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a (k)night story ~騎士と夜の物語~②

幼少の頃に血縁のイーノック家に養子に迎えられた叔父がどのような戦士だったのか彼女はよく知らないが、戦士としての彼を目の当たりにした者たちは、彼がひとたび戦いの場に身を置くや、体格からは想像もつかない敏捷な動きで手にした剣を軽々と振るい、敵はもちろんのこと味方までもが近づくのを恐れるほどの戦いぶりだったと口々に語って聞かせてくれたのだった。
 
トリンシックの騎士として数々の武勲を挙げる彼の働きに、すぐにでも爵位を戴けるのでは?と、人々は噂し合ったが、彼は地位などには全く興味がないようで、そのまま自由な騎士の身分でいることを選ぶと、気の向くまま戦場に参じたり酒を飲んだりして過ごしていた。
 
世の中が落ち着き、戦いの場が少なくなると、周囲の者たちは彼が腕前を錆びつかせてしまわないよう、戦いの腕を役立てられるようにと彼のもとへ貴族の子弟たちを送り込んだのだが、戦闘の師範役など思ってもいなかった彼は小姓候補たちを全て送り返してしまった。
 
だが、唯一彼の頭が上がらない姉の娘、つまり、姪のデュベルと、たっての願いで残った数人を手元に置くことになってしまうと、小姓見習の中から筋の良いサイラスという若者を選んで厳しく剣技を仕込み、彼を師範役にすると訓練を任せて、自分はそれを呑気に眺めていることにしたのだった。

しかし、駆け出しの覚束ない戦士見習いたちを見て彼にも何か思うところがあったのか、気が向くと彼らと手合わせをすることもあり、それもあって見習いたちは理屈よりも実戦的な戦士の立ち回りを早く身体で憶えていくことができたようだった。

ただし、それとひきかえに彼らは大分・・・というよりも、かなり酷く痛い目にあう羽目になってしまったのだが。
 
ある日のこと、訓練の時間の後もデュベルは独りで立ち回りを練習していた。

それというのも、師範役のサイラスが彼女の身体がまだできていないことを理由にブラックスタッフではなく、剣と盾を使って訓練をするよう勧めたからだった。

彼女の母をはじめ、杖やブラックスタッフを使う戦士の家に生まれた彼女は、自分も当然そうするのだと思っていたのだが、サイラスの言う通り、その頃の小さな彼女には手に余る武器だったのだ。

早く武器を使いこなしたかった彼女は教えてもらった動きを懸命に繰り返すが、不慣れな剣と盾がどうにもしっくりこない。
ため息をついて座り込んだ彼女のところにサー・ユージーンがやって来て声を掛けた。

「よう、くたびれたか?急に根を詰めても、そうそう身に着くもんでもねえんだし、焦るだけ無駄無駄。
・・・なんだ?サイラスに言われたことを気にしてんのか?ははは
あのなぁ、人間いきなり背が伸びたりするわけねえんだし、ちゃんと鍛えて、飯食って、寝て、そうやって一人前になってけよ。そうすりゃどんな武器も好きなだけ振り回せるようになれるぜ」

彼の慰めなんだか励ましなんだかよくわからない言葉に返事をする気になれないのか、彼女は黙りこくっていた。
 
「ふむ・・・よし。そんなら、とりあえず俺と戦ってみるか」

彼は野良着のようなシャツとパンツの上に革鎧を着ただけの軽装で、腰になんとなく挿していた棒を片手に持ち、彼女の前にすたすたとやってきた。

その吞気すぎる姿に苛立ったのが無言の表情から読み取れたのか、彼は両手を彼女に向けて軽く広げると

「本気で。殺す気でいいぜ」

と、にやっと笑みを浮かべた。


~③へ続く


お読みいただきありがとうございます。
 
物語に出てくる名称の解説をほんの少し。
トリンシック(Trinsic):
ブリタニア(UO内の世界)の主要都市。
城壁に囲まれ、明るい砂色レンガの屋敷が立ち並び、レンガで舗装された道がある。
海にも面していて港や戦士の養成所などもある。

ブリタニアには大陸、島などに都市や街が点在しています。
銀行や道具屋など冒険者にはおなじみの施設があり、街は各都市違った建物、植生がありそれぞれ特徴のある風景を見ることができます。
冒険者たちはダンジョンに出かけるだけでなく、お気に入りの街の銀行前広場で友人との会話を楽しんみながら過ごすこともあります。


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