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食事の序列

あなたはその肉の塊を切り分けて
と彼女はこともなげに言う

此処は四隅の無い世界
テーブルには美しい模様の布が色とりどり

肥沃な大地だけれど特筆すべきものが何もない場所で
片足だけその土地の履物を

もう片足は獣に食わせ
言葉少なく思想を紡ぎ

片目を閉じれば旧暦の祭りの最中
髪を結えて楚々と歩く彼女は隣

行き交う人々は総て見知った想い出
手に下げている塊をくるくると回している

少し休みたいと東屋を指差し、
私はその行く末を1人で歩む夢を棄てる

辿り着けば目の前には先程の肉の塊
血抜きはまだ完遂されてはなく
立ち昇る湯気はその生き物の吐息すら含む

無限に広がる彼女の言葉
けれど何も何者にも変え難い信託

気付けばかじかんだ指先を
そっと胸元へ差し入れれば

私の胸から柔らかく立ち昇る湯気が
彼女の冷たい指先を包み込む

言いようのない虚しさとか
耐え難い欺瞞とか纏めて仕舞えるのね。

と呟きながら彼女は丸ごと私を飲み込んだ
最期には何が見えたの?と呟きながら。

彼女は重力はもちろん、何もかも飲み込むすべてを
その果てのない欲望を表わす言葉はない

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