磁器婚式
あなたがそっとドアを開けて
音もなく旅立ってから
二十年ほど経とうとしている
あなたを蝕んでいた病巣に
気付けなかった後悔は消えないまま
今でも想起するやけに晴れ渡ったあの日
ICUに響いていた電子音
やがて凪を迎える画面
失われていく鼓動
失われていく体温
失われていく存在
そんな失えない記憶
無機質な木箱の中で
たくさんの花に囲まれたあなたは
まるで美しい白無垢を着ているみたいだ
間に合わなかった小さな指輪とともに
胸元に持たせた手紙は
私の名前を書いた婚姻届
叶えられなかったつながりは
紫色の煙と一緒に羽ばたいていった
それでもどこかで期待してしまう
涙ぐんだ笑顔で喜んでいる姿を
あなたがそっとドアを開けて
音もなく旅立ってなお
私は全く変わることなく
こうしてあなたへ手紙を書いている
(2024.4.29.21:28)
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