千年寝た勇者と千年後の旅物語ⅩⅠ
翌日。
俺は牢から出され、何処かに向かわされる。
まぁ、予想はつくが。
「厄災を連れて参りました。勇者―クロードよ」
「ええ、ありがとうございます」
此奴、ちゃっかり俺の名前使いやがって。
俺が連れて来られたのは、謁見の間の様だ。
玉座に座る国王らしき男とその側に立つ青年。
「その者が、件の厄災か」
王は憎しみを込めた目で俺を見て来た。
「其方の所為で我が息子は……」
……王子は魔獣にでも殺されたか。
其れで元凶と思い込んでいる俺を恨んでいる、と。
「その上、我が娘を狙い王都に入り込むとは……其れも何も知らぬ一般人を巻き込み、己も一般人と化すとは随分ズル賢いな」
俺がシロ達を連れてたのは別の理由だけどな。
で、その娘ってのが……更に奥に居る、俯いた娘か。
「王よ。この者を殺す事をお許し下さい」
「無論、直ぐに殺せ」
女が武器装置を跪かされている俺の首に当てようとした時……
「ちょっと待って!!」
「「「「「!?」」」」」
扉を勢い良く開けて、シロが入って来る。
その後ろにはツバキを筆頭にニールやアリスが居た。
「ツバキ!コレは……「クロは!魔獣に狙われてるんだ!そして、魔獣を倒してる!行く先で、出来るだけ巻き込まない様に!何で災厄自身がそんな事をするの!?」なっ」
女の言葉を遮る様にシロが言う。
「俺の叔父さんが侵食された時も助けてくれた!クロは災厄なんかじゃない!!」
「その意見には僕も賛成。そもそも、何で僕達の近くの村に居たの?それも計算だって言うの?」
「クロは、私を助けてくれました。私は、クロを信じています」
アリスが言いながら前に出ると、皆が騎士や王側が驚いた顔をした。
「まさか、アリス……!?」
「え?」
「貴女がアリス、なの?」
奥から娘が出て来る。
それに今度はシロ達が驚いた顔をした。
「そっくり……?」
娘は、アリスと瓜二つ。
「ほう?まさか、姫巫女がもう一人居たのか」
「!」
青年が呟くと同時に、足に力を込める。
ガキィン
「む」
「チッ!壊れねぇか!」
娘の背後に迫っていた仮面の男の刃を枷で受け止めた。
枷は壊せず、刃を弾いただけだったが。
「詰めが甘ぇんじゃねぇか?」
「今の時代なら十分だ。実際、お前が居なければ姫巫女は死んでいただろう」
「そりゃ否定出来ねぇわ」
男は青年の方へと降り立つ。
俺も娘を王の方へ押して、対峙した。
「どういう事ですか!!勇者よ!!」
「私は勇者等ではない。真の勇者はその男だ」
青年の言葉に俺に視線が集まる。
「姫巫女に裏切られ、望まぬ眠りに落ちた哀れな勇者は、な」
「「「「「!?」」」」」
「うるせぇ。否定はしねぇよ……で、お前の目的は姫巫女殺しか?」
「ああ。受け取り手が居なければ、この時代の勇者は生まれず、戦えるのはお前だけとなる」
「馬鹿か?勇者以外が戦えるようにしたのは俺だぞ?」
シロ達が俺の方に駆け込んで来た。
騎士達は王の周りに集まっている。
「つーか、お前誰だよ。クロード、なんて使いやがって」
「我が名もクロードだ」
「マジか」
「お前を基にして生まれた存在だからな」
……言われてみりゃ、目の色は赤だけど髪は俺と同じ黒で似てる気がしなくもない。
《そっくりだと思うが?》
「そうか?」
「?」
「やはり、其処に居るのか」
青年─クロードは俺の心臓辺りを見てきた。
「裏切り者は」
「悪ぃが、此奴は俺のものなんでな」
《クロ……》
「さーて、そろそろ退場願おうか?」
「……いいだろう。姫巫女を狙ったのはお前が目覚めるまでの暇潰し。此れからはお前が死ぬか、我等側に来るまでお前に相手してもらおう」
「後者は絶対ねぇから、死ぬまで相手してやるよ」
ブワァ……
俺が返した直後、目を開けられない程の突風が吹き……目を開けた時には姿がない。
「?えっと……??」
「大丈夫か?シロ。なんかバクってるけど」
「うん、あの……今のは?」
「新しい時代の厄災だな」
「で、そのクロは……」
「……クロード・ノワール・カンザキ。其れが俺の本名。で、今から千年前に当時の厄災と戦ってた」
「「「「クロが……勇者!?」」」」
彼等が叫ぶ様に言った言葉。
其れが……凄く複雑だった。
この後、勿論王族側はパニック。
俺にひたすら謝り、直ぐに向こうのクロードを追い、騎士は責任を取ると言う始末。
「ハッ。どーでもいい。俺が勇者らしくねぇのは分かってるし、否定もせずに捕まってたからな。つーか、謝る前にコイツを取ってくれ」
「!す、すみません!!」
「えっと、クロ……じゃなくて、勇者様が…「クロでいい。そう呼ばれてたしな」…あ、うん。クロが王都に来たがってたのって」
「あのクロードが騎士団に入り込んでいるのを確認する為?」
「そっちはついで。俺が確認してぇのは他にある」
俺は例の姫を見る。
姫巫女は酷く動揺しているらしい。
「あのクロードは王族に関係あったのか?」
「……例の者は、その……亡くなった騎士団長のご子息で、姫の幼馴染みなのだ」
あー……成る程ね。
だからあっさり勇者って事も受け入れられた訳か。
となると、新しい時代の厄災は……
「本当に申し訳ありませんでした。我々騎士団は貴方の為に……」
「そういうのはいい。なぁ、この王都で古い書物を置いてんのは?」
「え」
「王立図書館なら揃ってると思うのだ」
「ツバキ、勇者様に対して敬語を……」
「そういうのはいらねぇ。其処にあるだろう記録の本の閲覧と、旧王都……この時代で言う聖域って所に行きてぇ。少しでも悪いって思うなら、便宜図ってくれるよな?」
「うむ。直ぐに手配しよう」
「まぁ、其れは明日でいいや。流石に疲れたし……あと、何処か泊まれる所が欲しい」
「ならば城に」
「断る。牢は仕方無かったけど、出来れば城になんざいたくねぇ」
王に対しても、特に敬意とか無く言った。
「なら、私の家は?」
「おう。其れならいいわ」
「提案しておいてだが、即決過ぎるのだ」
「お前、ソノダの家系だろ。なら問題ねぇ」
「!知っていたのか……確かに私はツバキ・ピアンタ・ソノダなのだ」
「自己紹介必要だったか?」
「あ」
「「「確かに」」」
俺達の会話に笑うシロ達。
……やっぱり、此奴等と居る方が気楽でいい。
「ツ、ツバキ!?いきなり私達の家にお誘いするなど……!」
「クロは金持ちの家は多分好きではないと思って……」
「だからと言ってあの家に!?」
「どうせソノダの事だから、植物だらけの一般家庭系で使用人も少ねぇ……一人か二人って所だろ」
「「∑」」
俺の言葉にツバキとその姉の女騎士が硬直する。
当たりか。
「ツバキ、案内してくれ」
「う、うむ」
「では失礼する」
王に背を向けて歩き出した。
其れにツバキが慌てて追い掛けて来て、シロとニールが会釈して追い掛けてくる。
最後にアリスが姫を見詰めてから追い掛けて来た。
「……此処が家なのだ」
「「「「おお」」」」
ツバキの家は、少し大きい一軒家でという感じで、様々な植物が庭や壁を覆っている。
「リンドウが好きそうな家だ」
「え。あ、そうか。ご先祖様と同期なのか」
「同期っつーか……」
出身が同じだしな……。
其れにしても……
「ご先祖様、か」
「ぁ……」
「……ねぇ、クロ。姫巫女が裏切ったって……」
「気が向いたら話してやる」
「おや。お帰りなさい、兄上」
「!ただいま、レン……またそんな格好をして」
話していると、庭の方からオーバーオールに麦わら帽子を被った、一見すると庭師風な少年が現れた。
ツバキは苦笑しながら少年に歩み寄る。
「ツバキの弟?」
「う、うむ」
ニールに聞かれ、少し照れた様にツバキが頷いた。
「初めまして、お客様。ソノダの末っ子、レン・フロル・ソノダです」
「!」
フロル……末っ子が継いでるのか。
『よし。絆の証に名前をもう一つ作ろう』
『突然過ぎだな、ナギ』
『ふむ……なら、クロはノワールなんてどう?』
『流石アヴ兄、早いね』
『じゃあ、お前はリーヴル』
『分かった』
『……アヴ兄、ズルいのだ。私もクロ兄から承りたい』
『はぁ?』
『僕も!』
『むぅ。兄さんは俺の兄さん!』
『クロ、お願い』
『~~ったく。じゃあ、ツバキはフロル。ノエルは……』
……まぁ、継いでるだけマシか。
「ああ、客が増えた事を婆やに知らせなければいけませんね」
「ねぇ、この花は何?あ、僕はニール」
「え」
「それはナデシコです」
「へぇ、綺麗だね。君が育てたの?」
「ええ。趣味なので」
「凄いじゃん」
ニッと笑うニール。
「…………」
その顔を見た少年、レンの顔が徐々に赤くなる。
逆に青ざめるツバキ。
「「「……罪作りな」」」
「?」
「「なっ……」」
取り敢えず俺達はツバキの家に入れて貰い、俺は直ぐに休ませて貰った。
《……クロード……クロに似せて作られた者。相変わらず上は残酷だな》
・クロード……本名クロード・ファルシュ・ウタガワ。黒髪に赤い瞳を持つ。現代の災厄。
To be continued.
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