私は夏も長袖を着る

小学生の時、同級生に言われた言葉
きっと悪気はなかったんだろう
無垢故に見たまま思ったことを言ったんだと思う

「変な手」
「気持ち悪い」

その時初めて知った
私は"普通"じゃないんだと


【ポーランド症候群】
体の片側の胸筋の発育不良や合短指を特徴とする先天性欠損症である。症状が起こるのは約3万人に1人。

私の場合、生まれつき片方の手が明瞭に小さく産まれてすぐに手術をし、片方の大胸筋は欠損している

左右の手の大きさが倍ほどの差があることや一部筋肉を欠損しているため、体全体の筋力や姿勢などバランスを取るのが不便と感じることはあるけれど、運動機能自体に問題はない

だから、私も"普通"だと思ってた

遺伝性のものではないし、両親はとても愛情深く育ててくれた

(どうして私は"普通"じゃないの?)
(どうして私なの?)

誰にも言えない、誰にも聞けない
誰かの前では泣けなかった


手を隠したくても毎日手袋をするわけにもいかない
なるべく手に視線がいかないよう、「変な手」に気づかれないよう、「気持ち悪い」と言われないよう、毎日"普通"を装うことだけに懸命だったと思う
子供の頃の思い出はほとんど記憶に残っていない

思春期、体つきが変わっていくにつれ明瞭なのは手だけではなくなった


この体に合う下着は売っていない
プールの授業は理由をつけて見学し
修学旅行では1人部屋風呂を使った
好きな人ができたのは怖かった
片想いだけを自分勝手に楽しんで
セックスは好きにならない人とした
好きになった人からの万が一の拒絶を想像しては、それに耐えられる自分の想像はできなかったんだ

大人になってからも私は変わらなかった
変わらず"普通"でいようと懸命だった
そして、それはいつからか 
[ "普通"でいなければ ] に変わっていた

そうやって自分自身を縛り付けていたということに、もう傷つく場所も残っていないほど傷をつけていたのは自分自身だったということに、気づくことが出来たのは20代の終わり頃

「いつも袖で手を隠してるね」
「体を全ては見せないようにしてるよね」

恋愛の真似事、自分勝手に自分にとって都合の良い距離で一緒にいた好きにならない人からかけられたその言葉で、縛っていたものが不意に解けた

「大丈夫だよ」

大丈夫なんだ、大丈夫なことなんだ、と
私は初めて人前で泣いた

あれから数年、ありのままの自分で一歩一歩しっかり歩んでいこうと過ごしている
そしておそらく今日までの年月と同じかそれ以上の年月をまた生きていくであろうこの時点で、一度こうやって書き留めてみたいと思った
私を知ってる人がいない場所でなければ書き留められなかったけど


コンプレックに大きいも小さいもない
誰かにとってはなんて事のないことかもしれない
受け入れ前向きになれる人ばかりではない

今でもどうして私なのかと誰にも問えない問いが浮かぶことはあるけれど、もう"普通"でいなければとは思っていない


ただ、それでもまだ、私は夏も長袖を着る
きっとこの先も、少なくともしばらくは

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