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指示語の問題について~大学受験生応援コラム5月

高校生でも案外解けない指示語問題


’** 0 はじめに ***

当コラムに目を留めていただき、ありがとうございます。大学受験国語の勉強に資する内容提供を目的として書いています。

今回は現代文、指示語問題を取り上げます。本文や設問は高校入試レベルですが、長年この仕事をやってきて、指示語問題は高校生になっても結構正解を書けない生徒が多いと実感しています。いつかは取り上げようと思っていたテーマの一つであります。

*トップのイラストは「ジョジョ」で検索して出てきたものを借用しました。理由はこの後すぐに見当がつくと思います。

’** 1 今回の素材文と設問 ***

以下に挙げる文章は、大昔高校入試で出題された評論文を、文章の骨格を一切変えずに内容だけ差し替えたものです。私が今テキトーに考えたのでアホみたいな内容ですがそこは許してください。

もとの文章は漫画について述べた文章ではありません。しかしそれ以外の骨組み…助詞とか接続詞とか強調表現とか…は、ほぼいじっていません。

内容については、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズを念頭に置きました。スピンオフ作品では「岸辺露伴」シリーズが有名ですよね。この週末にまたドラマが放映されるようです。

この文章について、一つ問題を設定しました。これを解いてみようというのが今回の主旨です。

【文章】
漫画においては、ともすれば主人公とか、その作品の主な筋立てに関連した情報が重要だととられがちです。しかし、それぞれの作品には特徴ある固有のサブストーリーが組み込まれており、また脇役たちにも固有の物語があるはずです。そうした物語を掘り起こすことこそ、漫画評論家の使命ということができるでしょう。漫画の再発見とは、価値の再発見でもあり。漫画評論家は特にそのことにこだわらねばなりません。

【問】太字部分「漫画の再発見」とはどういうことか。本文の言葉を用いて35字以内で答えなさい。

「本文の言葉を用いて」という指示があるときは、適切な本文表現を抜き出して最後に微調整すればよい場合がほとんどです。皆さんもご自分なりの解答を用意してから、以下をお読みくだされば幸いです。


’** 2 言い換え表現に注目する ***

現代文の問題を解くときには、まずは問いが設定されている一文を分析し、さらにその前後の一文をも分析せよと言われます。

「分析」とは、語句の関係性をつかむことです。問いが設定された最後の一文でやってみましょう。文の構造に注意すれば、「AとはBであり、Cだ」と述べているだけですので、以下のようなイコール関係を見出せます。

漫画の再発見=価値の再発見=漫画評論家がこだわら★ねばならないこと

変な場所に★をつけていますが、理由はすぐに明らかになります。その前の一文も同様に。

そうした物語を掘り起こすこと=漫画評論家の★使命

「使命」とは「与えられた任務」の意。つまり、やらなくてはいけないこと。上で2か所つけた★がイコールでつながります。これも立派な関係です。

そうした物語を掘り起こすこと=漫画評論家の使命=漫画の再発見=価値の再発見

語句の関係性は、文章表現から分かるものもですが、先の★のように、語句知識を活用して見出すものもあります。後でもう一つ語句の意味を吟味する必要が出てきますが、それでもこれで解答の候補が見えてきました。「使命」という語句を使うかどうかはこれからですが、「そうした物語を掘り起こすこと」。これが解答のベースになりそうですよ.。

ただここに、今回のテーマである指示語が入ってきます。

’** 3 指示内容を確定する ***

現代文の設問では、解いてみると指示語が絡んでいる…というケースが多いものです。今回もそうです。分析してみたら、どうやら「そうした物語を掘り起こすこと」が答えになりそうなことが分かった。ただそこに指示語が含まれているというわけでした。

指示語の問題は高校生でも苦手とする方が多いようです。というよりも、高校生に問われる指示語問題は難しいものです。設問自体は小学生の頃から問われるシンプルなものですが、さすがに高校生に簡単なものは問いません。

とはいえ、解答の方針はこれまた小学校時代から変わるものではありません。「後ろにヒント、答えは前」これが基本です。ただ、そのヒントを見つけられるか、それを活かせるのか、ここに解答の成否がかかっています

ではヒントを求めましょう。先の図を再掲します。

そうした物語を掘り起こすこと=漫画評論家の使命=漫画の再発見(設問)=価値の再発見

この中で、今までに一度も触れていない単語があります。どれでしょう?

「再発見」です。これを少し掘り下げてみます。

再発見」と言っている以上、漫画評論家は一度何らかの価値を漫画に見出した後で、新たに別の価値あるものを見つけたことになります。これを踏まえて、本文の前半を読み直します。

漫画においては、ともすれば主人公とか、その作品の主な筋立てに関連した情報が重要だととられがちです【既に「発見」されたもの】しかし、それぞれの作品には特徴ある固有のサブストーリーが組み込まれており、また脇役たちにも固有の物語があるはずです【新たに「発見」されるもの】。そうした物語を掘り起こすこと…

接続詞「しかし」を挟んで、「既に発見されたもの」と「新たに発見されるもの」が見事に対比的に並べて書かれています。そして「また」という接続詞を挟み、「新たに発見されるもの」が二つあることが示されています。設問は「再発見」を問うていますので、「しかし」の後が「そうした物語」の指示内容です。

では、解答を作ります。「そうした物語」の指示内容を作るには、「物語」あるいはその類語で終わるように本文表現の語順を変えて、「そうした物語」という形に合わせていきます

こんな具合に…

一つ目:(本文)それぞれの作品には特徴ある固有のサブストーリーが組み込まれており➡(変更後)それぞれの作品に組み込まれた、特徴ある固有のサブストーリー

二つ目:(本文)脇役たちにも固有の物語があるはずです➡(変更後)脇役たちの固有の物語

これらを指示語の部分に組み込んで解答を作ってみますと、

それぞれの作品に組み込まれた、特徴ある固有のサブストーリーや脇役たちの固有の物語を掘り起こすこと。(50字)

太字部分が長いのと、「固有」という語を2度使っているのが気になるので調整します。「特徴ある」のも「固有」なら当然なので省きましょう。

それぞれの漫画に固有のサブストーリーや脇役たちの物語を掘り起こすこと。(35字)

何とか収まりました。

’*** 4 もう少し字数があったら何をするか ***

本編は以上ですが、もう少し字数に余裕がある場合にどうするのかを少し考えておきましょう。

(その1)「使命」という言葉を入れてみる

先に上げた本文の情報関係図、

そうした物語を掘り起こすこと=漫画評論家の使命=漫画の再発見(設問)=価値の再発見

この中でまだ使っていない「漫画評論家の使命」という語句を入れてみましょう。

評論家の使命として、それぞれの漫画に固有のサブストーリーや脇役たちの物語を掘り起こすこと。(45字)または、

評論家の使命としての、それぞれの漫画に固有のサブストーリーや脇役たちの物語の掘り起こし。(44字)

(その2)「しかし」の前の情報を入れ込む

なんのこっちゃ? と言いますと、

漫画においては、ともすれば主人公とか、その作品の主な筋立てに関連した情報が重要だととられがちです【既に「発見」されたもの】しかし、それぞれの作品には特徴ある固有のサブストーリーが組み込まれており、また脇役たちにも固有の物語があるはずです【新たに「発見」されるもの】。そうした物語を掘り起こすこと

本文の「しかし」の前、既に「発見」されたものを入れ込むということです。例えばこんな具合に…

評論家の使命として、既に価値を付与されている主人公や主な筋立てだけでなく、新たにそれぞれの漫画に固有のサブストーリーや脇役たちの物語を掘り起こすこと。(75字)

*太字の部分は、既に発見されたものと新たに発見されるものとの違いをはっきりさせるために加えた表現です。

(その3)「掘り起こす」を言い換える

今回の設問は「本文の表現を用いて」という指示でしたので、できるだけ本文の語句をそのまま用いてきましたが、一方で、国語記述の解答には比喩は用いないという鉄則もあります。その観点で上記答案を見直すならば、「掘り起こす」は比喩表現です。ここを最後に直してみましょう。要は「新たに価値ありと認める」という意味ですので、例えばこんな具合に…

評論家の使命として、既に価値を付与されている主人公や主な筋立てだけでなく、新たにそれぞれの漫画に固有のサブストーリーや脇役たちの物語が持つ価値を見出だし明らかにすること。(85字)

今回はこれで以上となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。また次回です。

’*** 5 今回のポイント ***

1 語句の関係性は、文章表現から分かるものと、語句知識を活用して見出すものとがある。

2 指示語問題のポイントは「後ろにヒント、答えは前」。ただ、そのヒントを見つけられるか、それを活かせるのか、ここに解答の成否がかかる

3 例えば、「そうした物語」の指示内容を作るには、「物語」あるいはその類語で終わるように本文表現の語順を変えて、「そうした物語」という形に合わせていく。

4 記述解答に比喩表現は使わない


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