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おれの地獄ということ

地獄はここにある。ていうセリフがある。
おれが結構好きな『虐殺器官』(著:伊藤計劃)ていうSF小説のセリフ。
「地獄はここにあります。頭のなか、脳みそのなかに。大脳皮質の襞のパターンに。目の前の風景は地獄なんかじゃない。目を閉じればそれだけで消えるし、ぼくらは普通の生活に戻る。だけど、地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭のなかにあるんですから」
おれの私見はちょっとだけ違う。目の前の風景も地獄だ。というか地獄になる。だってそうでしょう。見たが最後、頭のなかに刻み込まれる。目を閉じても消えない。それが画面の向こうにあるものではなくなっているから。
イスラエル軍が撤退した後の地面を掘り起こしたらわらわらと出てくる乾燥した土まみれの遺体を見る時、その瞬間にそれはおれのなかに入る。頭を吹き飛ばされ焼けて黒ずんだ皮膚に暗い赤の傷口が少し光を反射する赤ん坊の死体の写真を見た瞬間にそれはおれの頭のなかで地獄の一部になる。生後7か月で骨が浮くほど痩せこけた赤ん坊の死体を抱く医者も、連日のように流れてくる白い袋も、おれの中に入る。それは確かに画面の向こうのものだ。おれはその熱を感じないしおれはその重さと感触を知らないしおれはその臭いを感じないしおれはあったかくて湿度のある清潔な(ちと散らかってる)部屋のベッドの上にいるし飯も食おうと思えば食えるし腹下すまで飲もうと思えばいくらでも水もジュースも茶も飲み放題だからな。でもフィクションじゃない。画面の向こうの死体は同時に画面のこちら側にある。焦げた子どもは現実だし爆撃は現実だ。現実のおれがその一部になってる国際経済のとある部分から出た金で作った爆弾でイスラエルはパレスチナを爆撃してる。
ロシアがウクライナに侵攻しはじめた時、日本語ネットではちょくちょく傷ついてしまうから無理して見るなという話が流れた。正しいと思う。災害時も結構よく見る意見だ。でも今パレスチナに連帯している人たちからあまりこういう話は出てこない。むしろもっと見ろと言う。関心を持ち続けろと。(ウクライナの時はおれたち「西側」が一斉に報道しロシアを非難しウクライナを支援し始めたのに対し、パレスチナの場合はアメリカを筆頭におれたち「西側」が沈黙を貫こうとした点がこの差の一つの原因と思う。一般が声を挙げなくちゃならない。)彼らもおれも無理しろとは言わんと思うが、おれはこれを正しくないとは思わん。虐殺はそれを無視する大多数が構造の外周だからだ。構造の内部にありその一部である。情報と物と金が高速で地球を行き来する時代においては少なくとも我々は地球の反対で起きていることに対しても構造の外に在ることはできない。ここで残念ながら無視とは肯定である。
おれの税金使って導入する無人攻撃機の候補の大半がイスラエル製である。おれの払った金がまわりまわってアメリカがイスラエルに武器を供与する原資に0.1円でもなってるかも知れない。おれの税金使ってやる万博にイスラエルが招待されている。その政治を、構造を支持してきた、支持しているのは国民である。おれの周囲の人間たちであり、おれの好きな(あるいは嫌いな)人たちであり、おれが食う飯を作っている人たちであり、おれが寝てるベッドを作った人たちであり、おれが属している集団であり、そしておれ自身だ。もう一度書くが無視とは肯定である。
毎日流れてくる死体よりも、イスラエルが殺した4万数千人という数字よりも、おれはこの自己認識によって嫌悪を抱いている。そしておれはそれを不純だと思っている。
地獄はここにある。でもできることをやるしかない。
「すべてがもうおそい。しかしながら、すべてはこれからです。」
(竹久夢二)

The Japanese government must  recognize a Palestinian state.🍉
Economic sanctions and Boycott against Israel.
Right Now or ASAP.
(今回のサムネイルは好物なのでチャーハンをお借りしました。
ありがとうございます。)
おわり。


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