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千年寝た勇者と千年後の旅物語Ⅸ

無事に森を抜けると……

「「「わぁ……」」」

海に出た。

シロやニール、アリスは初めて見るのか、目を輝かせている。

「海、か」
「クロ、少し休憩せぬか?」
「そうだな。ちょっと休憩するか」
「「「わーい!」」」

三人は靴を脱いで海に突っ込んだ。

俺やツバキも歩いて近付いた……その時

 バシャッ

「っと」
「うわっ!」

海水が飛んでくる。

俺は避けたが、ツバキは頭から掛かった。

視線を向ければ、悪戯っ子な笑みを浮かべるシロとニール。

「……やりおったな!」
「わぁっ!」

ツバキが海水を蹴り、それがシロにヒットする。

「あははっ!」
「ほら、クロも!」
「俺に喧嘩売るもんじゃねぇぞ?」
「「「「え?」」」」

水魔法を応用して海水を彼等に掛けた。

「「「「……やったなぁ!」」」」
「ははは!」

それから暫く海水を掛け合う。

疲れた後は並んで浜辺に寝転んだ。

「あはは、楽しかったぁ」
「クロってば、ズルいよぉ」
「悔しかったら魔法を鍛える事だ」
「私にも魔法教えて欲しいのだ」
「気が向いたらな」
「えっ」

ああ、そういや……小さい頃もこうやって遊んで、寝転んだっけ。

「こんな風に疲れるまで遊んだの、父さん居た頃以来かも」
「あー……」
「シロのお父さん、亡くなったの?」
「えっと……実は居なくなったんだ。俺を育ててくれた叔父さんはもう死んだって言って……母さんは父さんが居なくなった時に死んじゃった」
「そうだったんだ。ごめん、辛い事聞いちゃって……」
「気にしてないよ」
「その、ニールは……」
「僕は赤ん坊の頃にお母さんとシロの村に来たらしいんだけど、その後直ぐに死んじゃったらしいから」
「そう、なのか……」
「何だか、皆複雑だねぇ」

確かによく考えたら複雑な家庭ばっかだな。

「そういえば、クロは?」
「あー?」
「だって、クロってば全然教えてくれないし」
「確かに。ちょっと気になる」
「話す様な家庭じゃねぇからな」
「…………」
「ふーん……」

……大切な記憶が無い訳じゃねぇ。

だけど、それを覆ってしまうのが……裏切りの記憶。

「クロ?」
「今日は此処で泊まるかー……今日の食料、其々で採れ」
「「「「え」」」」
「一番捕れた奴は高見の見物、採れなかった奴が料理係。つまり競争だ」
「よーし、負けないぞ!」
「食べれれば何でもいいよね?」
「ああ。よーい、始め」

俺の言葉に一斉に皆起き出して海に繰り出す。

その背中は無邪気で……先のトラブルの嫌な感じは拭えた様に見えた。

「…………」

そんな中、一人森に向かうツバキの後を追う。

「……私です」
『──、──』
「……分かっています」

ツバキは木に寄り掛かり、首に巻いている布を口元まで上げていた。

其処に端末の様な通信機でも仕掛けてるんだろうな。

「今の……場所は……」

ある程度聞いて、俺はその場から離れる。

其れから暫くして……

夕方頃。

「「「ツバキの負けー」」」
「うっ……」

結果、ツバキ以外は魚や貝、果物と食料を採ってきた。

「じゃあ、ツバキが料理係だな」
「り、料理は……その……」
「……仕方無い。僕も手伝うよ」
「え、あ、忝ない」

という事でツバキとニールが料理係になる。

「俺達はどうしよっか」
「クロ、何かやる事ある?」
「寝床の準備でもして貰うか。俺は魔法結界を張っておく」
「「はーい」」

皆で泊まる準備をし、二人が作った料理を食べ……

「「辛っ!」」
「辛いけど旨いのだ」
「まぁ、確かに」

辛い料理を食べ、其々休む体勢になった。

俺は拾った貝殻と魔法石を取り出す。

「……──♪」

魔法石に歌を仕込み、加工した貝殻に取り付けた。

「クロ?今歌ってたよね?」
「ん?ああ……此れに仕込んでたんだよ」
「わぁ……オルゴールみたい」

オルゴール、か……彼奴にも作ったな。

大袈裟なくらい喜んで……

「……ほら」
「え、ありがと」

シロの手に其れを落とし、俺は森の中に入る。

「……おい」
《どうした?》
「新しい時代の“奴”は何処だと思う?」
《お前とて予想出来てるだろう。だから、騎士団には手を借りんのだろう?》

……やはり、そうなのか。

さて、どうしたもんかな。





翌日、俺達は浜辺を発った。

そして……

「大きな街……」
「『ソニード』なのだ。此処のモノレールで王都に行けるのだ」
「モノレールなら、チケット取らないと」
「今からとなると、明日かなー」
「ちけっと……」
「あ、えっと、乗る為の券を買うの」

乗る為の権がちけっとなのか。

それから俺達はチケットの販売機から全員分を買う。

「…………」

端末の中に描かれた『モノレールチケット』の文字と絵。

「クロってば、そんなに気に入ったの?」
「ん?」
「さっきからずっと見てるからさ」
「そう……だな。端末の使い勝手の良さもそうだが……モノレールというのが楽しみだ」
「モノレールは俺も乗るの初めてだなぁ」
「うん。ちょっと楽しみ」
「明日には王都かぁ」
「…………」

俺は複雑そうな目をするツバキを見詰めた。

「……よし。今日の宿だけ手配して、後はゆっくり街を見て回るか」
「「「はーい」」」
「……うむ」

其れから手配をした後、俺達は街を歩き回る。

 ──♪───♪♪

「わぁ、アチコチから音楽が聞こえるね」
「この音楽……結界を紡いでいるのか」
「そうなのか?この街は昔から音を流しておるのだ」
「あ、この曲……オルゴールと同じだ」

懐かしい曲だ。

 『──♪───♪♪』

──がよく歌っていた曲。

懐かしい……子守唄。

「クロ……」
「何だか懐かしそうな顔してるね」
「ん?……忘れろ」
「「「えーー」」」

三人の頭をクシャクシャと撫でた。

「此処からは別行動にすっか」
「え?」
「怒った?」
「怒ってねぇ。たまには一人で歩きてぇんだよ」

そう告げて、俺は彼等から離れる。

この街にある物は、俺の故郷にあった物が多い。

音も、店の並びも……

 コロン……

「!」

俺の前を毬が転がって来た。

「…………」

その毬を拾い上げる。

 『兄さーん!そっちいったよー!』
 『おーう。ノエル行くぞー』
 『わっと。あ、ナギー』
 『うん!アリアー』
 『は、はーい!』

「兄さん」
「っ!!」

ポロっと毬が手の中から落ちた。

其れを小さな男の子が拾う。

「どうしたの?」
「ぁ……いや、何でもねぇ。其れ、お前のか」
「うんと、園のだよ」
「園?」
「うん。あそこ」

男の子が指差した先……

「…………っ」

 『今日から此処が貴方達の家』

「『サクラ園』!」

 『サクラの園だよ』

「ルトくーーん」
「はーい」

男の子が駆け、園の中に入っていった。

「……くそ」

何で、千年経ってるっつーのに……何で懐かしいのばっかりなんだよ。

沢山の事が頭を過る。

《……大丈夫か》
「……ああ。俺は進むって決めたんだ」
《私は其れについていく》
「ははっ。それしかねぇよな。俺とお前は一心同体……」


「なぁ?千年前の“厄災”」
《そうだな。千年前の“勇者”よ》




To be continued.




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