ブラジャーを買って欲しいと言えない子ども

私はブラジャーを買ってと母親に言えない子供だった。

初めて生理になった時も母には話せず、家にある生理用品をこっそり使っていた。パンツだってゴムが伸びていたり穴が空いていても新しい物を買って欲しいと言えなかった。
ノートや鉛筆、漫画雑誌は欲しいと言えたし買って貰えていたのに、自分の体の変化に関わる事は言い出せなかった。

中学生の頃、友人たちが可愛いチェックや花柄のブラジャーを身につけていて、それが羨ましかった。
胸が膨らんできているのにいつまでも薄い布地のスポーツブラの自分が恥ずかしかった。
お金を貯めてこっそりブラジャーを買った。
お風呂から上がった後つけてみる。
だけど母に知られるのが嫌だったので自分の部屋の中だけでしかつけなかった。

どうして母は私の気持ちに気がついてくれないんだろう、どう見ても胸は膨らんでいるし、下着だってボロボロなのに、どうして新しい物を買ってくれないんだろう。

そんなある日、商業施設の下着売り場でブラジャーを眺めていたら、中年の女性客が従業員の女性に声をかけた。
「私の中学生の娘がアトピーで、胸に当たる部分に縫い目が少なく綿素材のブラジャーありますか?」
「肌があたると痒くて掻いてしまうんです」

私もその女性客の娘と同じくアトピー体質だった。
私は胸の周りを掻きむしって血と滲出液でスポーツブラを汚した。
「小さくて締めつけられるから痒い」
と言ってみた。
そんな事をしても何も変わらず、その夏は制服の下に濃い色のTシャツを着て猫背で過ごした。

念願のブラジャーはその年の秋の修学旅行の時、やっと買って貰えた。

その頃には掻きむしった胸のアトピーが慢性化して、その先何年も痒みで苦しむこととなる。今は時々痒くなるくらいで症状は落ち着いているけれど、長い間掻き続けた胸の皮膚は黒ずみ、その後回復する事は無かった。

今思えば、母に新しい下着を買って欲しい、ブラジャーを買って欲しいと言えば済んだ事だけど、子供の私はそれが言えなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?