この世はク○だという話

友人と遊んだ帰り道で家の鍵を無くしました。

移動にはバイクを使っていたかつ結構あっちいったりこっち行ったりしてしまったので、道に落としてしまったのなら捜索は絶望的です。ただ一つ確実なのは、今私の手には家の鍵がなく、愛する我が家へ帰る手段がないということ。

まぁこの程度で慌てるほど私は弱くないので、どちゃくそ狼狽えた後ギャン泣きしながら両親に電話をし、指示を仰ぎます。現在私はアパート暮らしですので、ひとまず管理会社へ連絡。管理会社から鍵屋へと連絡が行き、担当の方が鍵を開けてくださることになりました。

ちなみに、窓の鍵は閉めてないはずだからバルコニーによじ登って部屋に入るという私から両親への提案は「お前は本当に馬鹿だな」の一言で一蹴されてしまいました。仮にも愛息子に馬鹿は無いだろこの馬鹿っ!

しかしここで一つ目の問題が起きます。私の住むアパートはオートロックなのですが、鍵屋の人もエントランスのオートロックの解錠は法律上できないとのこと。つまり、私がアパート内にいる必要があり、住居人である私がオートロックの解除をしなければならないらしく。

鍵のない私がオートロックを突破する方法は2つ。他の住居人の部屋のインターフォンを鳴らし、事情を説明してエントランスのロックを解除してもらうこと。もう1つは帰宅ないし外出するためにエントランスのロックを解除した住居人の後ろを着いていってアパート内に侵入すること。

永久名誉コミュ障であり世界三大インキャであり、他の住居人と会話したことのない私はもちろん後者を選択。誰かが帰ってきてくれれば私は人と会話することなくアパート内へと侵入することができます。が、待てど暮らせど誰もやってこない。時刻は21時過ぎ頃だったでしょうか、8割型学生アパートとはいえ、外出するには遅すぎる時間帯ですし、帰宅するには早すぎる時間帯。

流石に痺れを切らしたのでもう一つの方法をとります。片っ端から部屋番号を入力してインターフォンを押し、心優しい誰かに解除をお願いする。頭の中で何度もシミュレーションをし、意を決して番号を入力します。が、どこの誰も出てくれません。何度も言うように時刻は21時過ぎ。この時間にインターフォンが鳴るのは正直怪しい。居留守を使われても無理ありませんし、私でもそうします。

しかし。何回かチャレンジしたところ、初めて返事が返ってきました。

『…はい?』

不機嫌そうなおばあちゃんが応答してくれました。ほんまにすまん、でも話を聞いてくれ。

「あっあのあのっ、〇〇○号室の者ですけど!あれ、鍵を忘れてしまって!あっえっオートロックの解除だけしていただけませんか!」

よし、スムーズに言えたな!!!!!!

しばらく静寂が続きます。おかしい。あれだけ淀みなくすっごくめちゃくちゃ美声ボイスで助けを求めたというのに。もしやこちらのおばあさまは私の声に魅了されて身体が石のように動かなくなってしまったのかな?罪な人だ、私は。

『…はいぃ、開けます』

お、ようやく返事が返ってきました。なんて心優しい人なのでしょう!おばあさんは神!高齢者万歳!絶対に電車の優先席をあなたがたに譲ることを誓います!

「あっ!ありがとうございます!」

扉に駆け寄り力を込めて引く私。扉はびくともしません。解錠音も鳴らなかったので、このタイミングでオートロックが故障したというより解除ボタンを押してもらえなかった説が有力。

「あっ…開いてないですね。…はは」

『ガチャッ』

数秒して通話を切られてしまいました。放心する私を嘲り笑うような静寂。優先席で横になって寝てやるからな。

…いやまぁ、怪しさはMAXだったかもしれないですけど。身構えちゃうのは分かります。

…ただ。なら最初から対応しないでくれよ!何も言わずに切ってくれよ!「開けます」とか言わないでくれよ!そんなことされたら期待するだろこっちも!期待しなければ落胆もしないんだよ!期待すればするほど落胆も大きくなるんだよ!比例の関係なんだよ!

こほん。結局、バイト終わりっぽい学生さんが帰ってきてくれたので、彼の後を続いて無事アパート内に入ることができました。ここで鍵屋に連絡すると『貴方がそのアパートのその部屋の家主であることを証明するために住所付きの身分証明書を用意してほしい』と伝えられました。

ここで新たに問題が。現在私は大学生であり、大学進学を機に今いるアパートに引っ越してきました。その際、住民票を高校まで住んでいた実家から変更していない(大学生は生活の拠点は実家扱いになるため罰則にはならない)ので、私の保険証マイナンバーカード運転免許証に記載されている住所は全て実家のものでした。つまり私は『証拠も持たずにそこで暮らしている』という状態にあります。一気に犯罪臭が強まりました。

学生証には手書きで住所を記入する欄があったのですが、めんどくさくて書いてませんでした。というか手書きでは証拠として弱かったかな…

ベソをかきながら両親に助けを求めると、部屋の中に管理会社及びアパートとの契約証明書があるはずだ、それがあれば証拠になるはず、とあまりにも強すぎる助言をもらいます。おまけと言わんばかりに、実家の方で控えとして持っていた契約証明書の写真を送ってくれました。本当に産んでくれてありがとうパパママ。今なら高校生になってもスマホは1日1時間のルールがあった事を許せそう。スマホアプリのアクティビティから使用時間を合算して『8分もオーバーしてるぞ!1週間スマホ禁止な』されたことも許せそう。

とまあ、そんなわけで。鍵屋に折り返し、『手元に住所の載った身分証明書がないこと』『部屋の中に証明できるものがあること』を伝えます。鍵屋からの返答は『それでは解錠は難しい』とのことでした。

鍵屋目線では、現状私がその部屋の家主である証拠がありません。部屋の中に証拠があるといっても、それは解錠をしてから判明すること。

もし私がその部屋の家主でなければ、私は不法侵入者になりますし、鍵屋もそれに加担したことになります。これだけは避けたいとのこと。

しかしながら、警察の立ち会いがあれば解錠は可能とのこと。なるほど、私が不法侵入者であればその場でとっ捕まえればいい話ですし、警察に事情を説明すれば鍵屋が罪に問われることはありません。これには私も『かしこいなぁ』という小学生並みの感想が出ました。

そんなこんなで、近くの交番に連絡。しどろもどろながら状況を伝えます。大丈夫だ、市民が困っていたら手を差し伸べるのが警察の仕事。きっと助けてくれるさ。

『そうした前例がないので対応致しかねます』

?????????????

『あのね、僕が立ち会ったところで君がそこに住んでるかどうかは分からないままでしょ?』

だーかーらー!もし私がそこに住んでいなくてもすぐに逮捕できるようにアンタの立ち会いが必要なんでしょーがっ!

前例が無いって…ならあなたがその前例になればいいんだ!停滞は何も生まない!勇気を出して一歩踏み出さなければ事態は変わらない!変化を恐れるな!そうして人類は進歩してきたんだ!挑まなければ人類は進歩できなかったんだ!

いやまぁ、私の説明が下手くそすぎただけなのかもしれない。私の発言内容を文字に起こすことができない程度には記憶がないわけですし。必死すぎてしどろもどろになった可能性があることは認める。

「…ということは、私は助けてもらえないということでしょうか?」

『そういうことになります』

即答しやがったこの人!めちゃくちゃ情に訴える声色したのに!この鬼!悪魔!アラバスタ編のクロコダイル!!

仕方ないのでまたもや鍵屋に連絡をします。一応近くにもう一つ交番があったのですが、この時の私は不信感MAXなので電話しませんでした。

鍵屋に警察との会話を伝えると、呆れたような声が返ってきます。……なんだこの私が悪いんだけど納得いかない感…!私が悪いから何も言えないじゃないか!

結局、絶対私はそこに住んでて、絶対部屋の中に証拠があるとゴリ押して鍵を開けていただくことになりました。

数分後鍵屋が到着。開口一番に「ご迷惑をおかけします』と言うしかなかった私の心境。皆様には分からないでしょうね。

テキパキと解錠の作業に進む鍵屋さん。作業しながら私と雑談をしてくれて、しばらく人の温かさに触れてこなかった私はそれだけが本当に嬉しかった。炊き出しの豚汁のような温かさがあった。

無事、解錠。正直どこにしまったか覚えていない契約証明書も発見。私が部屋の家主である証拠が揃い、鍵屋さんに何度もお礼をして一連の事件は終わりを…

ここで終われたら苦労はしない。鍵を無くしたわけなので合鍵を探さなければなりません。確か合鍵は3本作って、1本は親が、もう1本は友人が。そしてもう1本は私の部屋にあるはず。マスターキー無くしちゃったから退去する時ややこしくなりそうだな…なんて思いつつ、心当たりがある場所を探します。

えっと、確かこのカンカンの中に……あれ、無い。あぁそうだそうだ、タンスの中に…無いやん。小物入れ!無い。机の引き出し!無い。冷蔵庫の中無い漫画のページとページの間無い風呂場の排水溝無いエアコンの中無いコピー機の中無い、無い無い無い無い!!

なぜ!?どこにやった私!なぜ大して広くもないこの部屋の中に必ずあるものを無くすんだ!ワンピースは実在するように合鍵もこの部屋に実在するはずなんだよ!じゃあなぜ見つからない!嘘をついたのか白ひげ!背中に逃げ傷が無かったからといって嘘を言っていい理由にはならないぞ!

いや待て、落ち着け。何のために合鍵を3本も作ったんだ私。たくさん無くしてもいいようにだろ!!!!

合鍵を渡した友人に連絡をします。家はそこそこ遠いですが、一時期は毎日のように会ってたのでお前しかいないと渡した覚えがあります。

…というか、焦って管理会社やら鍵屋やら親やらに連絡しちゃったけど、最初からコイツに連絡すれば良かったな。ふざけんなお前。私が困ってたら察して飛んで来いよ。

『なんや、どした』

「お前に部屋の合鍵渡しとったよな?」

『おぉん。多分部屋にある』

「出番や。鍵無くしちゃったから返してくれ」

『おぉ〜。俺今オーストラリアやから無理やな』

??????????????

『うん留学中やし夏休み終わるまで帰らんし』

??????????????

「マジで一生のお願いなんだけど一瞬だけ帰国してきてくれん?」

『でお前に鍵渡して戻ればええか』

「うん」

『お前おもろ』

全然面白くないよ!!こっちは切迫詰まってるんだよ!!なんで大学4年で留学してるんだよ!!今更何を学ぶんだよ!!カッコよく言ってるだけでお得に海外行ってるだけだろこのタコ!!時差ボケ酷すぎて体調崩せ!看病行ったる!

いや、親も合鍵持ってますけど。鍵を無くして、合鍵も無くしたってなったらガチで怒られそうで。私の息子がそんなこと言い出したら山に捨てますもん。

しかしながら私にはもう頼れる存在が親しかいません。一件落着と安堵しきってるであろう親に電話。ド説教されましたが、間違いなく100:0で私が悪い。というか私の嘆きも元を辿れば鍵を無くしたせい。

それは分かってるけど…もうちょいとんとん拍子で事が進んでも良かったと思うんだけど!?どうして私にこれほどまでの試練を!?神は我々に超えられない試練は与えないというけど、なら神様は私のことを過大評価しすぎだよ!プロ野球ペナント順位予想で中日ドラゴンズを一位予想をするくらい過大評価だよ!頑張れドラゴンズ!竜の未来は明るいぞ!!

結局、速達で鍵を郵送してもらえました。即座に複数合鍵を作り、近くに住む友人にプレゼント。もう留学野郎には頼らない。

私が学んだことは一つ。運が悪い日はとことん落ちる。

あぁあと。余談ですが、本来私が持っているはずの合鍵はユニバで購入したヨッシーの帽子の中にありました。どうしてそんなとこ入ったん?マスターキーはバイクのフロントカウルの中で見つかりました。どうしてそんなとこ入ったん?

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