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・妥協できない2人


知り合って間もない頃、光男は彼女にプロポーズをした。
あれから3年、未だにその返事がない。


光男は55歳、独身、交際歴ゼロ。
彼女も同じく55歳、バツイチ。




「返事は直ぐじゃなくて良いって言ったし、君の立場もあるからずっと待っていたんだけどさ…プロポーズのこと忘れていないよね?今、どのくらいの考えでいるのか教えて欲しいんだ」

「正直言うと無いのよね」

躊躇いなく返ってきた彼女の言葉にショックを受け、言葉を失う光男。


「この3年、あなたの様子を見てきたけど何も改善されていない。親と同居で生活全般お母さん頼みだから仕方ないかもしれないけど、家事とか手伝う気持ちゼロだよね。何度も言ってるけど、あなた、手がかかり過ぎる。
私が具合悪い時、心配だからってウチに押しかけて来るけどタオル1枚、コップ1個だって自分で出さないでしょ?お皿1枚すら洗わない。いまだにね」



何度か言われていた事を思い出す。しかし、家事なんて女が行うことだと右から左に聞き流していた。


「それから競馬ね。あなた、貯金無くなったから辞めるって言ってたのに今でも賭けてるでしょ?今度は結婚したら辞めるって言ってるけど、無理だろうなって思う」


確かに今の貯金額は66円しかない。分かっちゃいるが、賭けなければ当然当たらない。賭ける金額は以前より減らしているし、借金してまでやっているわけでは無い。誰にも迷惑掛けていない!

「結婚したら俺の収入で生活できるから、君は働かなくて良いって言ってるけど月収18万円だとカツカツよね。その上貯金ないなんて。」


「いや…世の中18万円の収入でやりくりしている人は五万といるよ?やりくりすれば充分生活出来るはずだよ。君、ちょっと贅沢なんじゃないの?」

「贅沢?私が贅沢?贅沢はあなたでしょ?私の食費は月に3千円未満ってどういう計算?そしてあなたは毎日おやつを千円分は食べてる。計算したらお菓子やジュースだけで1ヶ月で3万円よ?それに競馬ですか?あなたの計算おかしくありませんか?」


「お菓子と競馬は唯一のストレスの捌け口なんだよ。自分の収入でやりくりしてるだけなんだけどなぁ」

「ついでに言うけど、食事の時のお行儀が悪いのよ。食べ方とか…箸もまともに持てないし犬食いするし。所構わずゲップするしオナラするし。逆流性食道炎だから仕方ないってあなたは言うけど、本当に恥ずかしい。私の子どもは拒否反応示すのよね」


「出物腫れ物ところ嫌わずって言葉があるだろう?なんでそこまで言われなきゃならないんだ。子どもといっても成人しているのだし、俺たちの結婚とは関係ないだろ?」

「はぁっ?
成人していても私と子どもは親子だから関係あるでしょ!線引きする時点で考え方が違うのよ。
これまで私がずっと言ってること、あなたはどれも改善しようと思っていないでしょ?結婚ってママゴトではない。私だけではなく、あなたも改善しようと努力してくれなければ破綻するだけよ…確か1年前にも同じ事言ったわよね。
改善しようと思わないのは何故?あなたにとって結婚は高齢のご両親と、自分の身の回りの世話をしてくれる家政婦が必要なだけじゃない?妻ならタダだからね」



そんなこと考えたことがない。
彼女のことが大好きで仕方ない。
彼女と生涯を共に過ごしたいだけだ。
年齢的にも焦り、気持ちが先走る光男。
これまで交際歴なく、生活全てを家族に依存して生きてきたためか、彼女の言い分が理解できないのだ。

「君を愛しているから結婚したいんだ!ずっと一緒にいたいんだ!
急には無理だけど…俺、努力する!
……でもさ、君もある程度妥協する心の広さを持つべきじゃないのか?」


「は?」

ー  俺、努力する  ー
これまで何度聞いただろうか…
そう言いながら、妥協しろという光男につくづく嫌気がさした。

「やっぱり無理だわ。お互い若ければ柔軟な気持ちで認め合い、譲り合えるのかもしれないけど、私は妥協できない。これまでも、これからも」


「君って人は・・・結局自分が一番大事なのか?わがままばっかり言って、調子に乗ってんじゃねぇよ。一気に冷めた。もう二度と会いたくない」


妥協できない2人は別々の人生を歩むことになった。

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