、面白そうに青坊主を見る。
花子「ところで河童は? 最近見ないわね」
紫ババァ「川に帰ってのんびりしとるって手紙があったぞよ」
   天井から血まみれの手が垂れ下がり、河童からの手紙をぶらぶらと見
   せる。
花子「ふ~ん……あんたはどうすんの?」
   青坊主に話しかける花子。
青坊主「こうなったら水洗トイレでも居座ってやる!」
花子「へぇ~、あんなに反対してたくせに」
   意地悪そうに笑う花子。
青坊主「いや、その事は水に流してくれ……」
   しんと静まりかえる花子や紫ババァ。
花子「……くだらねぇ……」
   呆れたように言い捨てる花子。
   遠くから誰かが歩いてくる足音が聞こえてくる。
紫ババァ「誰か来たようじゃ。今日も楽しく驚かすぞ」
   微笑み合う花子たち、それぞれの個室に入り消える。
   誰もいない個室の水洗トイレの水が流れる。

                              (了)

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