参考書は絶対正しいのか?~過量投与を防いだ事例から~

先日、看護師向けの筋肉注射の手順が長い間更新されておらず誤った接種方法を長年行っていたことを記載したが、今回は参考書に関する事例。医師向けの参考書の記載が誤っており、記載内容を参考に薬剤を処方すると過量投与となることに患者投与前に気づいた事例だ。
 
これについては出版元に連絡したところ、すでに訂正しているとのことであったが流通した本については回収していないし、今はメルカリなどの中古市場で出回るものも多いからなあと思うといまいちすっきりしない。
 
私もこの事例をみるまで参考書は100%正しいと思っていたが、こういう事例があると改めて自分で考える力が必要になると思う。
少なくとも看護はこの20年で明らかに参考書は写真やイラストが多く、QRコードなどですぐに動画が見られるようになっている。活字が少ない。
また、「すぐにできる」「完璧マニュアル」のようにそのまますぐに業務に使ってもいいと記載されているものも多い。
今回の事例は医師向けの参考書であるが、これも参考書に書いてあるものを転用すれば簡単に当直帯でも処方できるというものだった。
視覚的に簡単にわかりやすいもの、そのまま転用すればいいものはたしかに便利であるし私も活用してしまう。でも、そのまま転用すればいいという思いが出た時点で脳は考えることをやめてしまうのではないか。特に参考書に載っているならば誤っているとは思わないだろう。
 
この事例からの学びはまず参考書は“参考”書。自分できちんと咀嚼して考えることが大事。
そして、出版される方は、たった一文の間違いが患者さんの命に関わるリスクがあることを理解してほしいと思う。
 
実はこの事例は、私の中であと2つの学びがあった。
もうひとつは、実際に過量投与がなかったにも関わらずきちんと報告があがったことだ。
報告があがり、背景を調べるなかで参考書の記載が間違っていることに気づき出版元にも伝えることができた(すでに出版元は知っていたようであるが)。
やはりヒヤリハットレポートは意義がある。
以前にヒヤリハットレポートを提出しない要因に「レポートがなにに生かされているか分からない」というのがあったが、意義があるのだ。
 
もう一つは、チームステップス※1の2回チェレンジルール※2の成功例だということだ。
※1 チームステップス(Team STEPPS®)とは、米国のAHRQ(医療研究・品質調査機構)が医療のパフォーマンス向上と患者の安全を高めるために開発したツール
※2 安全を脅かすような緊急性のある状況や事柄等があると感じた場合において、一度はアピールしたものの、その提案について議論がなされないなどの状況で繰り返しアピールすること
誤った処方を見た看護師は、医師に一度「量が過量ではないか」という指摘をしたが、医師は「参考書に記載されている通りの計算だから大丈夫」と一度返答している。
その後、薬剤師と看護師がもう一度医師にそれぞれの立場で伝えたところ、医師が参考書の記載が誤っており、過量処方であることに気づいた。
 
多職種がそれぞれの立場できちんと監査し、その結果を医師に伝える。
一度で意見が却下されても、やはり誤っているのではないかと思ったときにもう一度相手に伝える。
伝えられた医師もきちんと対応している。
これはチームステップスの2回チャレンジルールが体現された事例だ。
 
きっと結果の重大性や程度の差はあるとはいえ、報告に上がらなくても多職種の連携で安全が保たれている事例は他にもあるだろう。
だからこそ、医療安全管理者として報告をあげてもらえたこの事例を大切にしなければならない。
この事例については、医療安全通信にまとめ、看護部と薬剤部には直接各部署をラウンドしポジティブフィードバックした。また新人職員向けの研修でも実際あった多職種連携、2回チェレンジが成功した事例としてとりあげさせていだいた。

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