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「ユキトケテ、春」

知らぬ間に泣いていたようで、
涙がマフラーに染み込んで今にも凍りそうなほどだ。
顔の半分が潜っていたもんだから、
頬や鼻に当たって当たり前に冷たい。
こりゃ赤っ鼻だな。

溶けた『雪』が水溜りになって、
そこを行きすぎる車のタイヤが、
否応なしに飛沫を上げる。
一昨日買った卸し立てのブーツが汚されていくのを避けようともせず、ただ見つめていた。
まあこの道も二度と通らないだろうし
恨むこともない。

プルルルル...プルルルル...プルルルル

あ、自分のか。

チラと画面を確認したけれど、
別に、いいや。

しつこい仕事の着信、
電柱の街灯に群がる羽虫や
他人の家から漂ようお風呂の香り、
若干の靴擦れ、
全部がなんだか、
なんだか煩わしくて。

想起させるよなー。
いつもこの道だったもんなー。
気を抜くと思い出に浸って溺れてしまいそうだ。

「いかんいかん」

なんとか「我に帰ろう」と
白いモヤを確認したくて
「ほぅ」と息を吐いてみたけれど、
あんまり拝めなかった。

ズビ。

あー、チクショウ。
何もこんな季節に別れなくたっていいのにさ。
あまりにもセオリー通りで笑っちゃうね...


「いんや、笑っちゃえないよなぁ...」


雪を溶かす春先にしてやられて、
確かに今日、私の手元からも
少しばかりの『幸』が解けていったのだった。

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