展墓

さよならをかたどった目印に
ぼくはそっと手を合わせた
信仰などどこにもないけど
きみを想うつかの間の行為

あの日病院で泣き叫んでいた
ぼくにも白髪が増えてきて
今やすっかり中年の装い
あまり年相応には見てもらえないけど
生きて幸せになって と言った
その言葉どおり生きてきました
きみの望んだぼくになれただろうか
答えはそっちで聞けるかな

仕事に就いて書かなくなった言葉を
今さらまた紡ぎはじめたことを
それを知らない誰かに読んでもらえる
便利な世の中になったことを
もう知ってるかもしれないけれど
教えてあげたいと思うんだ
できたらきみが書いた言葉たちも
誰かに届けられたらいいな

きみとのさよならを経て
同じ痛みを抱える人のことを
大切にできるようになったと思う
形は違ってもかなしみの姿は
どこかで似た音を奏でるから
それは協和音のように響きわたって
からっぽのぼくを満たしていく
まるできみがそうしてくれたように

白く小さなきみのかけらを
そっと流した河には今でも
美しい葦の群生が見える
一度壊れた街並みも美しく
元の姿に戻りつつある
それを見るたびにぼくは
きみの存在を感じるんだ
今でもはっきりと

少し色褪せた灰色の目印に
ぼくはそっと手を合わせた
きみを想うつかの間の行為に
くゆらせた煙草を一つそえて

(2024.4.26.12:20)

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