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日記 2024/06/05

 暮れ方に街へ出た。最近はイヤホンをつけていても何も音楽を流さずに、ノイズキャンセリングだけを起動させて外を歩くということが多い。どこかへ行くのに音楽がないと退屈かもしれないという不安が以前はあったが、いまではどちらかと言うと、道路を走る車や街の喧騒といった音を緩和させるためにイヤホンを着けるというふうになっている。そうすると自ずと自分の考えごとへと意識が向かう。いまは音楽を聴くよりもそれが楽しいのかもしれない。外から家に帰ってきて、さっきまで考えていたことを思い出そうとしても、たいていちっとも思い出すことができないのだけれど。
 でも珍しく今日は覚えていた。もしかすると日記を書くために無意識のうちに頭の中でストックしておこうと思っていたからかもしれない。
 自分の本のことをぼんやり考えていた。いつか本を出したい、と僕は思っている。短編集と詩集を。そのことについて想像を膨らませていた。小説の装丁は高松明日香さんにお願いしたいな、とまず思った。文庫本になることを前提にすると、解説は中島智さんに依頼したい。詩集の装丁は中比良真子さんで、解説は時里二郎さん。そこまで考えるととてもわくわくした。もしそうなれば自分の本がきっと宝物になるだろう。自分の本が行きつけの書店に置かれているさまをイメージするとさらに胸が高鳴った。最近はあまり行けていないが1003や本の栞、また三宮のジュンク堂書店にその本が並んでいて、それを見ている自分を想像した。ありえないことのようにも思えたが、実現したらこれ以上ないことだ。目指してみる価値がある。もうすっかり暗くなった道を歩きながら、興奮しつつそんな未来を想像していた。

 家に帰ると、なんとなくスマートフォンで野球速報を見てみた。最近ではテレビをつけることが滅多にないので、野球を見ることもほとんどなくなったが、以前はよく野球中継を見ていた。物心ついた子どもの頃から阪神タイガースのファンで、今思うと異常なほどプロ野球にのめり込んでいた以前の僕は、日毎の勝敗にはげしく一喜一憂していた。
 試合を見てみると、8回裏を終えて阪神は一点差でリードしていた。今日は勝ちそうだなと思った。近年の阪神はリリーフピッチャーがとても優秀なので、リードしていたらひっくり返されるということはあまりない。主力が二軍落ちするなどチーム状態は良くないが、いまの順位は首位と2ゲーム差の3位だから、ここから調子を上げていけば最終的にはリーグ優勝も見えてくるだろうと思った。なかなか悪くない。
 しかしそれから数十分後にまた野球速報を確認すると、なんと阪神は9回ツーアウトから逆転ホームランを打たれて負けていた。勝利が目と鼻の先まで来ていたところでの逆転被弾に甲子園はさぞ沈んだことだろう。熱狂的なファンが酔っ払った勢いで選手を罵倒するような言葉をグラウンドに向かって吐き捨てる姿が容易に目に浮かぶ。
 僕はでもその劇的な逆転負けに特に心が動かされなかった。驚きはしたが、まあこんなものか、という具合だった。もしかするとチームへの愛やその熱量がだいぶ落ちたのかもしれないと思ったが、それでもかまわないと思った。とうぜんながら、勝つこともあれば負けることもある。もちろん勝てば喜ばしいが、負けても落ち込まない。明日は勝ったら良いなと思うだけだ。結局のところ、自分にできることは、ひそかに彼らを応援することだけ。それくらいの距離感がちょうど良いと思った。

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