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連還する記憶 ⑧ 

 

連還する記憶 ⑧

<人を宿主とする微生物>

このような働きをする微生物から、ヒトの体を見たとき、生息する糧を供給し、働く場所を提供してくれる、いわば宿主、と捉えることができるでしょう。ヒトは微生物の宿主になっています。

またべつの言い方をすれば、ヒトは微生物により生かされている、ということもできます。微生物には、ヒトを殺すのではなく、ヒトに生命を保持し運用させる働きがあるのです。その働きによって、ヒトを生かすと同時に、自分を生かす場所を担保しているのです。

また微生物は、自分が寄宿する宿主が属する共同体と連還しています。共同体に寄宿する微生物は、その共同体に固有の分布特性をもち、共同体の生成する文化の特性と時間に対応しながら、互いに連還しあっています。

たとえば、納豆文化に寄宿する微生物とチーズ文化に寄宿する微生物は、それぞれに異なる分布特性をもっていますが、双方の文化が交わることにより、時間がたてば、べつの新たな特性分布で連還しあい、べつの文化生成に貢献することになります。

子供が母親の産道で受け継ぐ常在菌は、母親の属する共同体の分布特性をもつ菌で、共同体と連還しています。この常在菌は、母親の生命記憶を子供に移転すると同時に、共同体で子供を生かすため、共同体の生命記憶と連還しながら、子供自らの生命記憶を育ませていきます。

こうして、母親の生命記憶と共同体の分布特性をもつ常在菌は、引き続き、空気や食べ物(乳)、周囲の人との接触などを通じて、他の多様な多くの微生物と接していくなかで、微生物と人体が戦ったり譲ったりの駆け引きを通じ、さらに一部の微生物を常在菌として定着させつつ、ヒトの生命記憶と連還していきます。

こうして、常在菌の数や構成する種類は成長につれ多様化しつつ安定していき、ヒトと微生物が共に生きる一つの生物集合体がヒトの体として出来上がります。そして、ヒトの体が存在記憶を蓄積していく過程で、ヒトは、その生命記憶と存在記憶と連還する常在菌との集合体として、ありつづけることになります。

こうして、母から子に、子から孫へと受け継がれる常在菌の寄宿する宿主であるヒトという種は、永続するのか、中断するのか、繁栄するのか、絶滅するのか、他に待ち受ける宿命があるのか、等々、いわゆる種の怪について明快にしていくことが、実は本文の肝なのです。

次回は、記憶のはなし本文の肝である種の怪について、ヒトの体の常在菌の分布特性の解析により解明する糸口が見つけられるのではないか、という可能性について考察してみたいとおもいます。


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