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ODAはバラマキか!?

今回はわたし自身の仕事にも少なからず関係のある、ODA(政府開発援助)について少し考えてみたいと思います。

ODAとは

ODAとは、Official Development Assistanceの略称であり、日本語では「政府開発援助」を指します。多くの人がODAを戦後賠償と結びつけて考えることが多いですが、その歴史を振り返ると、実際に戦後すぐの1954年に始まったもので、海外からの研修員の受け入れなどを通じてスタートしました。このようにして、ODAは70年もの歴史を紡いできたのです。70年にわたる歴史の中で、ODAは様々な変遷を経てきました。そして、2023年6月にはODAの基盤的な考え方を示す「開発協力大綱」が改定されました。この大綱では、日本のODAの方向性を明確にし、これからの重点政策として以下の3つを掲げています。
1. 新しい時代の質の高い成長とそれを通じた貧困撲滅
2. 平和・安全・安定な社会の実現と法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化
3. 複雑化・深刻化する地球規模課題への国際的取り組みの主導
要するに、「世界が今後もより良くなるために日本は頑張る!」という決意表明であり、そのためのツールとしてODAを活用したいということです。

ODAに対する世論

そんなODAですが、最近の日本経済の停滞などを背景に、世論から「バラマキではないか」「まずは日本国民に寄与するような使い方にすべきではないか」といった考えが強まりつつあります。この動きの一例として、インフルエンサーのひろゆき氏が最近、アベプラの動画でODAを非難しました。ひろゆき氏は、日本国内での経済的困難が続く中、海外に資金を投じるODAの正当性に疑問を呈しました。この動画に寄せられた視聴者のコメントも、ひろゆき氏の意見を支持する声が多数を占めています。日本国内の経済状況や国民の生活に直接寄与する政策が求められる中で、ODAのあり方が問われている現状です。

ODAは果たして本当にバラマキなのか?

昨今、ODAに対する風当たりが強くなっていますが、果たしてこれは本当にバラマキなのでしょうか。日本のODAは主に独立行政法人国際協力機構(JICA)を通して行われており、JICAの主なスキームは有償資金協力、無償資金協力、技術協力の3つに分かれています。有償資金協力は、開発途上国に対して低利で資金を貸し付ける形式の援助です。この予算規模は約1.8兆円となっており、大部分の資金は将来的に返済されます。さらに、利子付きで返済されることとなります。無償資金協力は返済義務のない援助で、これは世論でイメージされるバラマキ近いものですが、その予算規模は約1,500億円となっております(とはいえ大きな金額であることは否めませんが)。

またJICAが貸し付けた資金はインフラ案件等の事業という形に代わることになりますが、これらの多くの事業を日本企業が受注しています。これにより、日本企業にとって通常ではリスクが高い途上国進出の足掛かりとなり、日本企業にとってもプラスの影響を与えています。また、外務省が掲げる国際協力大綱においても、ODAは相手国や世界のためだけではなく、国益にもつながることが大前提とされており、JICAが事業を行う際には日本政府との協議を重ね、どのように国益に資するかについて深い議論が行われることになっております。(もちろん、より大きな理念として国際社会の発展、道徳的な意味合い、日本の国際舞台での地位維持などの意味合いもありますね)

ODA直近の動向
直近数年の実績とODA拠出金額の推移を表したグラフは以下のとおりです。2023年においては約3兆円という規模感になっています。3兆円という金額は非常に大きく、そのイメージが湧きにくいかもしれませんが、大体同規模の予算でいうと日本の少子化対策予算に匹敵する金額が充てられているのが実態です。ODAは国際社会における日本の責任と貢献を示す重要な手段ですが、国内の福祉や経済対策とのバランスをどう取るかが、今後ますます重要な課題となっていくでしょう。

今後の日本の開発支援の在り方
とはいえ、日本のこれまでのODAがこのままで良いのかというとまた話が異なっており、今後、以下の点について個人的にはより力を入れる必要があるように思います。

1. 広報の必要性

日本の国際協力が過去70年にわたってすべて成功してきたかというと、決してそういうことではありません。例えば、日本の資金協力で実施された港事業が最終的に供与国で利用されなくなってしまった案件や、大幅な遅延をきたしてしまった案件などは多数あります。そういった事例が存在する中でも、世界の国際協力を俯瞰すると、日本の協力が途上国の開発協力は信頼を強める役割を果たしてきたことはいえるのではと思います。例えば1960年代からアジア各地で起きた急な経済成長ですが、当時はアジアはアフリカよりも更に遅れているといわれいたものです。もちろん、日本の国際協力によるものだけとはいえませんが、ODAはその一助は担ったとアジア出張をして先方政府からはよく聞かされるものです。その一方、そういったODAの目的と成果に関する正確な情報が国内に広く伝わっているかというと大いに疑問です。例えば国際協力というとUNICEFやUNESCOの募金箱などで思い浮かぶように、より国民に根付いた広報が必要なように思います。

2. 新規分野への支援

次JICAは従来、電力、水、道路、港湾など基礎的な社会インフラを対象に途上国支援を進めてきました。未だにこれら分野による支援は必要なものの、昨今、中国系の開発機構や新興国の開発機構の進出もあり、これら従来型のインフラ支援においてはこういった機構に譲り日本はより高度な技術を用いた技術、耐震インフラ、GXといった分野に注力しても良いかもしれません。しかし、これらの分野のニーズについては途上国自身も把握していないものが多く、日本政府やJICA、企業自身が彼らに赴きオファー型の提案を行い途上国政府と共創することが求められてくると思われます(この点については日本政府も最近頻繁に口にするようになっておりますが現状はまだ先方政府から挙がってきた候補案件の中で選別するという進め方が主なように見受けられます)。

3. 民間企業との連携

最後に、資金供給の国際的潮流としては、開発に関する資金ギャップが広がる中で民間企業との連携が求められてきております。例えば、サステイナブルファイナンスという文脈の中では、2025年の予測値として52兆ドルという規模が推計されておりますが、世界各国のODAだけでは到底カバーすることが出来ない金額となっております。民間企業の多くは途上国へのビジネス拡大をもくろむも途上国のカントリーリスクを受けて中々進出できないという中、ODAと民間企業が協力してリスクを棲み分けるブレンテッドファイナンスが今後必要になるように思われます。

まとめ
日本のODAは、単なる「バラマキ」ではなく、戦略的に国際社会へ貢献しつつ、日本の国益にもつながる重要なツールです。今後は、広報活動の強化、新規分野への支援拡大、そして民間企業との連携を一層進めることで、より効果的かつ持続可能な開発支援を実現していくことが求められます。

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