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俺は絵を描けるようになりたいんじゃない。絵を描けない自分が嫌なんだ。

自分でも自分の本心がわからない。できないと自覚するから嫌なのか、ホンモノを知るのが嫌なのか、ほんとは別にそれも大して好きでもなんでもないのか。
どれもカッコ悪いな。

前に、大学の教授にライターのバイトでもしたらどうだと言われたが、結局やらなかった。いや、一応募集を探して何個かエントリーして、そして俺はその会社から送られてきた審査資料を見て断念したんだ。
断念した理由は何だったか、量が多くて面倒だったとか時間が掛かりすぎるのに単価が安すぎるとか、後その仕事をしばらくの間続けられる自信がなかったとか。そんなところだろう。
まあとにかく、今の俺はライターのバイトなんかやっていなくて、文章力も思考力も衰えて、タイピングはミスタイプばかりで遅いという事実がそこにあるだけだ。
シナリオライターを目指すことすらもしない男がそこにいるだけだ。
現状からすれば、ライターには別になりたくはない。それを仕事にはしない。

例えばイラスト。例えば音楽。例えば小説。あるいはサッカー、なんてのもあったかもしれない。専業主婦、はどうだろう。
俺はそういったものをやって生きていきたいと思っていた。
いや、今も思っている。
だが、俺はいつだってそれはいまではないと蓋をしてきた。
「今は絵を描くよりもやることがある」「ギターの練習なんてしてる時間はない」「小説書く前にレポートを書かないといけない」
そういって俺は衝動の炎に蓋をしてきた。
そしたらどうだ。後になって蓋を開けてみれば、そこに残っているのは何かわからん燃えカスだけだ。

そういう生き方ばかりをしている。

別に後悔しているわけではない。
それは確かにその時その場合やるべきことで、俺は間違った選択をしたとは思っていない。

例えば社会人になっても描き続けたイラストに依頼が来るようになったり、
例えば社会人になっても続けていた音楽が何かの拍子にバズったり、
例えば社会人になっても書き続けてた小説が何かの賞を取ったり、
そういうように俺は生きたい。

俺は世界の中心であるという信仰


自宅に帰るなり男はノートパソコンの前に座り、棚に散乱した手書きの資料をあさり出した。ある程度目を通すと、今度は仕事に使っているバックから、小さなメモ用ノートを取り出した。このメモは仕事中に思い付いたアイディアを書き留めておくようのものだ。案外、別のことを考えているときこそ思いもよらない名案が浮かぶのもなのだ。
メモと資料を見比べ、資料にペンで書き込みをしていく。新たな設定を盛り込んでいるのだ。その作業があらかた終わると、今度はパソコンに手を伸ばし、打ち始めた。
始めのころはそれこそゆっくりだが、次第に手が追い付いていない程文章が浮かんでくる。文章が頭から逃げていく前に打ち込まなければならない。一度逃げた文章は、次に押し寄せる思考の波によって遠い彼方まで流されてしまうからだ。
一段過ぎ去り、〆のエンターキーを強めに叩く。
男は満足げだった。
結局その小説は選考には通らなかった。
しかしそれは今熱心に絵を描いている男には小さなことだった。
男の目下の夢は、自分で詩を書き音を作りMVも作ることだ。
男の目は輝いていた。

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