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千年寝た勇者と千年後の旅物語Ⅵ

花祭最終日。

今までも華やかだったが、今日は一層豪華になっていた。

俺達も外に出れば、花輪を渡されて俺は腕に、シロは頭に、ニールは帽子に着けている。

「あ、皆!」
「アリス?」

っと、花輪の首飾りを着けたアリスが駆け寄って来る。

「花輪も似合ってて可愛いね」
「はわっ」
「……流れる様に口説いといて」
「実は口説いてないとか、ね」

思わずニールと顔を見合わせて苦笑した。

「……お祭り、一緒に回ってもいい?」
「俺はいいよ?」
「俺も構わねぇ」
「同じく」
「じゃあ、一緒に行こう」
「うん」

という事で、四人で回る事に。

「…………お前等、誰かしらの裾掴め」
「「「?」」」

首を傾げながらもシロとニールは俺の、アリスはシロの服の裾を掴む。

「しっかり掴んでろよ」
「「「え?」」」

そのまま俺は敢えて人混みの中を進んだ。

「わっと」
「ちょ、クロ」
「はわ」

人混みを抜け出し、後ろを確認する。

……よし、撒いたな。

「何?どうしたの?」
「いや、何でもねぇ。祭を楽しむか」
「?うん」

様々な花に関わるものが飾られ、売られていた。

「そういえば、何で花祭なの?」
「えっとね、この街は元々勇者に関わる物が多いの」
「うん」
「この花祭もね、勇者が自分を導いた姫巫女によくお花を贈っていたという伝説があってね」
「へぇ、花を……」
「勇者が眠った後は、勇者の代わりに姫巫女が寂しくない様に花祭を始めたとされているの」
「そうなんだ」
「…………」

……まぁ、否定はしねぇよ。

厳密には花をモチーフにした作り物だけどな。

「なんか素敵だね」
「そうだね」
「……げ」

ニールの面倒臭そうな声に視線を向けると、アリスに絡んでいた男と取り巻きが居る。

男も俺達に気付いたらしく、近寄って来た。

「お疲れさまです!兄貴!」
「「「「兄貴!?」」」」
「兄貴分になった覚えはねぇよ……」

勢い良く頭を下げた男に思わず頭を抱える。

やり過ぎんなよって言ったのに……

シロ達と取り巻きが戸惑った様な顔をしていた。

「俺達は今日楽しむ為に来てんだ。邪魔すんな、あっち行け」
「はい!失礼しました!」

去って行く男と取り巻き。

「あ、あにき……」
「今のは忘れろ。兎に角楽しむぞ」
「「「あ、ハイ」」」

俺もさっきのは無かった事にして祭巡りを始めた。

「わ、花のお菓子だって」
「これ、結構美味しいよ?」
「シロとアリスって甘党だよね」
「そう言うニールは辛党か?」
「うん。クロは?」
「食べれれば何でもいい」

笑う彼等を見詰める。

……あの頃も、こんな事を夢見てたな。

《お前の望まない客が来るぞ》
「!」
「クロ?」
「悪い、ちょっと離れる。お前等は楽しんとけ」
「「「クロ!?」」」

彼等を置いて駆け出した。

「何処だ?」
《南……このまま真っ直ぐ、街の外まで出ろ》
「分かった」

足に魔力を込め、近くの樽から屋根の上に行き、そのまま屋根伝いに駆ける。

街の人々は祭に夢中で俺に気付いていない様だ。

軈て屋根から飛び降りて、街の外に出た。

「…………」

強化魔法で視覚を強化する。

「……げ、多いじゃねぇか」
《だな。私が出るか?》
「駄目だ。お前の力は強過ぎて街の人にバレかねねぇ」

だから、俺が一人でやる。

あまり魔法を使わない方法で。

視認した先には鷹の様な魔獣の大群。

武器装置を起動させた上で浮遊魔法で飛び上がり、魔獣へと向かった。

「抜刀・纏」

 ザンッ

先ずは一匹。

そのまま一匹ずつ斬り倒していく。

「クロっ!!」

声に視線だけ向ければ、シロ達が居た。

が、気にしてる余裕は無く、直ぐに次の魔獣を倒す。

チッ、こんな状況じゃなきゃいい練習相手になんのに。

そうやって倒してると……

 バシュンッ

「は?」

俺の横を通って撃ち抜かれる魔獣。

感じた青い魔力にシロ達の方を見ると……ニールが長い筒状の物を構えていた。

ニールと其れが僅かに振動すると、先から青い光が飛び出して魔獣を貫く。

……弓矢みたいね遠隔武器の現代バージョンって所か?

「クロ!」
「は?シロ、どうやって来た?」

呆気に取られてる間にシロが俺の所まで飛んできた。

纏は教えたが、魔法は教えた覚えねぇんだけど。

「アリスが何とかしてくれた!」
「アリス?」

ニールの後ろに居るアリスは何か祈る様に手を組んでいて、その足元には魔法陣が浮かんでいる。

アリスは魔法が使えんのか?

「俺も戦う!」

シロの手には双剣が握られていた。

あの子と同じ……

「……武器に魔力を纏わせて戦え。無理せずに一匹ずつ首を狙って斬ろ。避けながら隙を見付けろ」

「分かった!」

それから三人で魔獣を一掃する。

殲滅したのを確認して、ニールとアリスと合流した。

「アリス、魔法が使えたのか」
「魔法、なの?ちっちゃい頃から使えていたの。あんまり人前じゃ使っちゃいけないって言われてたけど」
「…………」
「あの、クロ。私も役に立てるかな?」
「ん?ああ、シロ達のサポートだけでも役に立ってるし、今で此れならその内他のも覚えられると思うけど」

「……そっか」

と、視線を感じて街の方を見る。

……逃げたか。

「クロ?えっと戻る?」
「……そうだな」

シロの言葉に俺達は街へ戻った。

「あ、フィナーレだ……」

降り注ぐ花弁。

其れを幾つか取ってしまう。

「悪い、俺の所為であんま楽しめなかったな」
「え?大丈夫!」
「十分花祭楽しめたし、練習も出来たから」
「おう。じゃあ、帰るか」
「「「はーい!」」

という事で、俺達は宿に戻る。

そして、明日に備えていると……

「先生!大変です!」
「ん?」

夕暮れ時にマッドが駆け込んで来た。

「なんか、騎士団って名乗る人達が先生を拘束するって。今、父さん達がもう出て行ったって誤魔化したんだけど」

騎士団……拘束って事は、面倒な事態になってるかもしれねぇな。

「それで、何故か彼奴が『兄貴の危機に参りました』って……」
「ああ、あの男か。彼奴は俺の部屋に通してくれ。あと、シロとニールを呼んでくれ」
「わ、分かりました」

マッドが出て直ぐにシロとニールがやって来る。

「クロ、騎士団って……独立警察みたいなものだよね?」
「何でクロが拘束?クロは悪い事してないじゃん。魔獣倒してて、むしろ勧誘される立場なんじゃ……」
「シロ、ニール。まだ騎士団の状況を把握してねぇ段階で拘束されるつもりは無い」
「それって……逃げるの?」
「ああ。此れは最終確認だ。俺について来るって事は騎士団から逃げるって事だ。場合に依ってはお前達も拘束対象になるかもしれない」

俺の言葉に二人が顔を見合わせた。

「……俺はそれでもついて行く。逃げるって事にも理由があるんだよね?」
「僕も。とっくに覚悟してるから」
「……分かった」
「お待たせしました兄貴!」
「「え」」

話が決まった直後、あの男が入って来た。

「お前に聞きたい事がある。今、騎士団は?」
「街の公共機関を調べてます」
「其れを躱して街から俺達を出せるか?」
「その為に来ました!」

ニッと笑う男。

やり過ぎかと思ったが、いい感じに矯正してくれたみたいだな。

「俺は、あー……名前何?」
「ラッシュです」
「ラッシュと打ち合わせするから、今の内に準備しろ。闇夜に紛れて出るぞ」
「「分かった!」」

バタバタと出て行くシロとニールが出て行く。

それから話し合って、このままラッシュの車に乗り、此奴の屋敷の下にある街の外に繋がる道から脱出する事になった。

「お待たせ!」
「いい感じの時間になったな」
「では、コッチヘ」

騎士団に見られていない事を確認し、ラッシュの車に乗り込む。

「ごめん、お邪魔する!」
「「「!」」」

ドアを閉める前にアリスが乗り込んだ。

「私も行くよ!お別れもちゃんと済んだ!」
「……時間はかけられねぇ。出せ」
「はい!」

窓から手を振る『ハートランプ』の人々に会釈し、車は発進する。

屋敷に着くと挨拶もそこそこに地下通路に向かった。

「兄貴、コイツに道案内させます!」
「よろしくお願いします」

ラッシュが背中を押したのは赤毛の青年。

「ツバキ、と言います」
「クロだ。よろしく」

最低限の言葉だけ言い、俺は地下通路への梯子を使わずに飛び降りる。

「ラッシュ!助かった。ありがとな」
「いえ!お気を付けて!『ハートランプ』には手を出させません!」
「頼んだぞ!」
「はい!お気を付けて!」

そう話していると、俺の側にシロ、ニール、ツバキが着地してきた。

「きゃっ」
「っと」

アリスはシロが受け止める。

「行くぞ」
「うん!」
「お気を付け下さい。この先には……」

 ガルル……

「千年前の負の遺産がありますから」

俺達の行く手の現れた……魔物。

「時間がねぇんでね……《道を開けろ》」

その言葉に魔物が道を開けた。

「え……」
「走る。ついて来れるか?」
「大丈夫!」
「コレも訓練の一環だね」
「私は……」
「よっと」
「きゃ」

アリスを横抱きしツバキを見る。

「魔物は襲わねぇ。先行して走れるか?」
「は、はい」
「頼む」
「……では、こちらへ」

そして、俺達は慌ただしく街を出た。



To be continued.

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