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連還する記憶 ⑧ 

 

連還する記憶 ⑧

<記憶の共有>

ヒトと他人は身の保全のために集団を形成します。集団の中で、致命的な考えの相違により、生命を否定し存在を脅かす事態が発生しても、集団の理念がこれを検証し、裁定し、統合します。

集団と集団の間で、ヒトの致命的な対立が生じ、生命を否定し存在を脅かし、共同体の存立を否定、錯乱、破壊する事態が発生しても、各集団の理念を突合せ、検証し、すり合わせ、より広く包括的な理念を構築することで、新たな集団として統合・統一されていきます。

こうしてヒトは、長い殺戮と破壊の歴史の中で、生命を否定し存在を脅かし、共同体の存立を否定、錯乱、破壊する事態に直面し、驚き、悩み、考え、腐心し、頭を切り替え、知性を錬磨することにより、それらに対する免疫を獲得し、より広く包括的な統合・統一の理念の構築へと、辿りついていったのです。

それがなぜ可能であったのか。

二つの可能性が考えられます。

<自由奔放な有機体の働き>

理由は、明らかです。心、精神、知性、悟性、感覚、感性、有機体のもつありとあらゆる機能が、自由奔放に解放されていたからにほかなりません。自由な頭脳は、どのような事態に遭遇しても、自由に対応できます。なぜなら、知性の軸が無数にあるからです。ヒトは、いかようにでも、考えを変え適応することができる、多軸構造の頭脳に恵まれているのです。

観念を造り出す知性の働きから、理想の誕生と理念の構築という、認識能力を備えたヒトとして、象徴的な収穫物を得られることを確認しました。

本来的に生き物であるヒトやヒトの集団は、自分が生存するに足る理想を造り出し、それを守り抜くべく理念を構築し、実践します。その過程で、ヒトは、生きるために実践するあらゆる行為を、生体に結びつく有機的な観念記憶として、自らの認知体系に保存し、生命記憶と存在記憶と常に連還させながら、さらに生きのびるために、記憶体系に蓄積し継承していきます。ホモサビエンスの七百万年は、こうして担保されてきました。

一方、自分だけが生存するに足る理想を造り出し、それを守り抜く理念を構築し、他を顧みない独善的な生を実践するヒトやヒトの集団が、同時に存在します。その実践課程で、自分以外のヒトや集団を生かさないよう行使する術策は、無機質で排他的な観念として、一旦は記憶体系に保存されますが、有機体である生命体と交渉を持てない無機質の行為ゆえに、生命記憶と存在記憶と連還するゲートウェイをもつことができず、いずれ分散し、消滅していきます。ヒトは、程度の差こそあれ、常時、この種の無機質の弊害に悩まされてきましたが、もとより有機体とは連還する窓口もなく、他者との接触すらままならない排他性に染め上げられているため、実体を伴う危害を与えるまでには至っておらず、ホモサビエンスの七百万年は、常に担保されてきました。

しかし、いま、この無機質集団の脅威は、徐々に増大しつつあります。生き続けようとする有機質集団を、徐々に浸食し、変質させようとしています。

自分だけが生存するに足る理想を造り出し、それを守り抜く理念を構築し、他を顧みず実践するヒトやヒトの集団は、なにを拠り所としているのでしょうか?

<自由奔放な微生物の働き>

ヒトの体には百兆個を超える微生物(主に細菌)が存在するといわれています。人体を構成する細胞の数が約三十七兆個ですから、それより多くの微生物と生活していることになります。

それらの大半はヒトと共生関係にあり、通常、体に害を及ぼすことはありません。このような微生物を常在菌と呼びます。

常在菌は、膚や歯の表面、歯と歯ぐきの間、鼻や鼻腔、腸、腟の内側を覆う粘膜など、体外と通じている器官に存在し、病原菌の侵入を防いだり、消化を助けるなど人体にとって大事な役を担っています。

他方、健康な人の脳、心臓、腎臓などの臓器には微生物は入り込めないようになっていて、もちろん常在菌も存在しません。私たちの体は、微生物と共存する所と微生物の存在自体許さない所とがはっきり分けて管理されているのです。

常在菌はいつ、どこから人体にやってくるのでしょうか。

母親の子宮内は無菌状態であり、胎児もまた無菌です。従って、人と微生物との関係は出生時がスタートラインになります。

子供はまず産道で母親の常在菌と、続いて空気や食べ物(乳)、周囲の人との接触などを通じて多くの微生物と接していきます。それら微生物と人体が、戦ったり譲ったりの駆け引きを経て、定着した一部の微生物が常在菌になるのです。

常在菌の数や構成する種類は成長につれて安定していき、人と微生物が共に生きる一つの生物集合体ができあがります。それがヒトの体です。

大半の細菌は嫌気性菌です。生育に酸素を必要とせず、通常、病気を引き起こしません。腸内の消化を助けるなど、多くは有益な働きをします。
しかし、粘膜に損傷があるような場合、嫌気性細菌が病気を引き起こすことがあります。普段、細菌が入り込めない組織では、防御機構が備わっていないため、細菌が侵入します。その場合、細菌は近くの組織(副鼻腔、中耳、肺、脳、腹部、骨盤、皮膚など)に感染したり、血流に入って全身に広がったりします。時には、重篤な被害を及ぼすことがあります。


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