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技術士二次試験(建設部門)テーマ学習①「建設DX」

技術士試験の個別テーマについての学習記事です。
今回の課題は「建設DX」です。

本記事は元々、個人ブログに掲載していた記事の修正版です。
(個人ブログは維持費の都合で閉鎖を検討しているところで、noteに記事を移行しつつ、併せて時点修正をかけています。)

また、本記事は「建設DX」についての考察記事であり、具体の想定問や骨子答案についてはコチラの記事を参照ください。

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※ 当面の間は本記事は全て無料で読めます。
 投げ銭しても良いという方は文末からどうぞ。

(0)はじめに

日本は、欧米諸国と比べて、生産性が低いことから、国策として生産性向上のためにDXを推進していくという流れにあります。

また、日本は人口減少期に突入し、生産人口が減少することで、建設業に限らず生産人口の人手不足が進んでいます。さらに、建設業では民主党時代の政策変更の影響で他業界に労働力が流出したため、今でもその影響が尾を引いています。

これらの背景もあり、建設業界ではDXという言葉が浸透する前から「i-Construction」という形でICTによる生産性向上が推進されていました。

このような経緯を踏まえると、建設業界における生産性向上は10年以上前から継続的な課題と位置付けられており、『建設DX』は、現時点はもちろん、今後数年にわたって主要テーマになると言えそうです。

本記事では、以下の項目について、私は国交省の公表資料を中心に学び直した内容を整理していきたいと思います。想定問の骨子・答案の様な記事ではないですが、読み物として楽しんでもらえると幸いです。
参照した資料も紹介しているので、それらの公表資料も確認すると勉強になるかと思います。


(1)DXとは何か?


「DX」とは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称です。

「進化したデジタル技術を活用し、ビジネスだけでなく人々の生活をより良い状態へ変革する」といった概念であり、 「変革」と定義されているところがポイントなのかなと思います。

「DX」と似た言葉に「IT化」が挙げられます。
(「ICT」や「i-Construction」など建設業の言葉はありますが、ここではより一般的な表現として「IT化」とします。)
「IT化」とは情報化技術による業務の効率化、すなわちPCやインターネット等の情報化機器を用いた業務効率化を指します。

これに対して「DX」ではX(Transformation;変革)が入ってくることがポイントになります。経済産業省中小企業庁のHPの記載が分かり易かったので以下に引用します。

(2)出典:中小企業庁「ミラサポplus」(https://mirasapo-plus.go.jp/ )

「IT化は『戦術』であり、DXは『戦略』」である」という表現は全体感を理解するのに良いと感じました。一段、高い位置からの俯瞰的な目線をもって構造的な改革を伴うものがDXなんですね。

アニメ_コードギアスにて『戦略が戦術に負けてたまるか!!』というセリフを思い出します

(2)建設DXが求めらえる背景

(2-1)建設業に関する公表データの分析

ここからは、国土交通省のホームページで公開されている、『国土交通省インフラ分野のDX 推進本部(令和2年~)』からの公表資料を参照しながら整理していこうと思います。

※ 技術士論文での骨子構成を意識して作成してみました。
※ 骨子や論文作成に使う用語は国交省からの公表資料に記載されている用語を使うのが基本です。用語が公表資料ベースでなければNGという訳ではないとは思いますが、杞憂はない方が良い。

DX推進本部では令和2年7月に立ち上げられ、検討成果について令和4年3月30日に「インフラ分野のDXアクションプラン」として公表されていますので、この資料を参照します。(リンク先の国土交通省HPより当該資料をダウンロードできます。)

同資料の中で示されている大きな背景は以下の3つです。
①建設業の就労者数の減少
②建設業の就労者の高齢化
③デジタル技術の普及、進化
④国土保全の為の仕事の増(インフラ老朽化、超過外力の顕在化

②は説明するまでもないので、残りの①②④を見ていきましょう。
アクションプランの中では、これらの具体のグラフやデータは示されていないため、別の資料を探してみました。建設業ハンドブック2021の中で①②④の特徴をまとめて確認できる資料をみつけました。

出典:建設業ハンドブック2021

上のグラフからわかることを列記します

 建設業の就業者数はピークから約30%減 (685万人→482万人)
全産業と比較しても、高齢化が進んでいる(55歳以上の割合が35%を超え、29歳以下の割合が12%程度)

現状でも熟練技能者が減少していますが、今の高齢化した世代の引退により、状況がさらに悪化するでしょう。

全産業が同様な状況ではありますが、一人当たりの生産性を向上させることと、経験の浅い者でも、熟練技能者と同じ仕事ができるような、「伝承」だけに頼らない「方法」の転換が必要な状況にあると言えそうです。

また、世間では余り言及されていないことですが、グラフから以下のことが分かります。

建設業の投資額は2000年から10年にわたって低下し、民主党政権時(2009-2011)に底を打ったあと、その後10年で2020年にかけては2000年頃の水準まで回復している
建設業の就労人口は、2000年から10年にわたって激減しているが、直近10年間(2010年~2020年)では実はほとんど変わっていない。

これは非常に興味深いデータです。
2010年以降は、実は全国的に建設業の仕事は増えていたんですね。
2000年と同規模の投資額がある中で、人員数が7割に減ったら、それは人不足になりますよね。

ウクライナ戦争まではデフレが続いていた日本なので、物価上昇もなく単純に以前と同じ仕事を7割の人数でこなさないといけないとなるという状況なので、当然、仕事が回らなくなります。
これは、建設業界で働く私も肌感覚としては感じていました

2000年~2010年の予算が縮小している時期は人手不足はかんじていませんでしたが、その後の10年では、設計業務でもコンサルタントが捕まらない、工事でも工事業者が捕まらないことが増えています。

(2-2)骨子イメージ(技術士試験用)

以下、技術士論文の序論をイメージして、建設DXが求められる背景についてまとめてみました。(試験ではこの半分くらいの分量に抑える。)

<まとめ>
2000年から2010年の10年間、日本政府の財政難に伴う建設予算縮小等の影響を受け建設業の就労者は2010年頃にはピークの7割程度まで減少した。
しかし、その後、2011年の東日本大震災の発生や、計画規模を超える洪水が毎年のように日本のどこかで発生しており、災害復旧の為の予算投入や、国土強靭化を推進のための補正予算が投入されているという状況にあり、建設業予算は2000年頃と同等の水準に戻りつつある。
一方、仕事量に応じた求人増や労働単価は上昇しているが、団塊世代の引退や少子高齢化の影響もあり、一度下がった就労者数は2010年から横ばいのまま回復していない。
この結果、2000年頃と同程度の予算規模の仕事量を、当時の7割の人員でこなす必要がある状況が続いている。
このような状況の中で、公共インフラを適切に維持・整備をするためには生産性の向上は必須と言え、従前から推進していたi-Construction による効率化に留まらず、働き方そのものを合理化・変革するDXが求められている。

(2-3)建設業の就労状況の特徴(おまけ)

おまけとして、就労状況についても少し見てみましょう。以下に示すのは、建設業と他の産業の労働時間の比較です。

出典:建設業ハンドブック2021

他の産業と比較して、建設業の労働時間は長く、経年的にその縮減率も小さいことがわかります。一般的な製造業が、大量生産、工場生産が出来るのに対して、建設業では一品生産、屋外作業、自然相手が理由でTによる効率化が困難であることが大きな要因になっていると思います。

また、年間出勤日数が他の産業と比べて20日~30日程度多いのも特徴です。建設業のコストのうち機械損料のコストが非常に大きいです。これらは休工日も稼働日と変わらないコストが掛かる為、建設業は稼働率を高めることが最も簡単な利益率の高め方であるため致し方ない部分があると思います。

余談になりますが、個人的にはこういった建設業界の特性も踏まえず、杓子定規に4週8閉所を推奨するのは、如何なものかとも思います。この推奨によって上昇する建設コストは公共事業であれば税金で賄われるわけで、、、

(3)国土交通省の施策

インフラ分野のDXアクションプランでは以下の3つの施策を柱としています。

①行政手続きのデジタル化
②情報の高度化とその活用
③現場作業の遠隔化・自動化・自律化

このあたりの施策はアクションプランの個別施策編を一読するのが良いかと思いますが、個人的に効果が大きく実現性が高いと感じる事例を、①~③それぞれ1例ずつピックしてみます。

(3-1)行政手続きのデジタル化

出典:国土交通省インフラ分野のDX 推進本部 インフラ分野のDXアクションプラン個別施策集

上記の特殊車両通行許可申請や、河川利用申請、建設業許可等申請などの行政手続きについてのデジタル化による効率化を図るようです。

これらは、役所の事務担当職員の業務についてのDXです。

(3-2)情報の高度化とその活用

出典:国土交通省インフラ分野のDX 推進本部 インフラ分野のDXアクションプラン個別施策集

上記は水害予測情報の高度化ですが、その他の施策として、ハザードマップ等のリスク情報の3次元化、災害時のヘリ画像のリアルタイム自動解析による情報把握の迅速化、等がありました。

個人的な感想になりますが、既存の取組の延長線上にある施策を強引にまとめたものが多く、「コレじゃない」感が半端ないです。(ご担当の方も、上からの指示によりご苦労されたのだと思うと切ないですが)

BIM/CIMの普及活用とか、モデル造る手間とコストがすごいうえに、図面を読めない技術者を量産することになるので、その効果は個人的には懐疑的です。一般の人に説明したり広報には使い易いのですが、手間と効用が合わないような気がしています。

事例は沢山あるので、技術士試験のためだけであれば、自分の関係する分野+効果がありそうと思う施策を選んで確認するくらいで良いと思います。

(3-3)現場作業の遠隔化・自動化・自律化

出典:国土交通省インフラ分野のDX 推進本部 インフラ分野のDXアクションプラン個別施策集

これらは現場作業の省力化に関わるもので、建設DXとはこれらの取組を想像する人が多いと思います。

リモート現場検査、ドローンや衛星画像による測量、LiDAR出来形確認、デジタル技術によるセンシング(点群データ解析、AI判定)、遠隔操作、無人化施工などの技術が解説されています。

これらのセンシング技術はこの数年で新たな技術が増えており、基準の整備等が間に合っていない状況にあります。

新技術によるDXを推進するため、新技術を適用するための基準類の整備が求められます。

(4)DXの今後の展開

ここまで、令和4年3月30日に国土交通省から公表された「インフラ分野のDXアクションプラン」の内容を中心に解説してきました。

国土交通省のDX推進本部から令和4年8月に公表された『「インフラ分野のDXアクションプラン」のネクストステージについて』という資料の中で、今後の展開についても触れられているので紹介します。

この資料の中では、「S o c i e t y 5 . 0及び国土交通省技術基本計画で示した「2 0~3 0年後の将来の社会イメージ」の実現を目指した、取組の深化、分野網羅的、組織横断的な取組への挑戦を開始」するとして以下の3つの「変革」を目指して取り組んでいくとされています。

①「インフラの作り方」の変革
②「インフラの使い方」の変革
③「インフラまわりのデータの伝え方」の変革

この区分は非常にわかり易いです。
(アクションプランもこの区分にしてほしかった)

出典:国交省インフラDX 推進本部 「インフラ分野のDXアクションプラン」のネクストステージ

現行のアクションプランとネクストステージの区分について整理すると次のような感じになるのかなと思います。(施策の色でリンクを表示)

技術士試験の骨子・論文は現行アクションプランのならうのが基本のような気はしますが、このネクストステージについても、公表されているのでこちらで作成しても悪くはない気がします。

現行アクションプランとネクストステージの比較(当ブログ調べ)

個人的には、ネクストステージの区分の方がキャッチーで覚えやすいです。


(5)所感

アクションプランの背景に書かれている通り、建設業で関わるインフラ整備などは一品生産、現場作業での自然の中で作り上げていくものなので、そもそも建設業とDXとの相性はかなり悪いです。

この相性の悪さと、建設業の利益率の出し方の特性(現場を早く終わらせる程、儲かる)が、労働時間の縮減が進まない主な原因だと考えます。

建設業の営業利益率自体は最近改善してきており、他の製造業と遜色ない(大手は寧ろ高い)状況になっています。DXによって建設業が今より「儲かる仕事」に変わることで、未来が明るくなってほしいと思います。

逆に「働き方改革」が全くマッチしない利益率の形態なので、過去の決定ありきの対応(=(2024年問題を省みず、労働時間制限をゴリ押しする)ではなく、政府には建設業の特性を踏まえたうえでゼロベースで「建設業における働き方改革」の議論をもう一度やってもらいたいです。

また、DXについては国策として取り組む課題ですが、国交省の対応を見ると若干やらせれている感みたいなものを感じます。(アクションプランの中にある施策も「やっつけ仕事」のように感じる施策が結構ある)

現場の実務者の立場からは、手続き、出来高確認、品管などの間接経費で対応する部分の合理化を進めてほしいので、アクションプランの様に覚えきれないに手を広げるのではなく、選択と集中で効果の高い施策を広めてほしいところです。

にICTによる施工管理・品質管理の合理化は良い面と悪い面があります。

(6)まとめ

テーマ学習として建設DXについて取り上げてみました。

私個人の感想は(5)に色々書きましたが、DXが良い方に進んで、建設業が今よりも「儲かる仕事」になってくれれば良いなと思います。

そうすれば人も増えて、インフラ対策も進むし、人が増えて金が回れば、品質向上などのより根本的な問題を真面目に考えられる環境になるかもしれません。

技術士論文の骨子にする事だけを考えれば、背景と3つの取組、今後の流れ、受験区分の施策、を確認したうえで、過去問や想定問題と答案を作成するのが効率がい良いと思います

当ブログでも、想定問題と答案を考えてみました。
興味があればご覧ください。

DXは共通課題はもちろん、各分野の選択課題にも応用できる課題です。
(=DXへの取組が、他の課題への対策の一つになり易い)

一度は自分で骨子と答案を作成して、頭をの整理をしてみましょう。
本記事が技術士を受験する人の参考になれば幸いです。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

本記事が受験者のお役に立てると幸いです。
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投げ銭してもイイよという方がいらしたら、有難く拝領します。

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