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良寛さま

 むかし、越後(現在の新潟県のあたり)というところに、良寛さまいうお坊さんがいました。
 良寛さまは子供の頃から、人がびっくりするほど素直な人でした。

 たとえばある時、良寛さまはお父さんをにらみつけたことがありました。すると、
「そんな目をするとカレイになってしまうぞ」
 とお父さんにしかられてしまいました。
 その日、夕方になっても良寛さまは家に帰ってきません。みんなで探し回ると、海岸の岩の上に座っているのが見つかりました。
「そんなところで何をしているのだ」
 と聞かれると、良寛さまは、
「わたしはまだカレイにならないので、海にとびこめないでいるのです」
 と答えました。

 また、良寛さまは勉強が大好きでした。しかし、いくらかしこくなっても、出世をしたり、お金もうけをしようとは考えませんでした。
 18歳になった良寛さまは、家をつがずに、お坊さんになりました。家の仕事を引き受けたら、自分に正直に生きていくことができないと思ったからです。

 良寛さまは、大人になっても、子供と遊ぶのが大好きでした。
 ある時、子供たちとかくれんぼをしていて、良寛さまがかくれる番になりました。しかし、うまくかくれたので、だれも良寛さまを見つけることができません。
 そのうちに日が暮れてきて、子供たちはみんな、帰りはじめました。良寛さまは、それでもじっとかくれています。
 次の日、良寛さまが田んぼの中でじっとしゃがんでいるのをお百姓さんが見つけました。
「いったい何をしているのですか」
 とたずねられた良寛さまは、
「いけません。そんな大声を出したら子供たちに見つかってしまいますよ」
 と答えました。

 またある晩、良寛さまが住んでいる庵(草木などで作った。お坊さんがすむ家)に泥棒が入りました。ところが、盗むものが何もないので、泥棒は良寛さまがねている布団を盗もうとしました。
 良寛さまは泥棒に気づいていましたが、知らんぷりをして、ねころがって布団をぬすみやすいようにしてやりました。
 泥棒がさってしまうと、良寛さまは窓から月をながめて、
「泥棒も窓の月だけは盗んでいくことができなかったなあ」
 といいました。

 またある時、庵の床下から、タケノコが生えてきてしまいました。でも良寛さまはそれを切りませんでした。
 タケノコはグングン育って、ついに床をつきやぶってしまいました。良寛さまは、竹が天井にぶつかってはかわいそうだと考え、ろうそくの火で天井に穴を開けることにしました。
 ところが、火がどんどん燃え広がって、とうとう庵全部が燃えてしまったそうです。

 このように良寛さまはたいそう大きな心を持った人だったそうです。

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