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千年寝た勇者と千年後の旅物語ⅩⅤⅠ


翌日には俺達は出発した。

次に目指すのは鍛冶の街と言われた『プロクス』。

恐らく其処に居るのは火に特化した……元家族。

「…………」
「……ックロ!」
「!どうした、シロ。大声なんか出しやがって」
「あ、えっと……次は何処に向かってるの?」
「ああ……『プロクス』つー街だ」
「『プロクス』?聞いた事があるのだ」
「へぇ」
「確か……かつて鍛冶の街として有名だったが、何かが原因で滅んだと……」

プロクスも滅んだのか……。

俺が眠る前は、重要な街でもあり職人の街として賑わってたんだけどな。

「……クロ、プロクスはどんな街だったの?」
「所謂職人の街で、昼も夜も賑やかったな」
「「「へぇ」」」
「……ノエルも、その街は好きだった?」

ニールからノエルの名前が出て来たのに驚いて、思わず彼女を見詰める。

其れにニールはにっこり笑った。

「あ、ああ。まあ……よく酒場で歌姫やってたわ」
「そっか。水の歌姫だもんね」
「!何で彼奴の渾名知ってんだ?」

ニールの前で渾名なんて話したか?

いや、そもそも家族の話なんざしなかったと思うんだが……

「ひ、み、つ」
「か、かわ……」
「?」
「「「重症だな」」」

ニールの悪戯が成功した様な笑みにツバキがノックアウトされる。

「おーい、大丈夫かー?」
「早く復活しないと置いてくよー」
「ふふ、ニールってば可愛いんだから」
「え?急に何の話?」
「アリスも可愛いよねー」
「ミッ!?」
「お前等の村では口説く教育でもしてんのか?あと、鈍感なのは性質か?」
「「それな!」」
「「?」」

和気藹々と進む一方で、時々魔獣に襲われた。

襲ってくる魔獣は段々強くなってきている。

それよりもシロ達の成長スピードが速いお陰で、普通に倒して経験値にしていった。

そして……

「着いたな」
「此処が『プロクス』」
「そ。職人の街であり……洞窟の街だ」

プロクスは洞窟内に作られた大きな街。

洞窟内という事で太陽の光こそ無いが、その分街の奴らが明るくこの街を照らしていた街。

「……居るとしたら一番奥の大窯がある所だろ」
「大窯?」
「おう。まぁ、神聖て事で俺が其処に入ったのは一回位だな。だから、道間違えたらすまん」
「「「「え」」」」

俺の言葉にピシリと笑う彼等に思わず笑う。

本当、仲良いよなコイツ等。

「ほら、置いてくぞー」
「え、ちょ、待って!」
「流石にこの中で置いてかれるのはマズい」
「待ってよー!」
「ちょっと、待ってほしいのだ!」

慌てて追い掛けてくる彼等に俺はまた笑った。

「……誰だ?」
「「「「え?」」」」
「大人しく出て来い」

と、人の気配を感じて足を止める。

「……そっちこそ、誰さ。こんな滅んだ街に何の用ってんだい?」
「「「「女の人?」」」」

壊れかけの家の陰から出て来たのは、一人の女性だった。

「この奥の大窯に用があんだよ」
「何百年も前に火が途絶えた大窯に?」
「おう。俺はクロ。で、お前は?」
「……リザ。この街にあるっていう石を取りに来た」
「石って……」

シロがチラッと俺とニールを見る。

まさか、輝石の事か?

「石ねぇ。どんなのだ?」
「なんか、火みたいな石だってさ。ババ様が取って来いって」
「……不要の長物。お前やそのババ様が持ってても仕方ねぇだろ」
「ッ馬鹿にするなよ!こう見えてもアタシは勇者の仲間だったナギの子孫なんだから!」
「!」

その言葉に女性……リザを見詰めた。

……ああ、そうか。

ナギの嫁のお腹にいた子の……

「っは、そうかい。そりゃ失礼した」
「クロ、見覚えある?」
「あー?千年も経ちゃ分んねぇっての。つーか、まだ祖先の事が伝わってんのが奇跡だ」
「「「「確かに」」」」
「は?何であんたが見覚えあるって話になんのさ」
「「「「クロがその勇者だから」」」」
「は?はぁあああああ!?」





「…………」

遂に、火の輝石があるだろう大窯へと辿り着く。

俺達は視線を交わし、其々武器を構えた。

其れになんか着いてきたリザも武器を出す。

……なんか普通に俺等みてぇの持ってんだけど。

 ゴォオオオオ!

と、轟音と共に大窯が燃え……炎の体をしたゴーレムが姿を現す。

「ニール!今回はお前に活躍して貰うぞ!」
「了解!」
「シロ、お前は今回も微妙だからな!」
「マジかー!」
「アリスは今回は水主体で頼む!」
「オッケー!」
「ツバキはニールの援護!近付けさせんな!」
「無論!」
「あ、アタシは!?」

リザの声に振り返った。

リザの持ってる……チャクラムか?からは風を感じる。

「お前は……相性最悪だな」
「ヘッ?」
「アリスの援護してろ。お前じゃ歯が立たねぇ」

リザの頭を軽く撫で、俺はシロと共に駆け出した。

やはり、今回も苦戦する事無くゴーレムを倒す。

「……シロ。此れはお前が持ってろ」
「あ、うん……リザはいいの?」
「んー……渡してみ?」
「え?」

俺から輝石を受け取ったシロはリザに差し出した。

其れにリザが触れた時……

「熱っ」
「わっ」

落ちそうになる輝石を慌てて受け止めるシロ。

「輝石はそうやって人を選ぶ。相性が悪ぃリザにゃ持てねぇよ」
「それって、アタシ最初から詰んでるじゃん!」

確かにな。

「……クロ」
「!」

アリスに呼ばれて振り返ると……その手には魔法石が。

其れに手を伸ばした時……

 『ホムラ。本当に行くのか』
 『……ええ』

其処に映し出されたのは、シロトと一人の女性。

 『ごめん、ホムラ』
 『いいのよ。元々押し掛けたのは私だし、貴方にはやる事もあるのだから』
 『……ホムラ……』
 『其れに、私は幸せよ?最後に、貴方との証を残せた』

シロトの腕の中には赤ん坊が居る。

 『大好きよ。今も、昔も』
 『……うん、俺も……』

 『どうか、この子の子孫が自由に、恐れもない世界を作ってね?クロ兄』

「……ホムラ」

……本当に馬鹿な事を……結ばれたなら、母親になったなら……

「気にせずに幸せになるべきだったんだ……」

目元を手で覆いながら呟いた。

ああ……涙って、出ねぇもんなんだな。

「……幸せって言ってたなら、幸せなんだよ」
「!」
「きっと、そうだって思う」

真っ直ぐな瞳を向けてくるニール。

……くよくよしてる暇なんざねぇよな。

「今日は泊まるか?それとも出るか?」
「折角だから泊まって色々見たいのだ」
「……付き合うよ、ツバキ」
「つき……」
「?」
「な、何でもないのだ。行こう、ニール」
「うん」
「俺達も色々見て来ない?」
「そうね。リザさんも行こう?」
「え?う、うん」

皆が行き、一人になった事で目を閉じる。

基本的にこういう時、彼奴は出て来ない。

「……作ってやるさ」

この命に代えてもな。




───その日、シロは夢を見た。

『クロ兄、私ね……いつかお母さんになりたいの』
『お母さん?』
『うん。本当のお母さんは知らなけど……なれるかな?』
『ホムラは優しいから、きっと素敵なお母さんになれる』
『本当?嬉しい』

何処かシロに目元が似ている少女が手作りと思われる人形を抱えて微笑む。

『お、いいの着けてるな、ホムラ』
『うん。シロトがくれたの』
『良かったな』
『私、やっぱりシロトが大好き……あ、クロ兄もだよ!』
『いや、別に其処気にしてねぇけど』

『ホムラは……アモル、なんて如何だ?愛情深いホムラにいいと思うんだが』
『ええ、ありがとう』
『うん、ホムラによく合ってる』
『ふふ、そう言って貰って嬉しいわ』

「……本当に幸せだったんだね」



To be continued.

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