見出し画像

仕事ができない自分と向き合う日々、再び。

私は、ここにいていいのだろうか。
そんな思いが浮かぶようになってしまった。

新しい職場に入って1か月半が過ぎた。
初めの2週間ほどで一日の流れを何とかつかんだと思ったら、その翌週から新たな業務が次々に投入されていった。
それまで教えてもらったこともまだ完全にマスターしておらず、一日のスケジュール運びにも全くついていけていない状態で、引継ぎがどんどん進められていく。
業務の内容としては、おそらく難しいことではないのだということは分かる。
私でない人なら、一度教わったことでもすぐに理解して覚えることができるのかもしれないと思う。
私は、一度で理解できず、覚えることもできず、同じ間違いを何度も繰り返す。
仕事を教えてくれる20代の女の子が作ってくれたマニュアルに気づいたことを書き込み、何度も質問し、その日にあったことをノートにメモして家や通勤途中で読み返し、それらを見ながら仕事をしているにも関わらずミスをする。
作業のたびにマニュアルやメモを確認するのでなかなか進まず、夕方までにため込んでしまった伝票を先輩方がさらっていくという毎日。
5分刻みの一日スケジュール表を作り、それに従って行動をコントロールしているつもりなのだけれど、全神経を集中して作業に没頭してしまうとスケジュールを意識することを忘れてしまう。
逆にスケジュールを意識すると目の前の作業に集中できず、とにかく終わらせたいという気持ちから必要な確認がごっそり抜けてしまい、あとで仕事を増やすはめに・・・
ミスをすると、自分だけでなく周りの先輩方の仕事も増やすことになってしまう。
ある程度時間がかかっても、全部終わらなくても、やった仕事にはミスがないようにしよう。
そう思っていたのだけれど、そのやり方にも限界がある。

隣に座っているベテラン女性がついに言った。
「何でこんなに仕事が終わらないのかなあ?他の人もたくさん手伝っているのに・・・
怒っているわけではないの。
どうしてできないのか理由を考えて、やり方を考えていかないと・・・」
机の脇に置いてある自作のスケジュール表を見つめ、状況を説明しようと思ったけれど、何を言ってもただの言い訳にしかならない。
そんな思いが自分の口をふさいでしまった。

実はこのやりとりの前に、ベテラン女性がキレてしまった場面があった。
引継ぎのために必要な作業の一部だったのだが、パソコンの動作の問題で数日保留になってしまっているタスクがあった。
私はそれを「早く解決すべき作業」と捉えていたのだが、ベテラン女性から見るとそうではなかったらしく「後にしてね」と言われていた。
けれど、作業自体は5~10分程度で終わる予定だったので、お昼休みに入る前にやってしまおうとしたところを「後にしてって言ったよね⁈」と激しく咎められた。
業務全体が見えている女性から見たら、その行為はやはり間違っていたのだと思う。
1分1秒でも無駄にできない状況の中、動きの鈍い私が余計なことに時間を割いていたらキレるのは当たり前である。
そう思い、折れそうになった気持ちを何とか立て直して、一部始終を見ていた女の子のところに戻り引継ぎの続きをした。

「何でできないの?」という言葉をもらったのは、そんなことがあった日の夕方だった。
ベテラン女性は早番なので私や女の子より30分ほど早く退社する。
自分の退社時刻になっても仕事がまだたくさん残ってしまっていたが、私がもたつく間に女の子が猛スピードでさくさくこなしていき、いつの間にか全て終わっていた。

女の子が席を外しているとき、昼間の出来事を見ていた他の社員さんが「大変でしたね」と声を掛けにきてくれた。
私は、張り詰めているときに優しい言葉を掛けられると涙が飛び出てしまうので、それを堪えるために社員さんから目をそらさなければならなかった。

帰り際には別の社員さんが「大丈夫ー?俺もしょっちゅう怒られてるよー。」と明るく励ましてくれた。
会社全体が忙しくみんな余裕がないはずで、私のミスですでに迷惑をかけている社員さんもいる中、本当にありがたくも申し訳ない思いでいっぱいになった。

引継ぎをしてくれる女の子は、余計なことを何一つ言わず、私が困っている状況をすばやく察知して解決してくれる。
何度同じことを聞いても丁寧に答えてくれる。
イライラしてもおかしくないと思う状況でも淡々と業務をこなす。
この子が退職するまであと1か月しかない。
それまでに引継ぎが終わるのだろうか。
そもそも、私はこの職場でやっていけるのだろうか。
でも、今辞めたらもっと迷惑がかかるのではないか。
それとも、こちらから早めにギブアップした方がいいのだろうか。
考えがどんどん後ろ向きになっていくのを止められない。

努力ではカバーできないことがたくさんある。
自分の特性を変えることは難しい。
それを改めて思い知らされた。
生きていくためには仕事をしなければならない。
けれど、自分にできることはあるのだろうか。
いったん遠ざかっていたこの問いが、再び目の前に現れてきた。

一日のスケジュールを何度見直しても、これ以上切り詰められる時間の余裕はどこにもない。
完全にパンクしていた。
解決策を見いだせないまま翌日も出社した。

朝の業務が終わったところで、ベテラン女性が私と女の子を呼んだ。
私のスケジュール表を見ながら一日の様子を改めて私に確認する。
そして、私が引き続きやる仕事と他の人に振る仕事を分け、それぞれの作業完了時刻の目標を明確にしてくれた。
昨日までに引き継いでいた仕事は半分ほどになり、その日は何とかスケジュール通りに動くことができた。

これは私の予想だけれど、女の子の退職と私の引継ぎを前提として業務を回すためにどうすればいいかを、上司とベテラン女性が考えてくれたのだと思う。
出来の悪い私を咎めるでなく、業務を詰め込んで一人で解決させるでもなく、職場全体としてうまく稼働していく方法を取ろうとしてくれているのだと。
女の子の退職を引き留めるわけにもいかないし、これから新しい人を探そうとするのも現実的ではないのだから、当たり前と言えば当たり前である。
けれど、心からありがたいと思った。

入社以来、上司からは「辞めないでね。すぐできるようになるなんて思ってないからね。今は耐える時期だからね。」と温かい言葉をかけて頂いていた。
ベテラン女性からも「間違えても落ち込まないこと。いちいち落ち込んでいたら仕事が回らないからね。」と言われていた。

私がここにいてはいけないのかもしれないと思ってしまった瞬間があった。
けれど、少なくとも今は辞めてはいけない。
私がどんなに迷惑をかけても叱られても、職場の方が私を何とかして受け入れようとしてくれていることが分かったから。

この先、本当にどうしようもない状況になったらそれこそクビになるかもしれない。
でも、その状況と今の状況は違う。
「無理しない・頑張らない」大切さがある一方で、「無理する・頑張る価値のある環境」というものも確かにあると感じた。

明日も明後日も、「折れる」可能性は毎日ある。
折れたとしても、数日間は折れたままで様子を見てみよう。
すぐに結論を出そうとしなくても、今回のように自分の外側に変化が起こり救われることがあるかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?