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『デイヴィッド・ホックニー展 = David Hockney』デイヴィッド・ホックニー [ほか] 執筆 ; 押金純士, 廣瀬歩編 ; 河野晴子, ベンジャー桂翻訳 読売新聞東京本社 : 東京都現代美術館 2023年

あー実見したかった展覧会。

大好きな作家の展覧会カタログ。年齢に来る衰えはあるけれど、年代が進むにつれ変化を好む作家だと思う。

「1960年、デート・ギャラリーで開催されたパブロ・ピカソの個展を見たホックニーには、画風を自在に変化させる創造性に強い衝撃を受けたという。」(p9)

「「新しい表現手段が好きなのは、同じ題材であっても違う絵が描けるからだ」と語るホックニーは、2010年にiPadを手に入れた。それからまもなく彼が始めたのは、毎朝寝室の窓に差し込む陽光や窓辺に置かれたガラスの器をiPadで描くことであった。」(p15)

p24-「ウェザー・シリーズ」が好き!ポラロイドや窓枠を彷彿させる四方の余白にシンプルかつ落ち着きのある画風が描かれている。

p31-「ダブル・ポートレート」シリーズはその通り。画面に2人の人物が描かれている。ホックニーの特徴として2人のうち、1人は生きている生々しい躍動感、もう1人はどこか泊まったような時間軸で描かれていることが特徴である。それが意図的なのかはわからないが、2人が同じ空間にいる感じがしない。

「1980年代、ホックニーには大きな転機を迎える。西洋美術における伝統的な一点透視図法は現実の世界を表現するのに十分でないと確信し、「見る」という経験から得られた空間の広がりを平面上に再現するために、さまざまな実験を試みたのである。」(p55)

「1964年頃から絵画制作の補助手段として写真を用いてきたホックニーは、1982年初頭からおよそ3年間で数多くのフォト・コラージュを出かけた。」(p64)

ホックニーといえば写真作品てイメージする人はまだ少ない。日本で紹介されるホックニーはやっぱり絵画だからだ。

西洋美術だけではなくて、中国美術にも興味を示し、過去の美術史を入念にひもときながら、今を生きる自分自身に何ができるのか、どう表現するのかというのを常に考えているのがこの作家。

本書には、対談も2本収録されている。

「また、1983年にニューヨークのメトロポリタン美術館を訪れた際に熱心に鑑賞した古の中国の画巻は、単一の視点による伝統的なヨーロッパの幾何学遠近法からホックニーを解放するものであり、これにも大いに感銘をうけている。」(p188)

ホックニーがiPadで描いた作品を発表した時、世間はすごく驚いた。これまでのホックニーの世界観と違いを感じる人が多く見られた。iPadで描いた作品を平面的だとか、彼の良さがなくなっているとか。私の年代がコロナを経験するものとは違い、ホックニーの年代でコロナを経験すると残りの人生だったり、これからの人生をネガティブに捉えがちだが、ホックニーには実に落ち着いていて、今できること。そして静かにコツコツと積み上げてきたんだなぁと本書の論文を見て感じた。それを自分の中で収めておくのではなくて、周りで支えている人のサポートをもとに、いろんな人に発信していく姿が、コロナ前と変わらない作家らしさが出ていてそれが嬉しかった。色々と拠点を変える。ホックニーはその土地で周りの自然に刺激を受けながら作品作りをしている。私たちの日々の生活と同じように五感を通じて表現したり、吸収したり目の前のことを楽しんでいる気がする。今までいろんな著作を所有してきたけど、1番楽しそうな本だった。ポジティブというか色ではない明るさがあった。

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