ディスられても笑顔で応える、それ大人の対応。
暑い夏の日、私は路面電車に乗車していた。
夏休みということもあり
1両編成の路面電車は8割くらいの乗車率だったと思う。女子高生や子供連れの家族など、様々な世代の乗客だった。
運転士さんはふくよかな年配の男性でとても感じの良い声で放送をしていた。
私の目の前の席に20代くらいの女性と5歳くらいだろうか、男の子と2人で座っていた。その男の子はとても明るく笑顔が可愛らしい子でおしゃべりが上手だった。どうやらこれからプールに行くらしい。お母さんとの会話が弾んでいた。
私は仕事の疲れでうとうとしていたが、停留所が近づき降車の列に並ぶ。たまたまあの親子が同じ停留所で降りようとしていた。
路面電車の支払い方法は、降りる際の支払いで運賃箱に現金を投入する。
運転士さんが降車するお客さんひとりひとりににこやかな笑顔で「ご乗車ありがとうございました」と声をかけていて、素晴らしいなと感心していたそのとき、目の前の男の子が降りる番になり、現金を投入し、運転士さんに一言。
「ありがとうございますぅ、ぶたさん☺️」
1両編成の列車すべてに響く元気の可愛らしい声で、車内は凍りついた。もちろん運転士さんは豚には見えないが、体重は100キロはありそうだった。
数秒凍りついた車内、次の瞬間、運転士さんが一言。
「豚さんだよー!ありがとう☺️
また乗ってね、ぶひ〜!」
決してひきつった声じゃなく、マイクを通してはっきりとそう言ったあと、車内は大きな笑いに包まれた。
しきりに申し訳なさそうだったお母さんも運転士さんに深いお辞儀をして降りていた。
自分がもしそんな状況だったら、そんな機転の聞いたこと言えんだろうな…と思いながら人生の先輩すごい、どんな状況も笑いに変える努力が大事だなと思いながら帰宅した。
その日の食卓ではもちろんその話題をひとしきり話し、両親とまた大笑いした。良い日だった。
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