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千年寝た勇者と千年後の旅物語Ⅴ

二人に言われた通りに端末を買い、そのまま連絡先を交換。

其れから部屋に戻り、魔力操作を教える。

「先ずは自分の魔力の色を知る所から始めねぇとな」
「「魔力の色?」」

首を傾げる二人の前で、自分の手に白の魔力を纏わせた。

「なんか、白いのが見える」
「此れが魔力」
「あれ?あの時、なんか黒いのもなかった?」
「アレは別物。兎に角お前等は自分の魔力の色を自覚しろ」

俺の言葉に二人は顔を見合わせる。

「取り敢えず目閉じな。俺が誘導するから」
「「うん」」

素直に目を閉じた二人の頭に触れた。

そのまま、少しだけ魔力を流す。

そうすれば、一時的な感覚共有が出来、何より彼等の中の魔力を刺激した。

 ポヤァ……

まるで太陽の光の様な強くて優しい黄色に近い白。

水面を写した様な煌めく青。

彼等から伝わってきたのは、そんな色。

「白?ちょっと黄色っぽい」
「僕は青、かな?湖が光を反射してる様な感じの」
「次は其れが大きく広がっていくイメージをしろ」
「広がっていく……」
「イメージ……」

もう触らなくても、目視で体から魔力を発してるのが分かる。

「其れを自分の手に集中させろ」

魔力が彼等の手に集まっていった。

……思ってた以上に才能あるな。

「はい、其処まで」
「「はっ……!」」

手を叩けば、二人は驚いた様に息を吸う。

「集中し過ぎて、息忘れてんぞ」
「あ……」
「はぁ、はぁ……確かに苦しい」
「今日は此処まで。後は毎日、意識せんでも出来るくれぇ繰り返す」
「「はーい」」

 コンコンコン

丁度いいタイミングで部屋がノックされた。

「ごめんねー夕飯の準備出来たよー」
「はーい」
「今日は終わりにして飯にするか」
「うん、そうだね」

そう話し、酒場の方へと降りると……中々に賑わっている。

案内された席に座り、此処のオススメを堪能した。

「今更だけど、目的地はどこ?」
「王都」
「王都?そこに何かあるの?」
「確認したい事があるんでな」
「確認しておきたい事?」

王都でアレを確認して、次は……

「帰って下さい!」

その時、鋭い声が聞こえてくる。

視線を向ければアリスと昼間シロに絡んでいた男が居た。

「だから、家に来れば酒場なんて所で働かなくても贅沢させられる……」
「いい加減にして。私はこの仕事好きだし、そんな事言う人の所になんか行くつもりはないです」
「あの人、また絡んでる……ちょっと行ってくる」

その様子を見ていたシロが立とうとした時……

「娘に絡むな。あんたは出禁にした筈だ」

男の腕を屈強な男性が掴む。

「なっ……こんな酒場潰してやってもいいんだぞ!」
「勝手にしろ」

娘って言ってたから、この酒場の主人って所か。

まぁ、中途半端な状態で止まったシロが可哀想だけどな。

「チッ!ふざけ……」
「「「あ」」」

男が苛立ちを隠さずに帰ろうとしたら、俺達と目が合った。

「てめぇ!あの時の!」
「あ、こっち来た」
「あ、惜しい。ご主人掴み損ねた」
「無視しとけ」

ズンズンと男が俺達の方へと近付いてくる。

其れを無視して紅茶を飲んだ。

「あの時は馬鹿にしてくれやがったな!」
「えー、と」
「こっちも美味いから食べてみろ」
「え?」
「う、うん」
「無視すんな!!」

男が振り上げた拳を片手で掴みながら、紅茶を飲み続ける。

「(ビクともしねぇ……!)」
「「(あ、魔力が籠ってる)」」
「アリス、悪いが紅茶のおかわり貰ってもいいか?」
「え、ええ……」
「この野郎……!」

コップを上に投げ、男を他のテーブルにぶつからない様に転がした。

「ぐぇ……」
「ああ、頼む」
「あ、ドウゾ」
「何で片言?」

落ちてきたコップを受け止め、其処におかわりを入れて貰う。

「さーて、此処じゃ邪魔になるからな……あ、戻って来るからそのままにしといてくれ」
「「「は、はい」」」
「ちょ、放せ!!」

男の襟を掴んで引き摺って外に放り出した。

「てめぇ、何しやがんだ!」
《私に任せてみないか?》
「あ?何でまた」
《お前の障害は私の障害だ》
「やり過ぎんなよ?」

中からは見られない位置に居るのを視認し、俺は目を閉じる。

「何ごちゃごちゃ言って……」
「《さて、どうしてくれようか》」
「は?」
「《この街の権力者か何かの様だが……ちょっとオイタが過ぎたな?》」

ニィイ……と笑い、顔に手を伸ばした。











「「あ、おかえりー」」
「おう」

席に戻れば、シロとニールも食後の紅茶を飲んでいる。

「あの、さっきの人は……」
「帰って貰った。この店に来ないように言い含めといた」
「「流石クロ」」
「ありがとう、クロ」
「お客さん。申し訳ありませんでした」
「いや、俺こそ勝手な事をしてすみませんでした」
「いえ……この食事と今晩の宿泊はウチのサービスで」
「そりゃ有り難い」

主人は何度も頭を下げてきた。

其処までされるのはな……

「……そういや、此処って随分歴史ある建物だな」
「ええ。約千年程の歴史があります。何度も改築してますけど」
「「千年!?」」

千年……俺が眠る前の時代、か。

「何でも千年前に祖先が勇者が作ってくれた街で、勇者との約束で作った酒場とか」

 『何れ此処で酒場を作って大きくします。貴方が美味しいと言ってくれた飯で!』
 『其処は食堂じゃねぇのかよ』
 『宿場も兼ねるので、何時か泊まりに来てください。美味しい酒、用意しときますから!』
 『……じゃあ、平和になったら祝賀会でもやらせて貰うか』
 『はい。お待ちしております』

あー……思い出した。

随分大きくなってから分からなかったわ。

「勇者って本当に居たのかな」
「お伽噺と言われてますが、私は信じています……私はこれで」

主人が厨房へと戻っていく。

「本当にありがとね」

アリスも仕事に戻った。

「クロって本当に強いよね」
「僕も護身術とか習いたいな」
「教えてもいいぞ」
「「マジで!?」」

少し冷めた紅茶を飲みながら、二人は目を輝かせる。

「取り敢えず基礎な。本格的なのは武器装置起動出来る様になってから……なら、朝に基本訓練で夜に魔力操作だな」
「「うわ、思ったよりキツそう……」」
「諦めろ」

ガックリする二人に笑った。

……今後の事を考えりゃ、多少ハードでもやって身に付かせねぇと。

「…………」

視線を受け、チラッと見れば明らか様に目を逸らす青年を視認する。

分かり易……

「何?」
「何でもねぇ。明日からやるし、明日の朝は叩き起こすから今日は早めに休めよ」
「「はーい……」」

「俺は先戻るからな」

「「おやすみー……」」
「おやすみ」

酒場を出て、宿の部屋に向かった。

「……あの」
「ん?」
「妹を助けてくれて、ありがとう……ございました」

声を掛けられて振り返ると、マッドが頭を下げてくる。

「俺が勝手にした事なんで」
「あの……勝手に話を聞いてすみません」
「ん?」

……ああ、俺達の訓練云々か?

「その、基礎の方……参加してもいいですか?」
「別に構わねぇけど、仕事はいいのか?」
「俺は宿場の方が主な担当なので……まだ余裕があります」
「そっか。まぁ、好きにてくれ」
「……はい。おやすみなさい」
「ありがとう」

マッドと別れて部屋に入る。

《相変わらず慕われるな》
「んな訳ねーだろ。お貴族様には嫌われてたし」
《お前の出身でどうこう言う奴の事なんか気にしてどうする?》
「いや、気にしてねーし。ピーチクパーチク煩せぇとしか思ってなかったし」
《ガルァだろう》
「ガルァ……って魔獣扱いか」


そして、翌朝から叩き起こして訓練を始めた。

マッドの参加もあり、翌日には街を出る予定だったのを変更して一週間程滞在している。

まぁ、授業料として安くして貰ってるからいいんだけど。

「シロ、休憩。マッド、来い」
「お願いします」

シロはフラァ……とニールの元に行き、マッドが俺の前に立った。

今は基礎の復習を兼ねた組手をしている。

「毎日ご苦労様」
「あ、アリス」
「まぁ、大分身に付いてきたけどね」

休憩中の二人にアリスが声を掛けた。

まぁ、シロは吸収力抜群でどんどん強くなってるし、ニールは俺以上の柔軟性で応用出来てるし、マッドも普段から力仕事してるらしく、一週間で大分身に付いている。

「お兄ちゃんも強くなったね」
「あのさ、アリスとマッドって……」
「似てないでしょ?血、繋がってないからね」
「「え」」

一瞬マッドに隙が出来、其れに対して地面に転がす。

「私、ちっちゃい頃にお父さん達の所に来たの。あんまりにもちっちゃかったから、どこから来たとか覚えてないんだけどね」

マッドを見れば視線を下に向けていた。

こりゃ、集中出来そうにねぇな。

「知りたいと思った事は?」
「あるけど、今が楽しいから」
「あ、それ分かる。僕も赤ん坊の時に村に来て、村長に面倒見て貰ったから」
「ニールも?」
「マッド休憩。続きは集中出来る様になってから」
「……すみません」

マッドはアリスの方へ歩み寄る。

「気になるなら、行けばいい」
「お兄ちゃん?」
「店は父さんと母さんと俺が居る……最近はアイツの襲撃も無い……それと」

マッドがシロ達の所に来た俺の方に向き直った。

「妹をお願い出来ませんか?」
「「え?俺達?」」
「…………」
「はい。俺が知ってるのは王都の方から預けられたって事なので。先生達も王都に向かうんですよね?」
「先生止めろ」

授業料貰ってるけど、先生呼びは止めろって言ってんだろ。

眠ってた年月加算しなけりゃ向こうが年上だし。

「……預かってた?」
「はい」

アリスの方を見れば、彼女は地面を見ている。

「任されるかどうかはアリス自身に決めさせる」 
「!すみません、一番は妹の気持ちでした……アリス、ごめん。勝手に決めようとして」
「う、ううん……いいよ」
「……今日は訓練終わり。全員集中出来んだろ」
「あー……」
「確かに」
「……明日だったけ?花祭の最終日」
「え、ええ」
「その翌日に出るつもりだから、今日じっくり考えな」

アリスの肩を軽く叩き、俺は部屋に向かった。

「クロ」
「ん?」
「アリス、本当に連れくの?」
「本人次第」
「そっか」
「無理強いは良くないもんね」

追い掛けて来たシロとニールと話しながら歩く。

「今日は明後日出発の為の買い物行くぞ」
「「はーい」」

……にしても、王都から預けられた彼奴そっくりの娘ねぇ。

もしかすると、だな……。




To be continued.

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