染めQでド素人がスニーカーを塗装した話

「革、布、木材、プラスチック、金属など、多種多様な素材の質感はそのままに」のキャッチフレーズでおなじみ(?)の染めQ塗料。

通常の塗料では塗るこのできない布や革製品の補修に使う事の出来る貴重な特殊塗料であるが、これがなかなか実際に使っているレポートのようなものが見当たらない。

一口に染めQといってもスプレータイプと原液タイプがあるし、スプレーにも容量が70mlと264mlのものがある。何を塗るのにどれだけの塗料があればよいものか。

先に結論から書いておくと、

・繰り返し薄吹きを繰り返し、丁寧に塗り重ねる。

・縫い目などの細部は特に丁寧に塗る。

・塗装対象の素材が水を吸い込みやすい布などの場合と元の色が濃い場合は 塗料を多めに用意する。

・明度の高い(薄い)色で染める場合とスプレー缶で染める場合は塗料を多  めに用意する。

実際に塗装した所感をもとにその使用感と必要要領などを考察していく。

[補論として面積が広く単純な形のものの塗装と、塗料にものを漬け込んでの塗装もリポートしている。特に後者については私と同じ轍を踏む人が少なくないと思うので、ぜひ一読していただきたい]

塗装対象と塗料

既に記事のエントリでネタバレしているが、今回塗装したのはスニーカー。生地は赤色のキャンバス、サイズは27.5cmほど。

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既にマスキングテープをぐるぐる巻きになっており、赤色というには薄汚れている。何を隠そうこのスニーカー、すでに一度染めQ塗装に失敗しているのである。

最初に塗装した時は70mlのスプレータイプ、色はブラウンを使ったのだが、靴を1足染めきるには塗料がまるで全く足りなかった。写真の状態でさっと1度塗りした程度。キレイな赤ではないが、ブラウンかと言われると赤だろう。

前回の塗装の失敗は70mlしか用意しなかったことに加えてスプレータイプを使ったことにも起因しているだろう。染めQに限らずスプレー塗料は細かい部分を塗るよりも広い面を塗るのに適している。縫い目や生地の縫い合わせなどがある細かくて塗料の入りにくい部分がスニーカーにはスプレーよりも原液タイプを使って細かく塗っていくのが良いだろう。

ということで今回用意したのは原液タイプのブラック、200ml。そして塗るための道具としてはエアブラシをチョイスした。挑戦していないが塗料の性質的に筆や刷毛での塗装は相当難しいように思われる。スプレーかエアブラシでの吹き付けが妥当だろう。

今回はエアブラシを使用したが、スプレーで塗装しようとする人にも資する情報を提供できればと思うので、ブラウザバックはいましばらく待ってほしい。

ブラウンじゃなくて黒を選んだのは、極力失敗しないために隠ぺい力(塗装対象の色を隠しやすい)色を選んだ方がいいかなと思ったから。前回失敗しているだけにできるだけ失敗したくない…。

塗料の具合

布を「染める」ことのできる塗料ということで、普通の模型用の塗料やペンキなどとは全くの別物。まず第一に特殊なことはものすごくシャバシャバ。印象としては絵の具を溶かした水のような感じ。

これはおそらく染み込みやすいように普通の塗料よりも溶剤に対して色の成分が少なく、なおかつ粒子が細かいからではないかなと思う。素人考えのあてずっぽうではあるが。

もう一つ独特なのは臭い。シンナーくさいのとはまた少し違う、ちょっと酸味の強いにおいがする。塗料の水っぽさから連想する水性塗料的なにおいとはずいぶんかけ離れている。臭いの質もさることながら、結構臭いが強いので塗装する際は同居者やご近所への配慮も多少必要になるだろう。

染めるのは結構大変

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細かい作業工程は書き並べても伝わらないので某三分クッキング並みの大胆なカットで完成の図。素人がやってもこれだけしっかり染めることができた。基本的には普通の塗装と同じように、薄く吹きつけるのを繰り返すだけでOK。塗料は特殊だが別に特殊な技術は必要ない。

実際に塗装しての感触だが、結論から言えば染めるのには塗料が結構必要になる。シャバシャバな塗料なので薄く何度も吹き付ける必要がある。特に布地への塗装では塗料が染み込むのでなかなか塗料の色に変わらない。3度塗りしてようやく下の生地の色が消えてくる。

どれだけの塗り重ねが必要になるかは染める前の色と染める塗料の色にも左右されるだろう。

今回ははっきりとした鮮やかな赤いスニーカーだったので、隠ぺい力の強い黒で染めてもそれだけ塗り重ねが必要だった。明るい色で染めようとするとかなりの根気が必要となる。元の色に近い塗料で補修的に染める場合や、薄い色のモノに濃い色の塗料で染める場合なら必要な塗り重ねは少なくて済むだろう。

染み込むという特徴はもう一つ難儀な点がある。表面張力で塗料が回らないので、生地の段差や角、縫い目などは広い面よりも丁寧に何度も重ね吹きしないときれいに色が乗らない。こういった細かいところを狙って塗るのにはやはりエアブラシが向く。

また染み込んで染める塗料であるため、染み込みにくい素材では必要な塗料の量が少なくなる。スニーカー一側を塗るのに概ね120mlを消費した。このうち、つま先のラバー部分は一度塗りだけでかなりしっかり色が乗ったためほとんど塗料を消費しなかった。革やラバーであれば少量の塗料で、布であれば大量の塗料を用意しよう。

スプレーで塗れるのか?

ここまでのことを踏まえたうえで、スニーカーをスプレーで塗装することはできるだろうか。結論から言えばスプレーでも不可能ではない、というよりも十分可能だろう。ただスプレーの方が吹き付け面積が広いため、細かいところに吹き付けるのに必要な面積に必要以上に塗料を消費してしまう。余分目に塗料を用意する必要がある点に注意が必要だ。

スニーカー1足程度であれば、264mlのスプレー缶が2本あれば十分塗ることができるだろう。逆に言えばきれいに塗るのには4000円ほどかかるという事でもある。それだけの投資をして補修する価値があるかはよく考えた方がよいだろう。

余談だがエアブラシなら120mlで塗ることができるのに、なぜ倍以上の塗料が必要なのかという点に触れておく。まず第一には、先ほども述べたようにスプレーの方が塗装するために余分に消費する塗料の量が多い。

これに加えてスプレー缶は最後まで塗料を使い切ることができない。缶の中に入っている塗料をガスの圧力で吸い上げて吹き付けるので、ガスや塗料の残量が減るとうまく吹き付けることができなくなるのだ。だから倍以上の量を見積もっておく方が良い。

結論:素人が染めQで染めるには

塗装の素人が染めQを使ううえで気を付けることはこんな感じに要約できるだろう。

・繰り返し薄吹きを繰り返し、丁寧に塗り重ねる。

・縫い目などの細部は特に丁寧に塗る。

・塗装対象の素材が水を吸い込みやすい布などの場合と元の色が濃い場合は 塗料を多めに用意する。

・明度の高い(薄い)色で染める場合とスプレー缶で染める場合は塗料を多  めに用意する。

補論:縫い目がない広い面を染める時

余った塗料を使って別の物も少し塗ってみたよという話。

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布地のリュックの底面と一番上の蓋になる部分が日に焼けて退色しているのでここを残りの塗料で塗ることに。(他の部分も大概色あせているが…)

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底面はもともとが黒なので一度塗りでかなりきれいに塗装できた。蓋も薄いグレーなので2度塗りでムラなくきれいに塗ることができた。やはり元の色と塗料の組み合わせは必要な塗料の量に大きく影響する。

ただ二度塗りで済むといっても面積が広いとエアブラシではやはり大変だった。蓋部分のような縫い目の少ない広い面を塗るのにはスプレーの方が適するだろう。

さらに補論:染めQに「漬け込む」とどうなるのか

スプレー塗装では難しいが、原液タイプを買ったときにありえる方法としてたっぷりの塗料に塗装対象を漬け込むというのが考えられる。素人考えではちまちまと塗り重ねるよりも、簡単お手軽にムラなくきれいに染まりそうなものだが、どうだろうか。

実験的にわずかに残った(目算で30mlほど)塗料に靴紐を浸してみることにした。靴紐の元々の色は白なので、先に述べた「下地の色が薄い方が染まりやすい」法則であれば一発できれいに染まりそうなものである。

で、実際にやってみるとこれがうまくいかない。

まず靴紐が繊維質なのでたっぷり塗料を吸う。これは予想通り。だが塗料がシャバシャバなので、塗料を吸ってもほとんどが溶剤成分になってしまうようだ。超速乾性の塗料なので、吹き付け塗装した時は吹き付けた直後ぐらいから、手で触れてもほとんど手に色がつかないくらいに渇いていた。それが漬け込んだ場合は乾燥にしっかり(と言っても15分ほど)時間がかかった。

重ね塗りをしようと思うとこの時間をしっかり待ち続けなければならない。この間、吸い込まれた余剰な塗料が滴々と落ちてくる可能性にも気を付けなければならない。

結局きれいに色が乗るのに 回漬け込みと乾燥が必要だった。時短やお手軽かと思いきや思わぬ罠があった(見えていた罠でもあったが)。

きれいに染めるにあたっては素直に吹き付け塗装したほうが結局楽できれいに仕上がるという結果になった。急がば回れである。

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