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インシデント後の対策は「足し算」だけでなく「引き算」も考えよう

インシデントが発生すると、事例の背景について分析し、要因となるものを考え、改善策を立案する。その過程で使用する分析方法はいろいろだが、多くの病院がこのような感じで振り返りを行っていると思う。
そして改善策として、なにかしらひと手間加える対策(プラスの対策)が立案されることが多い。
例えば確認不足で起きたインシデントだとすると、「チェックリストを作る」とか、「表などに忘れないように記載する」など。
 
もちろんそのような改善策を立案し、チェックリストを活用することでインシデントの再発を防げる事例も多い。ただ医療安全管理担当のときに感じたのであるが、「表に書く」「もう一度確認する」などの新たな手順を増やすことで、別の穴が発生するリスクが高くなる場合もある。
 
例えば、「薬のケースにセットされていた食前薬を配薬し忘れた」というインシデントが発生したとする。要因を分析していると、処方箋には食前薬と記載されていたが、他の食後薬と同じような表示であり見落として気づかなかった ということが分かった。
このインシデントに対して「食前に配薬する薬があることをケースに表示する」という新たな対策を立てた場合、こんどは「その表示を誰かが忘れたため食前薬があることに気づかなかった」というインシデントが発生する場合がある。
他にも処方箋に「食前薬あり」の札をつけるというルールを新たに決めると、「その札をつけ忘れたから配薬忘れが起こった」という事例が出てくるかもしれない。
この場合、「処方箋の『食前薬』という表示が自動的に赤に印字されるようにシステムを変更する などのほうが新たなインシデントは発生しにくい。
(ただし、システムを簡単に変更できない場合も多々あり、いつも悩みの種だ)
 
インシデントを防ぐための対策を立案するうちに、決まり事が増えてその決まり事を守るために忙しくなり、業務多忙になるからこそインシデントが発生しやすい環境になる という悪循環は避けなければならない。
 
パッと見て誰もがわかるように、確認の手順は簡素化する
もう一度みんなで0から見直すと、「足し算」の対策をたてなくても効果が出る対策を立案できる場合もある。
以前、ある処置の実施忘れを防ぐための対策を立案したことがある。
だいたい病棟内で10名近くがその処置を実施しており、その内容は紙に記載され患者ごとにファイルに入れられていた。
実施忘れを防ぐ対策として、そのファイルをしまう棚を2つに区切って、日勤で実施し終えたら「夜勤BOX」へ、夜勤で実施し終えたら「日勤BOX」に入れるようにした。
もともとの手順の流れは変えず、ただしまう場所を2つに区切っただけだ。
でも、結果として「未実施」のファイルは棚に残る(見える化)し、声をかけあうことで実施忘れのインシデントは減少した。
この対策は手順としては「足し算」でもなく「引き算」でもないプラマイゼロであろうが、結果としてインシデントも減少し現場でも受け入れられた。
 
ただ、今まで行っていた手順を減らす「引き算の対策」を立案すると、万が一事故が起きたときに誰が責任を取るのかということが意見としてあがりなかなか受け入れられなかった経験がある。前向きに捉えるならば、だからこそマイナスの対策立案のほうがより相手を説得できるデータを準備するので、一旦対策を実施できれば効果がでるだろう。
 
対策を立案するときに、これって必要な「足し算?」って振り返るのも一つの方法かなと思う。

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