発泡スチロール面接
高校を卒業してからはずっとアルバイトをしながら生活をしてる。
バイトが終わってからの時間で好きなものを作ったり、作ったものの評判がよければ知り合いにお金で買ってもらったり。
最近はそんな風に過ごしている。
そんな生活のなかでやっぱりアルバイトをしてる時間が日々の生活のほとんどをしめてて、周りの就職をしてる友達とか自分で仕事を作ってる友達と比べては、「バイトなんかしてる場合じゃない」って感情が自分の中にうっすらと沈澱していく感じがあった。
その沈殿がある程度溜まると焦ってバイトを変える。そんな繰り返しやった。
その沈殿してる感情が自分の中でネガティブな印象な事だけはわかってるねんけど、どうやってそれを解決していいのかは全くわからんかった。
でもこないだある人からプレゼントしてもらった本の中に
『自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事を「ナリワイ」(生業)と呼ぶ。』
って書いてあってちょっとだけ自分の焦りが言葉になったような気がした。
俺が焦ってたのは、今なんとなく生活のためにしてるバイトは時間とお金を交換してるだけって感じることが多かったからなんやと思った。
でもこの文章と出逢ってからは、自分自身が生きていくにあたってしっかり技とか立場、頭が鍛えられる時間の使い方、仕事の仕方をして行きたいなって考えるようになってた。
そんな事を考えながら過ごしてた最近やってんけど、先日テレビで立体看板を作る会社が紹介されてるのを見た。
道頓堀にある金龍ラーメンの龍の看板とかでっかいカニの看板。
毎回形の違うインパクトのある立体的な看板を独自の方法で作り続けるその会社が俺にはめっちゃ魅力的に映った。
翌朝すぐに求人募集してるのか電話してみる事にした。
テンポのいい喋りをする若い男性が電話に出た。
「あの。先日テレビでこの会社が紹介されてて、めっちゃ面白い会社やなと思って。僕は趣味ですがものを作ることが好きで、もし今、求人してはったりするならこの会社で働かせていただけたりするのかなと思って電話させていただいたんですけど。。。」
「あー。ちょうど昨日に新しく経験者の人を3名採用したばっかりでね。。。今はもー定員オーバーになっちゃって。」
「わー。それは残念です。いきなりやったんで仕方ないですね。」
「んー。でも、なんか電話口からめっちゃ熱意のある方やなって感じるしそんな人を無下に断るのはなぁって思うので一度何かうちで作品作ってもらえませんか?もしそれの完成度が高かったらもう1人雇ってもいいかなって思います。」
「えー!いいんですか?」
「もちろん!明日一度来て見てください。紙粘土か何かで自分で好きなものを作ってみて、この時間でこんなんができましたってのを見せてもらってそれを見てから雇うかの判断をさせてもらいます」
「わかりました!じゃあ明日一度お伺いさせていただきます!」
名前も何も伝えずのまま翌日面接に行く事が決まった。
しかもいきなり紙粘土で作品を作ってみろって課題。
久々に緊張で胸がドキドキした。
翌日になり履歴書と紙粘土を持って会社を訪問した。
昨日電話で対応してくれたであろう若い男の人が出迎えてくれた。
「あ!昨日電話いただいた方ですね!こっちへどーぞ。」
工場の中にはお菓子でできた家、実寸サイズのキン肉マン、どでかいマグロに自由の女神。
なんやこの仕事場。。。
その会社兼工場で作った作品に心踊りながらも一瞬にして圧倒されて気がついたら事務所に案内されていた。
「えーっと。早速なんやけど何か作ってくれはるんですよね?」
「あ、はい!一応紙粘土は持ってきたんですけど。。。」
「あ、でもうちは基本的に発泡スチロールを使って彫刻してもらうことが多くて発泡スチロールで何か作品使ってもらえますかね?」
聞いてないって。。。
発泡スチロールで?
今まで発泡スチロールで作品なんか作った事ないし。やり方もわからんって。。。
聞いてないって!
と思いながらも自信満々に見えるように
「分かりました!やってみます!」
言っちゃった。
「じゃあこっちにどーぞ」
次は工場の奥に案内されると自分の体ぐらいあるんちゃうかってデカさの発泡スチロールと鍋の白菜切る用ぐらいでっかい包丁を渡されて
「これで黒柳徹子作ってください」
。。。
無理や。。。
急すぎる。
なんやねん黒柳徹子作ってくださいって。
今の俺の力でこの発泡スチロールと白菜用の包丁だけで黒柳徹子が完成するわけない。。。
でもやるしかないねん。
ここで働いてみたいし今は自信満々にやるしかないねん。
「やってみます。」
発泡スチロールと白菜包丁と睨めっこして黒柳徹子を作る1時間が始まった。
考えてる暇はない!とにかく手を動かすんや!と自分に言い聞かせて、なんとかどでかい白菜包丁で玉ねぎ頭を整形していく。
小1時間過ぎたあたりにテレビで見たあの面白そうな社長がニコニコしながら喋りかけにきてくれた。
「どーや進んでるか」
「わかりません!これでいいのか黒柳までは完成したんですけど徹子の部分がこの道具じゃ再現できません」
社長が何も言わずに自分の作業に戻って行った。
終わったな。この会社で働くことはないな。
なんとか黒柳ってところぐらいまでは完成させたところでタイムアウトになった。
改めて社長と電話対応してくれた若い男の人が僕の黒柳を見にきた。
「片付け終わったら改めてさっきの事務所に来てくれる?」
「わかりました。」
発泡スチロールまみれになった体で事務所に向かう。
事務所に入るとニコニコしながら社長と若い男の人が僕を迎えてくれた第一声。
「採用!あんだけの時間であんだけ形にできたら十分やわ。君が働き始めれる日からうちにおいで。」
。。。
「えーーー!まじっすか!!!」
「うん。おいで。技なんてやってるうちにすぐ身についてくると思う。バリバリやってくれそうやし君のタイミングでうちに働きにおいで。」
「嬉し過ぎます!ありがとうございます!」
それから少しの雑談をして工場を出た。
その場所を出た瞬間今自分に何が起こったのかはっきり理解できひんかった。
ひょんなきっかけプラスすごいスピードすぎて。。。
でも、振り返るとあの本を読んでから無意識に考え続けてた『やればやるほど技が身につく仕事』(生業)になりそうな職種に就けることが決まってた。
急やと思えるこの展開も振り返ってみると普段の生活とか考えてることの種が何かのきっかけでポッと現実に花開いた合図やったんかなって感じて嬉しくなった。
今起こった事は現実なんか。
工場は出たけど、改めて今起こった現実を確認したくなってさっき作った黒柳を見に工場の中に戻ってみた。
改めて見る黒柳は徹子になる前ではあるがルールル♪と鼻歌を歌いながらこっちを見て笑ってるように見えた。