見出し画像

スネークオペレーター〜特別諜報捜査官〜#3

【前回までのあらすじ】
木下が亡くなり堅気になって、虚無感での生活をしているある日、知らない電話番号の電話がある。先に堅気になった木下の兄弟分で、叔父貴の矢崎勉であった。東京の中央区で運送会社を営んでいて働くように勧誘される。その運送会社は海上コンテナ専門のトレーラーを専門とする運送会社であった。大型、牽引免許を持っていない内藤靖ことヤスに矢崎は、合宿免許で免許を取得するように薦める。


「内藤さん、降りて来てください!」

大型教習車のマキシブレーキを掛けて教官のところまで歩いていくヤス。

「この位置から、内藤さんが運転していた方向を見てください。」
言われた通りに見てみる。

「どうですか?」

と教官。

「何がだよ??」

と不思議そうなヤス。

「・・・トレーラーヘッドと台車が曲がってませんか。」

と教官。

「だから、何だよ!」

と意味が分からないと言った表情で不機嫌になるヤス。

「ヘッドと台車が車庫入れした時に真っ直ぐじゃないと駄目なんですよ。」

「誰が決めたんだよ!誰の迷惑にもなってねぇーじゃねーか!しかも、ほんの少しじゃねーか!!」

とヤス。本の少しどころか45度に近いくらい曲がって停まっている。

「・・・トレーラーヘッドと台車が真っ直ぐ出ないと合格しませんからね。」

と淡々と答える教官。

「ちっ、いちいちうるせーなー。」

運転席に乗り込み、切り替えして真っ直ぐに直す。

「それを一発でやってくださいねー。じゃ無いと合格しませんからねー。今日はこれで終わりにします。」

と言って、教官は見極めの印鑑を押して行った。
教習簿を事務所に返し、隣にある合宿者専用のホテルへ向かう。ここは、那須塩原にある自動車教習所。ホテルを常設している為、便利と言えば便利だ。一人で来ているので、一日二時間しか教習が無いので暇が多すぎる。一応、タブレット端末は持ってきているので、ホテルのWi-Fiを使って動画サイトなどで映画やバラエティを見て時間を潰しているけど、他は特にすることがない。車で来れば良かったなぁと少し後悔している。大型の教習は卒業して、牽引の見極めを今日合格もらったので、あとは、卒業検定で終わりになり、両方の卒業証書を自宅住所を管轄する試験場に持って行けば、免許を書き換えしてくれる。だが、卒業試験が教習所は普通車と同日にある為、3日先になる。

一回帰って車でもう一回来ることも考えたけど、車で東京から来るとなると相当遠いため断念。教習所に入学するときに会社から支払いをしてもらうので、入社を決断したのだが、会社の通勤圏内にマンションかアパートを借りる為、結局は叔父貴に借金する形となった。長野の田舎の後輩が乗らない旧車があるけど要りますか?って言うからくれるのかと思っていたら買わないかという話で、通勤に使うためにそれも買った。よっぽど、木下の親分から譲り受けた腕時計を質草にしようと思ったけど、利息を支払いできなくて流れたら辛くて死んでしまいそうな気分になったため、それは辞めて、自分の持っているものほとんど売って、後輩からも旧車のサニートラック(通称サントラ)も買った。

程度も良くエンジンも改造してあって、Aー12のエンジンじゃなく、旧車のカローラ・トレノ・レビンに載っていたDOHC2”TG1600ccを1750ccにボアアップしてあって吸気系はソレックス、掛気はタコ足ストレートマフラー、足回りはカヤバ(KYB)のショクアブソーバー渡辺のホイールにアドバンのコンパウンド柔らか目のタイヤを履かせていた。だが、遊びでサニトラにこのパワーのエンジン積んでもトラックなんで、少しウェイトが無いとコウリンが空回りする為、走る車ではなく音を楽しむ車でほどほどに走るし通勤にはちょうど良い。合宿の話に戻る。
 
中2日ほど時間ができたので何をしようかと考えながら、宿舎の銭湯に入りに行ってサウナも付いているし考えることに・・・。ここは銭湯もあるし、バイキングだが3食付いている。免許取るなら合宿だなと思った。通常より少し安いか同じくらい(通常とは家の近所の合宿に通うことをいう)、宿泊施設があって、教習から逃げられないし、3食昼寝付き。刑務所によく似ている。刑務所は満期にならないと出れない。合宿免許も卒業検定に受からないと帰れない。帰れるけどお金を先に全額支払っているので損金が発生する。刑務所も中で喧嘩とかすると刑が伸びることもあるので出れないし、似たようなものだ。

風呂から上がり、食堂に行って今日の夕飯をとバイキングで好きなメニューを選び、ビールもあるので、こりゃいいや。(ビールとか飲み物は卒業の時に精算される。)スマホを見ながら、飯を食べていると、隣の若い衆がジロジロ見てくる。そうそう、合宿免許を取っているところは、やっぱ、普通車やバイクがほとんどなので、歳が30歳近いと大型免許教習以上だなってバレてしまう。とにかく人が多い。ここの那須塩原だって、申し込んで1ヶ月以上待った。要は、スケジュールが1日も空かないようにするには、入学日をよく考えて毎日二時間乗れて、検定も日をあまり空けないようスケジュールの組み立ても大変だ。合宿免許のセンターがあって、コンピュータで全国のどの教習所なら、この日からこの日までには取得できますと親切に教えてくれる。だから、検定に不合格するとめちゃくちゃスケジュールが狂う。下手くそだったり、運動神経が悪かったりすると、なかなか帰れないことになる。めっちゃスパルタだ。でも、確実に取れる。そこが良いところだ。それで、大学生が休みのうちに車の免許とか新入社したのに車の免許が無いと言われ会社から取ってこいと言われたりする。他にもここは出会いの場であったりもする。周りを見回すと結構若い女子が多い。男と2人で来ないだろうから必ず女友達とか一人できてる場合が多い。合宿免許取りに行って出会って結婚したってこともよく聞く話である。
話は戻って、隣の男女の団体からとうとう声を掛けられた。

「お兄さん、めちゃくちゃかっこいいですね!」

24才〜25才の若い子が言う。

「そんな声の掛け方は、無いだろう」

と少しニヤけて言うヤス。

「あっ、すいません。僕、せいじって言います。会社に車の免許ぐらい取ってこいと静岡から来ました!」

と勢いよくせいじは言う。

「はい、よくできました。俺は内藤、下の名前が靖って言うんで皆んなからはヤスって呼ばれてる。歳は27才。俺も会社で免許が必要で、大型牽引を取りに来たんだ。明後日、卒検だよ。よろしくな。」

と、この団体は良い子たちの集まりみたいだから、ちゃんとした挨拶をしてやった。

「内藤さん、会社勤めって今聞いてホッとしました。さっきお風呂で凄いの見ちゃったんで。」

とせいじが話している途中から

「僕、サトルって言います。大学生で休み中に車の免許取ろうと来てます。今、三段階で仮免です。僕も内藤さんの絵というか、タトゥ・・・というか、刺青を生まれて初めて見ました。肩にちらっと、首にちらっととかは、たまに見るんですけど、体全体、和彫りとか見たこと無かったです。」

と話したかったようにサトルが言う。

「そうか、自分は昔に彫ったんだけど、あんまり鏡で見ないから自分の彫り物があるって忘れちゃんだ。驚かせたんだったら、ごめんな。」

とヤスが皆んなの顔をぐるりと見ると3人男2人女の5人グループだった。

「皆んなは知り合い同士か?」

とヤスが聞くと最初話しかけてきたせいじが、

「いいえ、全員ここで知り合ったんです。大阪の子もいるんですよ。」

「えっ!まじで!」

とヤス。せいじの視線の先を見ると

「スミレって言います。私は大阪市から来ました。多分イントネーションが違うと思うねんけど、刺青見るのうちは慣れてんでぇ。」

皆んな一斉に笑う。

「めっちゃ大阪弁じゃん。慣れてるのもどうかと・・・。」

とサトルが言った。一緒に笑った。ビール飲んでるのは俺だけだった。ヤスが聞く。

「皆んなビール飲めるんだろう。未成年じゃないし。」

と聞くと

「皆んな知り合って一週間ぐらいですけど、俺たち男3人は女子がいるときは飲むの辞めようって決めたんです。なんか、倫理的にというか、コンプライアンス的にどうかと思って。」

とせいじが言った途端にスミレが

「え〜っ!そうやったん。知らんかったわ!皆んな飲まれへんのかと思って、ミミちゃんを部屋飲みでグビグビしてたわ。」

また全員大笑いした。

「実は俺ら3人も、3人で部屋飲みしてた。しかも飲みすぎて教官にバレないかドキドキもんで、マスクしてたから助かった。」

もう一人の男子が言った。ひろゆきだと言う。
ひろゆきもミミもちゃんと挨拶した。ひろゆきは埼玉で大学生。ミミは上場企業のの社員らしい。皆んな個々で個人情報はほとんど聞いてないらしい。最近はそういうものなのか?
コンプライアンスを気にしているらしい。昔みたいに酔って〝ブス〟とか〝デブ〟とか言ってしまわないか気にしたり、話の中で傷ついたりする文言があったりしないように注意して話をする時代になったらしい。俺もこんなところで場違いの人たちと出会って、初めて知ることも多い。
そんな話をしていたら、俺も注意しなきゃと思いながら、刺青も平気で出して歩いていたりすると、脅かしたとか言われてもおかしくないと思う。

「皆んなの話を聞いていると、俺なんか古い人間は本当注意しないとやばいな。勉強なるよ。」

とヤスが言うと、皆んな、うんうんと首を何回も縦に振っていた。

「でもさ、酔わないように飲めばいいと思わねえか?俺が奢ってやるから2〜3杯いいだろう。付き合えよ!」

とヤスが言うと、すぐスミレが飛び付いた。

「賛成!」

「ビール何本か持って来いよ。」

とヤスが微笑みながら言う。サトルが

「パワハラ全開じゃ無いですかー」

と言いながら、ビール3〜4本、ヒロユキが人数分コップを持って来た。ミミとスミレが全員に酌をする。

「これもパワハラとセクハラですよぉー。」

と言いながら、ミミがヤスに酌をする。全員についだところで、スミレが

「じゃあ、うちが乾杯の音頭を取るわぁ〜。この出会いと全員一発合格にー乾杯っ!」

6人のグラスがカチャーン。
時計を見たら午後7時。食堂のおばちゃんがオーダーストップを6時半にしていたので、お開きの時間。テーブルの上を見たら、空のビール瓶は10本程度。スミレの提案で割り勘で道渡って向かい側にあるカラオケボックスへ行くことになり、ヤスも誘われ行くことになった。
ヤスは卒検が明後日なんで、明日1日中暇なんでフリーで飲めるが明日授業や検定の人は早く上がると言う約束でカラオケボックスに移動することに。
スミレが仕切って飲み物をどんどん置いてあるタブレットで注文していく。
カラオケを予約しているのかと俺は勘違いしていた。メニューがカラオケのタブレットに全部あるのだ。カラオケボックスなんて何年ぶりか。歌を歌うために使ったことなど何年もない。
秘密な会議にはもってこいだなので、そんな時によく使う。人に聞かれたくない話とかで使っていた。

「はーい、皆さん自分のドリンク来たぁ〜?今日は内藤さんと皆んなのっていうか、免許早く取りたーい!かんぱーーい!」

俺はレモンサワーの濃い目をジョッキで乾杯した。皆んなから何なのか気を利かせて俺をサンドイッチに女の子を座らせた。そう考えると俺も一年前まで木下親分の側近をして、暗殺から一年。遊びという遊びもしないで寂しい一年を送り、実家でゴロゴロして、地元で遊ぶ女はいないわけではなかったけど、そんな気分にもなれず今日まで来た。免許を取りに来たのに、こんなに楽しいのは何故なんだろう。本当はこんな気を遣わないで遊びたいんだなと思った。先日も叔父貴に連れてってもらった銀座の高級クラブで気を遣いながらシャンパンやワインを飲んで、叔父貴にめちゃくちゃモテるじゃないか!って言われ、一人で機嫌が悪くなったりと気を使うと楽しめないことが多い。それはそうだ。俺は、金を使ってない。でも今日は、知らない者同士、しかも割り勘って言って奢るって言っても聞かないから気持ち悪いけど、考えると皆んなも奢られると気を使うところがあるのかもしれない。それより、スミレがぐいぐいくる。少しぽっちゃりの背が低い可愛らしい子だ。バストがあるから多分自分に自信を持っているんだろう。
常に誰かに胸の谷間を見せているように感じるのは俺だけだろうか。それより、俺はスミレがタイプじゃない。どっちかと言うとミミの方が興味がある。なんだか興味ある女性には俺の癖なのかあまり話さない。冷たくしたくなるクセがあるみたいだ。でも、片方だけ話して片方は話さないのも、嫌われてるのかな?と思われたら元も子もないので、同じくらい話をしようと思っている。でも、スミレがめっちゃ話してくるため、片方だけ話しているみたいになって、ミミがまたその隣のセイジと話し始めると、なんだこのスミレ・・・ってなったりする。何とかスミレは逆となりのひろゆきに話してほしい。それで、良い方法を思い出した。スミレに何か歌を歌ってもらおうと考えた。

「何か歌えよスミレ。大阪の子って歌上手って言うじゃん!ほらドリカムのあの大阪のやつ・・・。」

「あーあれね、うちあれ得意やねん!」

やった!これでミミと話ができるとヤスは内心嬉しくなった。
スミレが歌い始めたらミミがトイレへ・・・。うわーこれで俺がトイレに立ったら興味があるのもろばれやんと思いながらもどうしようか考えていた。スミレの歌がCメロまで来たところでエンディングやんと思ったところでなんとミミが帰ってきた。

「どうしたの?トイレ混んでいたの?」

とヤスが言うとミミが

「違うの、お母さんからの電話だった。」

新卒で上場企業に入社したばかりの自分の娘が合宿免許に行ったとなったら心配もするだろう。

「大丈夫だった?」

「大丈夫だったけど、早く寝なさいだって。いつまでも子供じゃないよって言ってやった。」

とミミが膨れっ面で言ったが、ミミのお母さんの気持ちも分かる。こんな流れでカラオケ来てしまってるもんな〜。

「ミミって本名なん?」

とヤス。

「そうだよ。親がつけたんだけど、カタカナでミミだよ。」

とミミは目をキラキラさせながら言った。あの銀座で見た嬢たちと同じだった。この目として超可愛いい子とそうでない子で分かれるが、ミミの場合は前者だ。めちゃくちゃキュンってきた。そのくせに俺は

「なんだ、ミミって昭和の芸能人みたいだな・・・。」

とか言ってしまう。あっ、やっちゃったと自分で自分を責める。でも、良かった。ミミは

「そうなの内藤さんぐらいの年の人たちが会社に多いんだけど、苗字まで言ったら余計に言われちゃう。」

と俺に笑いかけた。

「へぇ〜、苗字はなんていうの?」

「今井・・・。」

今度はあまり笑わないようにしたが、ついこの言葉を言ってしまう

「ミミちゃん、そんだけ可愛かったらモテるでしょ。」

ミミも言われ慣れてるのか、

「皆んなそんなこと言って誰も寄ってこない。」

と苦笑いするミミ。

「ほんとかよ。じゃーライン交換できるのか?」

と一気に飛び込んでみた。

「いいよ!」

と言ってスマホを出してラインのQRコードを出してくれた。まじか?と思ったが、隣のスミレにバレないようにサッとスマホをかざしてテーブルの下で読み込んだ。おっ、男は誰も気づいていないようだ。やったぜ。

「あー、内藤さんがミミとライン交換した!」

ってスミレが気づきやがった。皆んなも一斉にこちらに振り向き、えーいいなーといった顔を見せてきた。スミレが

「皆んなでライングループ組もうよ!」

と言い出した。うわーやっちゃった・・・。ということで、ミミのラインはゲットできたのは嬉しいが、グループラインを作ることになった。まぁ、いっか・・・。

午後10時になって、明日の授業の子も居るし検定の子も居るので、割り勘で払って解散になった。部屋に帰りグループラインに皆んな今日は楽しかったみたいなラインが入っていた。もちろん俺もthank youと書かれたスタンプを送った。ミミには、個別に

「今日はあんまり話せなかったけど、今度時間あったら話そう。」

と送ったら

「是非是非!内藤さん、明後日の卒検受かったら東京に帰るんですよね。私、まだ一週間あるし一発で受かる自信無いから集中して予定通り私も東京帰りたいので、免許とって落ち着いたらドライブ連れてってください。」

と返信があった。これまでの俺だったら、今から来いよ!ぐらい言うんだけど、ここは紳士的に対応しないといけないところだ。

「OK!ドライブいいねぇ〜!初心者マーク貼って。」

絵文字付けて送ると

「wwwそれ恥ずかしい・・・。」

と返信がきた。

「じゃあ、お互い合格したら連絡しよ。今日は楽しかったわ。おやすみなさいzzz」

と長々とやり取りせず締め括った。今は嫌われないように大事に大事にラインを温めることとした。ん?これって一目惚れ?めっちゃ可愛かったしスリムで出るところ出てて・・・。あの甘えた目が心に刺さった!!ベットにゴロゴロしながらガッツポーズをしていた。

「内藤さん、合格するの祈ってます!!私も頑張るから応援してくださいね。今日はありがとうございます。また会えるの楽しみにしています♡おやすみなさい(キスマーク)」

とハートやキスマークの絵文字付きでラインがきた!ラインのプロフィールを開いて少し盛ってあるような写真を見ながらニヤニヤしてた。おやすみの羊さんのようなスタンプを一個送って終わる。次の日も2〜3回ミミとはラインした。相変わらずグループラインでスミレが授業終わっただの、あの教官は目を見ないで私の胸と話をするとか、おもしろおかしい事をラインに連投してくる。皆んな笑ったり怒ったり、まぁ楽しそうに教習所を満喫しているようだ。俺も卒検当日の朝から教習所の回りをジョギングして体を慣らし、部屋でいつもの筋トレをして帰り支度をと部屋の掃除をした。卒検は問題なく合格し、昼の新幹線で東京へ帰った、まだ引っ越しして片付いていない豊洲のマンションに着いた。

(つづく)

#創作大賞2024

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?