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HoYoverseの熱意あふれる多彩な演出と創り込みで魅せた、2024スターレイルLIVE

日本からはオンラインでリアルタイム視聴できた「2024スターレイルLIVE」。どんなイベントか一言でまとめると、「ゲームでの1年間の冒険を追体験できる極めて完成度の高い公演」である。アニメ・ゲーム作品の名を冠したイベントのお手本・完成系の1つと言っても過言ではない。本記事では、今回のライブがゲーム世界の追体験を可能にするために用いた演出をまとめることで、本イベントの素晴らしさを説明してみたい。

このイベントが開催された後の時期に「崩壊:スターレイル(以降、スターレイルと呼称)」をプレイし始めた人、元々プレイしていたがこのイベントを見逃した人、スターレイルはプレイしてないがこのイベントが気になった人など、いろんな人が楽しめる公演だと思う。イベントに限らずゲームなり映画なり、質の高い作品は見るたびに新しい発見があるので、すでにライブを観た人にも繰り返し観てもらえればと思う。

特に観て欲しい対象は、アニメやゲームの音楽イベントを創る側の人たちである。本イベントにはアニメやゲームの音楽イベントのお手本・教科書的な手法が詰まっていると思う。質の高いイベントはその場限りの刹那的な快楽を与えるのではなく、お手軽に消費されない・長く思い出に残る感動体験を提供してくれるはずだ。このイベントについて考察すれば、受け手にとって何が感動をもたらしてくれたのか検討する良い機会となるだろう。アーカイブは公式YouTubeにあるので、日本語字幕付きで見てもらうのがおすすめである。

本イベントのセットリストは、ゲーム本編のサウンドトラックの楽曲が大まかにゲームの時系列通りに合奏団によって演奏された。開拓者(主人公)が目覚めてから最新シナリオのピノコニー中盤まで、1年間歩んできた道のりを再体験できる構造となっている。楽曲の構成ブロックは、宇宙ステーション→ヤリーロⅥ→仙舟「羅浮」→ピノコニーと概ね原作のストーリー通りに進行した。

ゲームをプレイしてきた人にとっては必ずどこかで聴いたことのある馴染み深い楽曲ばかりであり、ライブに参加すればゲームをプレイした経験を思い出す・追体験できたと思う。「序盤でこのボスと戦ったな」「そのときにこのBGMが流れてきたな」など、ゲーム体験と結びつけながら曲を楽しむことができたはずだ。

キャラクターを登場させて実在感を与える

開幕直後にカフカが登場して会場のボルテージは最高になった。カフカは開拓者を目覚めさせた張本人であり、スターレイルの顔ともいえる存在だ。カフカが自身のテーマ曲「ドラマティック・アイロニー」をバイオリンで弾き始めて筆者も衝撃を受けた。音を奏でているのはバックで演奏している楽団の皆さんなのだが、「このイベントはキャラクター本人が出演する」とわかったからである。この公演のために撮り下ろされたカフカのメッセージと共にライブが始まった。

カフカ登場の次は三月なのかが登場した。なのかのパートは観客のサイリウムの色を変化させる出し物付きで、視覚的にも楽しかった。カフカのパートと比べると、観客とのかけあい・やりとりが多く双方向性が高めだった。冒頭から主要キャラクターを続けて登場させたことで、このライブが単なる生身の人間によるコンサートではないという指針が明確になったと思う。

声優やダンサーではなくキャラクター本人が登場することは、観客をゲーム世界に没入させる作用がある。開幕から「このイベントは『崩壊:スターレイル』のイベントなんだ」と強く体感できた観客は、まるでゲーム世界に迷い込んだかのように没入感がぐっと上がったはずだ。

日本でもキャラクター本人がライブするタイプの公演も徐々に増えつつあるが、日本では声優さんが歌って踊るイベントに比べるとこのようなイベントはまだ主流ではないと思う。今後は日本でもこのような演出を使った公演がさらに増えて欲しいと願うばかりだ。

また、公演前に公開された宣伝アニメーションPVは、公演当日までのモチベーションupに効果的だったと思う。イベントのキービジュアルの6人のキャラクターを中心に舞台裏・前日譚ともいえるアニメーションで、どのようなイベントになるのかワクワクさせ想像を膨らませてくれた。このCMからも、本ライブがキャラクターと強く結びついた公演だとがわかる。

ゲーム映像を使用し没入感をさらに高める

キャラクター本人を登場させることによる実在感が本公演の売りだと思うが、これ以外にも観客の没入感を高める仕掛けがたくさんあった。たとえば演奏中にゲーム内映像を流すことである。「星間漫遊」など本ライブのために作られたCG映像を使った演出もいくつかあったが、ゲーム内映像を使う演出は没入感を高める上で基本的かつ強力な仕掛けだと思う。

バックスクリーンを一切使わず音だけで表現するライブもあるが、アニメ・ゲームなど作品のイベントであれば、作品が提供する映像コンテンツを用いた演出を取り入れるべきだと思う。人間の知覚割合のうち8割が視覚情報によるものなのだから、使わない手はない。

これは「水龍吟」の演奏場面である。ゲーム本編では、丹恒・飲月が海を割って鱗淵境にある持明族の龍宮を出現させる場面で流れるBGMだ。原作のシーンをそのまま現実世界に持ってきたような演出である。ゲーム本編の映像と比較してみるのも面白い。会場では噴水が使われて水柱を作る物理的な仕掛けもあった。

他にもゼーレの「穏やかな夜」など一瞬キャラクターが映るものもあれば、「炉火」のようにダンジョンを徘徊するゲーム内映像を流す使い方もあった。本ライブはゲーム内映像を大量に使っていたので、観客が受ける臨場感が常に高いまま演奏を楽しめただろう。ライブ後に友人と「あの曲で流れてたのはゲームのあのシーンだよね」と議論できるし、考察する要素が豊富にある。

キャラクターPVで使われている楽曲は公式YouTubeチャンネルやサブスクリプションですぐ聴けるので、公演後に気軽に曲を楽しめるのもありがたい。気になった楽曲が使われたPVを見ればキャラクターの理解も一層深まるだろう。スターレイルに限らず、こういったフットワークの軽さは現代のエンタメでは重要かもしれない。

ライブ終盤でのピノコニーブロックの「傷つく誰かの心を守ることができたなら」では、ピノコニー2.0でのドリームボーダーでのホタルとの感動シーンを再現した演出だった。観客は自身のゲーム体験を思い出して、ホタルとデートした開拓者に共感しながらこのバラードを聴くことができただろう。

ダンサーや歌手を用いたパフォーマンス

ゲーム内映像以外にも、生身の人間を用いての演出も豊富で観客を飽きさせないライブだった。ゲーム序盤最大の山場、カカリア戦で流れる人気曲「野火」は生歌をじっくりと聴かせるよう、バックスクリーンなどの演出は控えめだった印象だ。「野火」直前に演奏された「常冬」では、カカリア戦の「造物エンジン」の映像も用いながら、ヤリーロⅥ編のラスボス戦に向けてじわじわと会場を温めていった。

そこからの満を持して「野火」のイントロが流れたとき、ワッと湧く会場の歓声の凄まじさが録画からも確認できる。「野火」のラスサビまでは会場のサイリウムカラーは青で固定されていて、極寒の惑星ヤリーロⅥの冷たさを表現しているようだった。そこから氷を溶かす炎ように会場のサイリウムカラーが真っ赤に燃え上がるのは圧巻だった。

ここでサイリウムについても言及しておく。日本のアニメ・ゲームの声優ライブでは観客が自由な色のサイリウムを持ち込める現場が多いと思うが、楽曲の雰囲気にそぐわないウルトラオレンジが景観を台無しにする光景を見る機会が少なくない。今回のライブを見ていると、公演映像をBlu-rayなど作品として後に残すのであれば、サイリウムの色は開催者側で管理する方が景観が良いと思った。

他にも「フリースタイル」から3曲はパフォーマーがDJとして現れる演出で会場を盛り上げた。「面白いじゃん」でのCOMBO数が増える演出は銀狼の必殺技をイメージさせ、「エキスパート教育」ではトパーズのカブがスクリーンに映された。DJパートに後続した宇宙ステーションの楽曲群でも反物質レギオンの映像が使われた。このように生身の人間が中心の演出でも、ゲーム内コンテンツを見せ続けているのがわかる。

仙舟「羅浮」の楽曲群では中国舞踊的なダンサーの演舞が披露された。鏡流の「切先は戻らぬ」や刃の「死兆、来たれり」では実物の刀を用いた殺陣が披露され、「片時の眠り」では白と黄色それぞれの中国獅子舞(?)が登場した。羅浮は中国ベースの世界観をもった惑星なので、太鼓での演奏や皿回しなどの曲芸も雰囲気にマッチしていた。

「伏せられたエース」ではパフォーマーによるパントマイムが披露された。羅浮とピノコニーの2ブロックは特にダンサーのパフォーマンスが多かったように思う。こういった人間の肉体を用いてのパフォーマンスはゲームの画面越しには見られないリアルライブならではの出し物だろう。

小道具まで作り込む徹底ぶりから感じた情熱

これまで多様な映像表現や舞台装置について紹介してきたが、本イベントの凄まじいところは細部の小道具まで作り込んでいる徹底ぶりである。ゲーム内でも作られていたピノコニーのマスコットキャラクター「クロックボーイ」の某アニメスタジオ風のアニメーションはこのライブでも特注のものが用意されていた。

クロックボーイの幕間から続いた「もう二度とない」では、精巧な装甲で「星核ハンター」サムが登場して会場は大盛り上がりだった。ゲーム内映像を映すだけでも盛り上がっただろうが、実物の装甲が登場した今回の演出の方がより臨場感があったように思う。まさにゲーム内でのピノコニーver2.0の最後にラスボスとして対峙した時の緊迫感が伝わってきた。二次元キャラクターを実物として出すのは難しいだろうが、機械や兵器類は現代の技術で精巧に再現できるのであれば3次元で出した方がより実在感を味わえるのかもしれない。

星穹列車の車掌であり、作品のマスコットキャラクターであるパムの着ぐるみや、開拓者(主人公)が大好きなゴミ箱たちも着ぐるみで登場している。原作ゲームではゴミ箱1つにも細かなテキストが実装されており、その作り込みの細かさも今回のライブで体現されたように感じる。

特にすごいなと感じたのが、ピノコニーでの象徴的アイテムの1つ、スラーダまで小道具として再現していたこと。クロックボーイのアニメ、ゴミ箱、サムの装甲など、わざわざ小道具まで作り込むこだわりようにHoYoverseのモノづくりに対する情熱を感じた。

以上のように、本公演にはゲーム世界を現実世界に持ってきたような実在感溢れる演出や工夫がたくさんあった。ゲーム世界を現実の生身で追体験する経験には、他では得られない感動があるだろう。細部までこだわって作られたライブを開催したからといって、必ず収益が増えるとは限らない。しかし、観客の誰かには絶対に届くと信じてより良いイベントを創るのが重要なのではないかと思う。

ゲーム世界を追体験できるようなイベントとはすなわちゲームと密接に関係しているのだから、イベント後にゲームへのモチベーションを高めるきっかけになるはずである。本イベントのように、質の高いイベントを開催する→ゲームへの購買意欲を高める→収益を上げてより良い作品を作る、という好循環が生まれることを期待したい。

X(旧Twitter)で調べたところ、わずかだが日本人でも現地上海で参加してる人もいたのでとても羨ましかった。筆者もいつか現地で参加したいなと思った次第である。ライブに参加したその足でmihoyo本社の見学もしたい。崩壊3rdや原神を見ているとコンサートイベントは毎年恒例になりそうな気がするので、来年のスターレイルのライブイベントも非常に楽しみである。


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