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お歳暮のメロンと破れた恋

 父の会社の人が、毎年お歳暮にメロンを送ってくる。しかし、私の家にメロンを好きな人はいない。むしろメロンアンチの方が多い。それなのになぜ送ってくるのかと聞いたら、どうやら送り主の好物がメロンらしい。相手の好きなものを考えず、自分の好みを押し付けるのは独りよがりじゃないかと思ったが、そういえば自分もつい最近似たようなことをしてしまったと思い直し、恥ずかしくなってきた。

 それは、よりにもよって私の好きな人にしてしまったことだ。私も彼もそこそこに読書家なこともあって、接触の機会を作るためにも彼におすすめの本を聞いたりしていたのだが、読み終わった感想を伝えたときに、彼からも私のおすすめの本を聞かれたのだ。そのとき、私はこう言ってしまった。「あなたが好きそうな本と私がただただ好きな本、どっちがいい?」って。ああ、思い返すだけで顔を覆ってしまいたくなる。彼は優しいから、私がただただ好きな方を選んでくれたし、きっちり読んだうえにセンスのある感想をくれたわけだけれども、それから少し距離ができてしまった気がする。 

 もし分岐点があるならきっとあのときだったんだろうなと思う。本当に彼のことを想うのなら、彼が好きそうな本を選ぶべきだった。あのとき、私は間違えてしまった。試してみたい気持ちが、純粋な思いやりに負けたんだ。それは本当の愛じゃない。自己満足だ。

 あのね、今更かもしれないけど、本当なら、華氏451度か、1984を薦めたかったんだよ。いつかあなたがこの日記を見つけて、伝わってくれるといいな。なんて嘘です。こんな汚い自意識の塊は見ずに、あなたはあなたらしく生きていって。

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