ある日の風景
それじゃ明日また
と言ったきり彼女は帰って来なくなった
処方されていた睡眠薬を
自宅の居間で酒とともに煽ったという
明るい普段の様子からは窺い知ることの
到底できないような何かがあったんだろう
毎日のちょっとした瞬間の中に
得体の知れない落とし穴はたしかにあって
あたたかくて晴れた穏やかな日は
死神の面をした現実へと変わり
教室にはかつて彼女が座っていた席が
冷え切ったまま置き去りにされていた
本当に行こうとする人は
何も言わずに行くものだよ
いつか誰かが言っていた言葉
しかし何もこんなに軽やかに
向こうに行かなくてもよかったのにと
何も知らない自分は思っていた
それは20年も前の日のこと
ふと思い出したのは何の因果か
いずれ誰にもやってくる死の匂い
それが今の私にはあまりに芳しくて
行った者と残った者の大いなる断絶が
実はこんなにも近しいものだと思い知る
(2024.2.29.18:45)
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