じっくり解説! 令和6年度共通テスト国語漢文(第1回)
漢詩の基本を確認する回
’** 0 はじめに ***
当ブログに目を留めていただき、ありがとうございます。大学受験国語の勉強に資する内容提供を目的として書いています。
過日行われた共通テストにおいて、漢文では漢詩が出題されました。長らく出題されていなかった漢詩、しかしこの数年度々出題が見られます。
今回はさらに、詩に関連する資料としていくつかの文も挙げられています。ただちらっと見る限り、およそ漢詩の内容の典雅さとはかけ離れた内容と言うか裏事情の暴露というか…。この問題の作りに、少々興味を掻き立てられました。
そこで暫くの間、今回出題された漢文を取り上げて解説を試みます。長いこと漢文を扱っていなかったので、お役立ち情報が見いだせればどんどん書いていこうと考えています。
なお、問題と解答は以下からダウンロードできます。
’** 1 漢詩のルールを確認します ***
漢詩のルールについては、どの学校、あるいは塾・予備校でも、必ず教授される類の知識事項です。そして、概ね受験生はそれらをきちんと頭に入れています。今回、問1でその知識が問われていますが、おそらくその出来は8割を超えているでしょう。その意味では、敢えてここでルール確認をする必要もないのですが、一応念のためということで…。
1 1行の文字数が5字のものを「五言詩」、7字のものを「七言詩」という。
* 漢詩では行のことを「句」という。従って、上に書いたものは正確には「一句の文字数が5字のものを五言詩という」となる。
そして、次が一番の勘違いポイントです。先に書いた通り、漢詩の基本事項は大体皆さんご存知ですが、次の点だけは間違えて覚えている方が比較的多いのです。
★ 漢詩の韻は五言詩か七言詩かで決まる。五言詩なら偶数句末、七言詩なら偶数句末+初句末(後述する、絶句か律詩かは関係ない)
漢詩の韻は脚韻、つまり句末の音を同じようなものにします。後で実際に問題で確認しましょう。なお、★は最低限のルールであって、例えば奇数句末も韻を踏んではいけないという意味ではありません。全ての句末で韻を踏めればそれが一番綺麗でしょう。設問を解く際には、一応★以外の句末も確認する必要が本当はあります。
今回の共通テスト問1を解くのにもこの知識は使われます。
基本事項を続けましょう。
2 四句(=4行)の詩を「絶句」、八句の詩を律詩という。律詩では三句と四句、五句と六句をそれぞれ対句にする必要がある。
今回は絶句か律詩かの判断ができれば十分です。漢詩の対句は返り点の付き方が全く同じになるので本来は分かりやすいものです。そして、
3 漢詩の名称は上の1,2を組み合わせて、「五言絶句」「七言律詩」などと付ける。
* もちろん、漢詩には他の形式もある(古体詩とか)があるが、覚えなくていい。聞かれないから。
以上を踏まえて、早速設問の漢詩及び問1を見てみましょう。
’** 2 共通テスト問1を解く ***
問1は漢詩の形式と押韻の説明として正しいものを選べという問題です。
1句当たり7文字×4行ですから、七言絶句。押韻はルール上1,2,4句目の末尾が絶対条件ということになります。
これを満たしている選択肢は⑤と⑥です。問題は、先にも書いたように2句目にも押韻が認められるかという点です。
そこで、各句の末尾の漢字を書き出してみます。
1,2,4句目=堆、開、来
韻を踏む、というのは、今回の場合、同じような音の語を句末に置くことです。漢詩は本来中国のものですから、中国語の発音で判断されるべきなのですが、中国語を使える日本の大学受験生というのはそうそういないでしょう。
そこで私たちは、疑似的に漢字の音読みを用いて韻を踏んでいるかの判断を行います。音読みは漢字を日本に輸入したときに、中国風の読み方を日本風にアレンジしたものです。ちなみに、訓読みは漢字の意味を踏まえて、日本語を漢字に当てはめたものです。
先の漢字の音読みは、堆=タイ(tai)、開=カイ(kai)、来=ライ(rai)
3つとも「-ai」という発音で、「-」の部分に来る文字が異なるだけです(ローマ字で考えると発音は分かりやすい)。母音部分が同じであれば、同じような音である=韻を踏んでいると判断されます。
これに対して、3句目末尾の漢字は「笑」。音読みは「ショウ(shou)」。母音が異なりますね。これでルール通りの韻の踏み方であることが確定し、答えは⑤となります。
先にも書きましたが、ルールで定められた以外の句末も韻を踏んでいる可能性がありますので、そこは確認しましょう。
’** 3 漢詩の内容を確認する ***
以上で今回の記事を終えてもいいのですが、せっかくですので漢詩の読解に挑戦しましょう。
まず、口語訳ですが、東進さんがかなり早い時期に詳しい解答解説をアップロードされています。古典の口語訳も毎年必ず載っていますから、いつも早いなあと感心させられます。
リンクを貼っておきますので、ご参照ください。
https://www.toshin.com/kyotsutest/data/2286/kokugo_koten.pdf
さて、お読みになった感想はいかがでしょう。
「こんな訳、出来るか~!」でしょうか。はたまた、
「これくらいなら、出来るかも」でしょうか。
私の意見は後者です。たった4行の詩。口語訳にトライしてみましょう。
1句:「回望すれば」という動詞は、一字ずつ分けて考えれば意味をつかむのは難しくありません。「回」は訓読みで「まわる」。くるっと向きを変える、振り返るということ。「望」は訓読みで「のぞむ」。希望という熟語のイメージが強い字ですが、「太平洋を望む」という使い方があるように、遠くを見るという意味があります。そして「すれば」は、古文でおなじみ「已然形+ば」の形、順接確定条件「~すると」と訳します。
後は注を活用すれば、訳はこんな感じに。まずはご自分でも訳してみましょうね。
「唐の都である長安から振り返って、遠く驪山(りざん)にある離宮を見ると、綾絹を重ねたような山の美しさが目に入る」
2句:特に難しい部分はないと思います。漢文の組み立ては英語によく似ています。つまり、S-Vの順に並びます。この句では「千門」が主語、「開」が述語動詞です。
「山頂にある千個の門が次々と開く」
3句:「一騎」が砂煙を立ててどうしたか? ここまでの内容から考えて、門を開けた離宮に着いたのでしょう。
「人馬が一騎、砂煙を立てて離宮に到着した。それを見て楊貴妃は笑った」
4句:冒頭の「無」は必ず句の最後に読みます。「〜が(は)ない」。この「~」(主語)は2字目以降のカタマリです。2字目以降最後に読むのが「知」ですので、「〜を知る者はいない」となります。「人の」の「の」は、同格の用法でとると訳しやすいように思えます。
「騎馬の到着を見ていた人で、ライチが来たことを知る者はいない」
いかがですか? 思ったよりも訳しやすかったのではないでしょうか。
’** 4 今回のまとめ ***
1 漢詩の韻は五言詩か七言詩かで決まる。五言詩なら偶数句末、七言詩なら偶数句末+初句末。ただし、これは最低限のルールであって、例えば奇数句末も韻を踏んではいけないという意味ではない。設問を解く際には、他の句末も確認する。
2 「韻を踏む」というのは、漢詩の場合は脚韻、つまり同じような音の語を句末に置くこと。その判断は漢字の音読みを用いて行う。ローマ字で考えると発音は分かりやすい。母音部分が同じであれば、同じような音である=韻を踏んでいると判断する。
3 漢字の訓読みはその字の意味を表す。訓読みを多く知っておくことは漢文の点数を最終的に底上げする力になる。
今回はここまでで筆を置きます。次回は資料の読解から他の設問に解答していきます。