月の影 影の海

#月の影影の海
#十二国記
#小野不由美

耳に痛い。これが上下巻を読み終えて、一番大きく占めていたな。

陽子はもう、、、これでもかというほど、異境の地で裏切られ、追いつめられる。それはもう「もうやめてあげて・・」と懇願したくなるほど容赦なく裏切られる。まだまだ裏切られる。

けど、陽子も倭の国にいたころ、「私は気が進まないんだけれど」顔をしながら、かといって断ることも言い返すことも助けることもしてこなかった。これも一種の裏切りだと、私の眼には映る。
つまり陽子もこれまで、いい子ちゃんの顔をしながら、周りの人を分かりやすい形ではないけれど裏切ってきていたのではないかと。

その自分の愚かさをゆっくりじっくり、
いろんな方向から、
逃げる隙間も与えられずこれでもかこれでもかと思い知らされる様子は、
読み手であるこちらも心がえぐられ耳が痛く、どうにも苦しかった。
まるで自分が裏切られ、裏切ってきたように感じて。


私も陽子も、表立って「悪いこと」をしてきたわけではないけれど。
子供時代、学生時代、大人になった今も、
無自覚のまま誰かを裏切っているのでは?と、そんな風に思ってしまった。

最初のころの陽子は、「嫌・・・」「でも・・・」もうそればっかり。
(これは本当に何も説明しない景麒のせいも大きいけど)
よくある異世界ものは、陽子のイヤイヤ期の長さの半分もないんじゃないかなと思うくらい、陽子のイヤイヤ期は長い。
まあ当り前よね。

両親の影響がかなりあると思うけれど、
陽子はとにかく自信がないし、自尊心も低い。
だから、叱られるのが嫌だし(それは恐怖に近いものなのかなとさえ思う)、自分の意見も言えないし、環境の変化にもとことん拒むばかりで、決して居心地がいいわけではなかった以前の環境に戻りたいと願い続ける。
私の眼には、本当に帰りたいと思っているようには思えなくて、
ただ、今の環境の変化に順応できないから、とりあえず、居心地はよくなくとも慣れて過ごしていたあの環境に身を置きたい。
それだけなのかなと。

そういうの、特に珍しくはなくて、私だってそうだろうなと思う。
決して居心地がいいとは言えない今を、見なかったことにして、どうにかやり過ごして、生きている。

でも陽子のように死がすぐそこにある境遇になったとき、
この生き方はデロデロに甘やかされた、ぬるい生き方に映るんだろうなと思う。
それを知りつつも、この生き方を変えられるのかと言われると、具体的にどうすればいいのかわからないしうだうだうだ・・・と
まるでイヤイヤ期の陽子のように「でも」「だって」を繰り返してしまう。

だから、この本はめちゃくちゃに耳が痛い。


それでも、陽子が、
自信なさげに、自分は莫迦だと自覚しながら、
自分だけは自分が生きるのを諦めたくないだけだ、なんて思いながら
ヒーローやヒロインのように「キラキラ前向き」とは全然違う様子で、
それでも生きていってくれるのが
なんだかとても嬉しくて、こちらも、心の中の何かの穴が少し埋まるような感覚がする。


王になった彼女はこれから先、何年、何十年、何百年と、
今と変わらず迷いに迷い、自信がないと思いながら居続けるのか、
それとも延王のように(ぱっと見だけど)自信ありげに居るようになるのか
それはわからないけれど、
どちらにしても何だか人間らしくっていいなあと、耳に痛いながらもその痛さを撫でている感覚。

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