特許侵害の均等論において。意識的に除外されたか否かとは?数値クレームに関して考える



①均等論とは


特許侵害の直接侵害については、特許請求の範囲に記載の発明を文言通り侵害する文言侵害と、文言上は侵害には該当しないが、実質的に侵害行為に相当する均等侵害というものがある。
また、直接侵害でない間接侵害という類型もあるが、今回は触れない(101条)

被疑侵害品(イ号製品)が、特許請求の範囲の記載と完全に一致するわけではないが、実質的に一致する場合、均等論が当てはまる。

②均等論の5要件

イ号製品が特許請求の範囲に記載の発明と異なる部分があっても、以下の5要件を満たすと、均等論で直接侵害があったものと考えることができる。

(1)当該異なる部分が本質的な部分ではない
(2)当該異なる部分をイ号製品の部分と置き換えても、発明の目的が達成でき同一の効果を奏する
(3)上記置き換えは、当該発明の属する技術分野の通常の知識を有する者が、イ号製品の製造時に容易に想到できる
(4)イ号製品が、当該発明の出願時における公知文献と同一又は当業者がこれらから出願時に容易に推考できない
(5)イ号製品が、当該発明の特許出願において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなど特段の事情がない

最高裁判所判決(1998年2月24日、 「ボールスプライン事件」)

均等論の5要件は以上になっている。弁理士試験勉強者のみならず、知財関係者であれば、よく知られた内容だと思う。

この(5)について、考える。

③数値範囲の減縮等は意識的な除外にあたるのか?

日々中間処理で、引例と差別化する目的として数値範囲の限定や減縮を行っているが、
この数値範囲の減縮などが意識的な除外にあたるか、と言われると、感覚的にはそうじゃないのではないかと思ってしまった。
というのも、数値範囲の減縮は先行の引例と範囲をずらす意味が強く、それ以外の範囲で発明の効果が達成できないものではないことが多い。(クレーム範囲を少し出たからといって、発明の効果が出ないわけではない)
具体的な例でも紹介したい。

特許権者が、拒絶査定不服審判において、拒絶の理由を回避するために、特許請求の範囲を「成分Aを10~30%の範囲で含む」から「成分Aを10~20%の範囲で含む」に減縮する補正をした場合、成分Aを25%含有した製品については、意識的に除外されたものに当たる場合がある。〇か×か

平成29年度短答式問題 問題5(ロ)

この問題は〇が正解になっている。
疑問が残ったので調べてみたところ、このような記載がみつかった。

上記の補正の事例とは異なり,数値範囲を減縮する か又は特定する補正は,その目的を問わず(記載要件 の解消を目的とするか容易想到性の解消を目的とする かによらず),意識的除外に当たるように思われる(18)。
その理由は,あるパラメータについて特定の数値範囲 を選ぶという行為は,反射的に,当該パラメータにつ いて数値範囲外の部分を捨てることを意味しているためである。

均等論における意識的除外 末吉剛先生 https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/2996

上記具体例でいうと、減縮・補正によって、成分Aが20~30%の部分は捨てられたと見ることが一般的なようである。
捨てられた部分は意図的に除外したものとするらしい。

このように、実際は意識的な除外にあたると考えられているようだ。

一方で、含有量がクレーム範囲より多少多くても同じような効果になることは、往々にしてある。
少なくとも、補正する側としてはクレーム範囲から意識的に除外しているつもりはなかったので意外に感じた


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