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千年寝た勇者と千年後の旅物語Ⅶ

地下通路を抜け、上へと出る。

「ココは?」
「どこかの廃村、かな」

出た先は朽ちた……村、という街跡だった。

この街の構造……

「何百年も前に滅んだとされる街『メモリア』です」

やっぱり『メモリア』だったのか。

俺が眠る前は、世界一と言われた知識の街だったが……滅んだのか。

「取り敢えず案内ありがとな、ツバキ」
「いえ」

地下通路は迷路になってたから、案内人が居たのは助かったな。

「本当にありがとう」
「ありがとうございました」
「いえ」

やけに丁寧だが……此奴、ラッシュの所の使用人とかか?

俺達はツバキを見るが、帰る様子を見せない。

「「「「帰らないの(か)?」」」」

考える事は全員一緒らしく、同時にツッコむ。

「はい。坊っちゃんから皆様を王都までお送りする様に言い使っておりますから」
「あっそ……俺達以外に気配はねぇから、一先ず休むか」「「「はーい」」」

念の為結界魔法を張り、テキトーな所で其々横になった。

「……休まれないので?」
「まぁな。其れと、そっくり返す」
「私は疲れておりませんので」

地図を見ていると、ツバキに声を掛けられる。

「……ツバキ」
「はい?」
「どういうつもりだろうと、俺は無駄に干渉する気はねぇ」
「……っ!」
「お前の考えがどうだろうと、俺は自分の考えで進む」
「…………」

……一先ず近くの街に行くか?

「……少々遠いですが、カイロ川を通った先にある街に行けば、王都までモノレールが出てます」
「ものれーる?……乗り物、か?」
「え?ええ」
「騎士団が来る可能性は?」
「其処までの権限はないかと」

どうやらこの千年で騎士団の方も使える権限が減ったらしい。

「お前には借りが出来てばっかだな」
「……いえ……あ、質問しても?」
「ん?」
「坊っちゃんが急に変わられたのですが、何かご存知で?」
「“俺”は知らねぇな」

俺は何もしてねぇし。

「そう、ですか」
「俺もちょっと休む。お前も休め」
「……はい」

そして、俺達は休んだ。

とはいえ、俺は一時間程で目を覚ます。

眠る前から短い方だったし、千年も寝た所為か益々寝れねぇんだよな……。

「確か……この辺り、だな」

廃墟の街を探索し、目的の場所を見付けた。

「大図書館『ルジストル』」

中も外同様に廃墟化し、草木が生えている。

が、本棚には結界魔法が掛けられていて、手に取ればまだ読めそうだ。

「この魔力の色は……」

 パリィン

結界に触れた途端、硝子が割れる様に崩れた。

「……俺が来るのを視てたのかよ?アヴニール」

占術魔法なんてものを作った本の虫。

そういや、何時か教えてくれって言ったら悲しそうな顔されたな。

彼奴は詠んでたのか?

「……仮にも親友じゃ無かったのかよ」

まぁ、本を持っていって良いという解釈し、魔法に関わる本を幾つか取り出す。

「確か奥に……あった」

一番奥。

台座に乗せられた魔方陣の描かれた石を拾い上げて魔力を流した。

『遂に勇者と姫巫女が発見された。まさか、親友と義妹とはとは思わなかった』

嘗ての親友の声が聞こえる。

『私と義弟は親友と共に戦う事を選んだ。親友は困った顔をしていた。どうやら一人で戦うつもりだったらしい。思い切り叩いてやった』

……あったな、そんな事。

『義弟が作った騎士団に副団長として入った。親友にはそんな所より本の中の方が似合いだと言われた。お前こそ戦場じゃなくて作業場に居る方が似合いだ。栞やお守りは今でも使える』

そういや、色々作ってやったな。

『彼奴は相変わらず人前で弱味を見せない。どんなに戦いで傷付いても、どんなに苦しくとも、貴族の奴等に嫌味や下劣な視線を向けられても、私達の前では笑顔を見せる。親友にくらい、弱味を見せろ。馬鹿』

『占術が出来た。此れで親友の未来を占おう……彼なら、絶対に大丈夫だ』

『何という事だ……義弟達が親友を裏切るというのか』

『葛藤を抱えたまま戦いが終わる。やはり親友は凄い。今までの勇者とは異なる方法で戦いを生きて終わらせた。流石は私達の勇者だ』

『ああ、遂に起きてしまった。何とか思い止まらせようとしたが、無駄に終わった』

『義妹に真相を問い質した。そのすぐ後に義弟が姿を消した。私は一体何をしてやれたのだろう』

『占術で視えた。親友の姿が』

『───、どうか……』

全てを聞き終え、石を壁に投げ付けた。

「……遅いんだよ。全部、何もかも」

俺は……もう……





「クロ!こんな所に居た!」
「おー」

図書館に居ると、端末でシロに居場所聞かれて素直に答えればゾロゾロと迎えに来る。

「何読んでるの?」
「魔法について」
「!?」

本を読んで待ってた為、シロが覗き込んで来た。

俺の言葉にツバキが驚いた顔をする。

「へぇ、本なんて今時珍しいね」
「過去の遺産だからな。次の街に行く前に、ある程度お前達に魔法を仕込む」
「「「「!」」」」
「そもそも魔法ってのは、術式を魔力で描く事で発動する。アリスの足元に浮かんでたのな」
「?でも、クロは特に無いよね?」
「俺は頭の中で描いてるからな」

試しに見える様に魔力を指先に集めて魔法陣を描いた。

「因みに此れは火を生むのだ」
「「「へぇ……」」」
「アリスはこの本を読んで先ずは使える魔法を増やせ。アリスなら覚えさえすりゃ、俺みたいに思い描くだけでいいだろ」
「うん!」

アリスに本を渡せば、大事そうに抱える。

「ニールも後で見せて貰え。お前のは魔力を変換させて撃つって所だと思うんだが」
「うん、その通り。魔力を弾丸にしてる」
「お前はその弾丸?の種類を増やす為に一通りのを基礎を覚えろ。無意識に出来る様になったら応用だ」
「分かったよ」

基礎装置を握り締めながらニールが頷いた。

「俺は?」
「お前は俺と同じ前線だからな。先ずは剣術を鍛える……その後、基礎魔法を習得して剣に纏わせるなり遠距離になるなりする」
「分かった!」

という事で、俺達は休息を兼ねて廃墟に留まる。

「おぼえられない……」
「水はすんなり覚えられた」
「クロ!上手く発動しないんだけど……」
「イメージ強くしろ」
「…………」
「興味あんなら読んでみろ」
「え!?」

躊躇いながら読み始めるツバキ。

その目は次第に輝いていった。

「本、好きなの?」
「え、ああ……じゃなくて、はいっ!」

休憩に入ったニールが声を掛けると、慌てた様にツバキが返す。

「別に無理して敬語じゃなくていいよ。僕達はあんたの主人じゃないんだから」
「え、あ……ああ、ニール、君?」
「「ニールは女の子だ(よ)」」
「え!?」
「え?どう見ても女の子だよね?」

俺とシロの言葉にツバキが驚き、アリスは不思議そうなか肯定した。

「オンナノコ……失礼した」
「いーよ、気にしなくて」

ツバキの言葉にニールは悪戯っ子の様に笑う。

「………………」

そんな笑みを見たツバキは頬を赤らめて固まっていた。

あー、一目惚れか?

「どうかした?」
「あ、いや。何でもないのだ」
「そう?で、本好きなの?」
「あ、ああ……端末で情報は得られるが、紙の感触が好きで……」
「ああ、ちょっと分かるかも」

今度は小さく笑うニールにツバキは落ち着かない様子で目を逸らす。

「ニールって、鈍感なんだよね」
「そうなの?」
「うん。結構学校でモテてたんだよ」

彼方此方でイチャつかれると、俺が肩身狭いんだが?

溜め息を吐き、俺はその場からソッと離れた。

「花弁は……凍らせて……」

形を整え、ストラップという物に作り上げていく。

少しして、また捜しに来たシロ達。

「またクロどっか行った!」
「お前等がイチャつくからだろ」
「「い、イチャついてない!」」

俺の言葉にアリスとツバキが慌てて否定してきた。

「何作ってんの?」
「ストラップ」
「わぁ!」

白色の花弁を使ったストラップを差し出せば、キラキラした目でシロは受け取る。

「欲しいならやるぞ」
「やった!あ、青と黄色と赤、黒もいい?」
「構わねぇけど」
「じゃあ、ニールは青で、アリスが黄色で、ツバキが赤ね」

シロは本人達に渡していった。

「で、クロは黒ね」
「俺もかよ」

何で作った奴に貰った奴が渡すんだよ。

「端末に付けようよ」
「端末、ね」

シロの言葉に、彼の手に俺の端末を出す。

初めて見たらしいアリスとツバキが目を瞠った。

「これでよし!」
「…………」

端末からぶら下がるストラップ。

「えへへ、お揃い」

シロが自分の端末を見せるように出し、ニール達も其れに倣う様に端末に付けて出す。

お揃いのストラップ。

其れは絆の証か、其れとも……





・ツバキ(19)……本名ツバキ・?。赤い髪に藍色の瞳を持っている。




To be continued.

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