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特技を破られた夜

数少ない私の特技のひとつに、足音を立てずに歩けるというものがある。

これは探偵という仕事をしてきて自然と身についたものだ。

そんなもんなんの役に立つんだ?wと言われるかもしれないが、

今年はやけに被害が出ている、熊に遭遇した時のことを考えてみたまえ。
そんな山間部に行かねぇよ草、という真っ当なことをいうならば、

ズーラシアからスマトラトラが逃げたしたと想定したまえ。
あなたと私がたまたま同じ道を歩いていたとしよう。

私は道の右側、あなたは左側。
時刻は、そうだな…黄昏時にしようか。誰ぞ彼どきという響きが好きだから。

前方に止まっている軽トラックの陰にスマトラトラが潜んでいる。
公平を期すためにスマトラトラは両目を負傷していて、物音だけで獲物を待ち構えている。

あっ、その負傷は致命的じゃなくて、一時的に便宜的にちょっとばかり負傷してもらっただけだから心配しなくていいぞ。

私とあなたはもちろんスマトラトラの存在には気づいてない。野生動物より先に相手の気配を感じとれるならYouTuberにでもなってるし。

ペタペタ、ズリズリ、ドシドシ…擬音はまかせるが足音を立てて歩くあなた。
意識しなくても無音で歩くクールな私。

さて、ここで問題です。
物音をたよりに獲物を待ち構えているスマトラトラに襲われるのは私か?あなたか?さぁどっちだ!!

どうです?私の特技は役に立つとわかっていただけたかな?

前置きが長くなった。

ある日、深夜近くに駅から家に向かっていると、すぐ目の前を一人の中高年の男性が歩いていた。

どうやら私と同じマンションに帰ろうとしているようだ。(面識はない) 

男性が敷地に入り、ほどなくして私も敷地に入る。
と、男性が私の方を振り返り

「足音を立てずに歩くんですね」

と、柔和な物言いと似合わない鋭い目。

「げっ、なんで気づいたんだ?このオヤジ」

もちろん尾行していたわけじゃないけど、私の存在に気づいていたオヤジに負けた気がしたのは覚えてる。

「癖でして…」

とだけ言った記憶がある。なんせ自信があった尾行術?がバレた気がして動揺してたのだ。

後日、なにかの折にそのオヤジと会いそれとなく仕事を聞いてみた。

「警視庁です」

桜田門です、だったかもしれないがいずれにしてもプロだった(笑)
立ち居振舞いもスッとしてるし、眼光も鋭いし、でも居丈高ではないし、なんせかっこいいオヤジだった。

きっと名のある刑事(デカ)に違いない、さもあらん。と独り納得したのであった。


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