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千年寝た勇者と千年後の旅物語Ⅳ

「よっと」

アレから俺は一先ずシロたちが通う学校がある隣街に行き、其処から乗り合いバスで大きな街へとやって来た。

やっぱり村や田舎の街と違って、大きな街は賑わっている。

人にぶつからない様に進みながら、案内所と書かれた建物に入った。

「ようこそ、パーチへ。ご用件は?」
「ついさっきこの街に着きまして。泊まれる所はありませんか?」
「少々お待ち下さい……ご希望はありますか?」
「なるべく安い所で」
「それでは……酒場『ハートランプ』はどうでしょうか?酒場で賑やかですが、安く泊まれる宿場も経営しております」
「じゃあ、其処で」
「では、此方から予約をしておきましょう。お名前をお聞きしても?」
「クロで」
「クロ様……予約完了しました。今、丁度花祭を行っています。良ければ参加して下さい」
「ありがとう」

ふぅん……祭があるから余計に賑わってんのか。

案内所を出ると、街の彼方此方に花が飾られてるのが視界に入る。

花祭、ね……。

 『シロト、見て見て』
 『え?うわぁ可愛い!どうしたんだよそれ』
 『お兄ちゃんに作って貰った、お花の髪飾りなの』
 『いいなぁ。兄さん!俺も欲しい!えっと、羽のヤツ!』
 『分かった分かった』

「ようこそ、パーチへ」
「!」

ボーっと考えていたら、花を差し出された。

目の前には金髪の少女が小さな青い花を此方に向けている。

その少女の顔に思わず目を瞠った。

「……おう、ありがとな」
「どういたしまして!楽しんでいってねー」

去って行く少女。

彼女は行き交う人々に笑顔で花を渡していく。

 『お兄ちゃん』

「……勘弁してくれ」

呟いた後、花を見詰めた。

……此れ、栞に出来そうだな。

花を魔法で作った異空間にしまい、乗り合いバスの停留所へと向かう。

次の街に行く翌日以降の時間は……

 ツンツン

「?」

背中を突かれて振り返る。

「やっほ、クロ」
「どうも」
「……は?」

其処に居たのは、シロとニールだった。

「な、ん、で、お前等が居んだよ」
「クロを追い掛けて来た」
「僕はシロだけじゃ心配だからついて来た」

街の中を歩く俺について来る二人。

何でもシロはただ結界に護られるだけじゃ嫌な上に、叔父の封印されている紋様を何とかする為に俺を追い掛けて来て、ニールは其れについて来たらしい。

「……俺は狙われてる。命の保証は出来ねぇ」
「それでも!それに、叔父さんに貰ったんだ」
「?」

シロとニールは俺が渡された黒い棒を取り出して見せて来る。

「ただ、起動出来なくて……」
「つーか、此れ何?」
「武器装置って言って、一応自衛の為に配布されてるヤツ。まぁ、村長から貰ったコレは改造バージョンみたいだけど」

俺も武器装置とやらを取り出して見詰めた。

「多分、魔力を流して起動させるんだろう」
「……俺、魔力無いんだけど」
「僕も……」
「魔力は誰にでもある」
「「!」」

魔法こそ女神に与えられたものだが、魔力はどんな奴でも持ってる。

魔法はその魔力を使う為の術式だ。

試しに二人の額に触った。

「……意外だな。お前等二人共相当な魔力量だぞ」
「「マジか」」
「……ついて来るっつーなら、教えてやる」
「「お願いします」」

……今後の事を考えれば、必要な事だろうしな。

 ─♪──♪

その時、音楽が流れて来る。

「あ、アソコ」

ニールの指さす方を見ると、先程花を渡してきた少女や他にも数人の少女が音楽に合わせて踊っていた。

時々花を撒いている。

「うわぁ、何か楽しそう!」
「花祭っつってたが……本当に花尽くしだな」
「花祭……ね」

最後に少女達が花束を投げた。

「っと」
「「あ」」

その内、あの花渡しの少女が投げた花束をキャッチする。

「コレって、貰っていいのかな」
「「いいんじゃない?」」
「おい!お前!」
「「「?」」」

荒げた声に視線を向けると、数人の取り巻きを連れた男がシロを睨んでいた。

「えっと、何?」
「その花を寄越せ!」

俺達は顔を見合わせる。

何だ、花を寄越せ?

「何で?」
「お前には関係ない!いいから花を……」
「ちょっと、止めなさい!」

っと、今度はあの花渡しの少女が割り込んできた。

「ア、 アリス……」
「この花束は最初に受け止めた人の物!それ位は知ってるでしょ!」
「だけど、お前の花を受け取るのはこのグレイス様だけだ!」

面倒臭そう……。

「え?お兄さん、この子が好きなの?」
「「「「え」」」」

何で、そんなハッキリ聞くんだ……シロ。

「だって、この子が好きだから花束横取りしたいんだろ?でも、逆効果じゃないかな?この子怒ってるし。この子はそういう乱暴な事は嫌いなんじゃない?」
「「ええ……」」

シロって、確かに天然っぽい所あるが……。

「っふざけんなよ!」
「っと」

男がシロを殴ろうとした手を流し、そのまま足払いをして転ばす。

「ぐえっ!」
「「カッコいい……!」」
「無理に掴んだりしなくても、こうやって力を流せば隙が出来る」
「「成程」」
「ぼ、坊ちゃん」

俺がシロ達に教えると、取り巻き達が男を起こした。

「なぁ、花まだ持ってるか?」
「え、ええ?」
「何するの?」
「僕達もやるよ」
「おう」

二人に残った花を渡し、耳打ちする。

「やっちまえ!」
「「「はい!」」」

取り巻き達が迫って来た。

其れを俺は片っ端から転がしていき、そんな奴等に二人が花で飾り付けしていく。

「「「……っく、ははは!」」」

ついでに男をもう一回転がせば、二人が豪勢に花を飾り付けた。

厳つい系の男に無駄に可愛く飾られた花が笑いを誘い、俺達は一緒になって笑う。

「ふ、ふふ……!花祭っぽくなったわね……!」
「~~~~覚えてろよ!」

男は取り巻きを連れて逃げて行った。

「あはは、クロってば」
「なんで急であんな事思い付いたの?」
「嫌がらせは慣れてる」
「本当に面白い人達だね」

まだ笑ってると、少女が声を掛けて来る。

「私、アリス」
「俺はブラン。シロって呼ばれてるけど」
「僕はニール」
「クロだ」
「お花ありがとう!それに踊りも綺麗だったよ!こんな可愛い子から花束貰って嬉しかった」
「…………あ、ありがと」

満面の笑顔で言うシロにアリスは顔を赤らめて目を逸らした。

「「……天然タラシ」」
「?」
「あ、え、えっと、今日どこに泊まるの?」

慌てて取り繕った様な声に俺はニールとこっそり笑う。

「えっと、俺達はまだ」
「俺は案内所で『ハートランプ』に予約して貰った」
「『ハートランプ』は私の家だよ」

へぇ、酒場の娘なのか。

「急遽二人増えても大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。ちょっと待っててくれる?家まで案内するわ」
「そうだな……あの店で待つか」
「「賛成」」
「オッケー、待ってて」

駆けて行く少女を見送り、俺達は近くの茶屋に入った。

「アリスって、可愛い子だったね」

俺の正面、ニールの隣に座ったシロがそう話してくる。

「シロはああいう子がタイプなのか?」
「え?どうだろう?可愛いとは思うけど……」
「シロは恋愛じゃなくて、友情を優先するタイプだから」
「……ああ」
「??」
「ご注文はお決まりですか?」
「カフェオレを」
「僕も」
「オレンジシュースで」
「かしこまりました~」

其れから運ばれた物を飲みながら談笑した。

「ごめん、お待たせ」
「あ、おかえり?」

少しして、着替えたアリスがやって来る。

「その格好もなんか馴染みやすくて可愛いね」
「え、あ、ありがとう」
「……シロ、ちょっと退いて」
「?うん」

シロを退かしたニールは一度席を立ち、自分の居た所に彼を押し込んだ。

俺も察して奥に詰めれば、ニールは俺の隣に座る。

「??」
「お、お邪魔します……」

そして、シロの隣にアリスが座った。

「アリスは何飲む?」
「そうね……チョコラテにしよっかな」
「うわぁ、甘そう。俺も飲みたい」
「勝手に頼め……距離近くね?」
「ごめん、それ僕の所為」

シロは躊躇い無くアリスに近付いてメニュー表を見せている。

肩が付きそうな距離に苦笑した。

軈て其々の頼んだ物を飲み終え、俺が支払って『ノエル』に向かう。

「急にごめんね?俺達まで……」
「大丈夫だよ?家は元々飲み潰れた人用の部屋もあるし、余裕自体はあるの」
「そっか。良かった~」

前を歩く二人を少し遅れて俺とニールはついて行った。

「ここが『ハートランプ』!さ、入って!」
「…………」

着いた建物は、この辺では珍しい木材で俺に馴染みのあるもの。

「へー、変わった建物だね?」
「歴史があるからね~。ただいまー」
「「おかえり、アリス」」
「ついでにお客さん連れて来た~」

出迎えたのは、茶髪の女性と青年。

「いらっしゃい!」
「……いらっしゃいませ」
「母で女将のクイナと、兄のマッドよ。今は厨房に入ってるみたいだけど、父のキングス。四人でやってるの」
「「へぇ」」
「クロです」
「ああ、予約の!増えたというのもアリスから聞いてるわ……マッド、部屋に案内して」
「分かった……此方へ」

部屋に案内され、俺達は荷物を置く。

因みに其々別室を貰えた様だ。

《あの娘、随分似ていたな》
「……確かにな」
《存外、転生体かもしれんな》
「そこまで知るかよ……そういや、この宿見覚えあんな」
《そうか?》
「ああ、どっかで……」

 ガチャ

「クロー!街に行こー」
「ノックくらいしやがれ」

いきなり扉を開けて来たシロの額を突っついた。

「アイタ」
「今のはシロが悪い……で、相談なんだけど、端末買いに行かない?」
「端末?」
「色々機能あるけど、メインは離れた相手との連絡取る感じ。クロと合流しようと思った時に無いの不便だと思って」
「あー……確かにありゃ便利か」
「という訳で街に行こう!」
「……分かったよ」
「やった!」

其れから二人に手を引かれて街に繰り出す。

この時は、大きな影が街に近付いてるのに……全く気付かなかった。





・アリス(16)……本名アリス・ムカワ。金髪の長い髪に緑色の瞳を持っている。


・マッド(20)……本名マッド・ムカワ。茶髪に青の瞳を持っている。

・クイナ(39)……本名クイナ・ムカワ。茶髪に黒い瞳を持っている。

・キングス(42)……本名キングス・ムカワ。紺色の髪に青の瞳を持っている。




To be continued.

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